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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2019年2月26日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
免許取りたてのJくん(22歳・会社員)は、最初の愛車としてちょっと古いクルマを選んだ。お金に余裕がないからというのもあったが、その中古車は自分が十代の頃に憧れていたクルマで、当時は名車の誉れも高く、どうしても一度自分で所有してみたかったからだ。
とはいえ、納得できる一台に出会うまでにはそれなりに苦労した。2ヵ月ほどかけて大小の中古車取扱店を十数軒も巡り、「もう、程度がいいのがないのかも」と諦めかけた頃、ようやく遠方にある個人経営の中古車ショップで価格的にも折り合え、程度もまずまずのものを見つけることができた。探し回った末の発見の歓びはひとしおで、Jくんは、その場で購入を決意したのだった。
納車されてからのJくんのカーライフはすこぶる快調だった。愛車は発売から十年近く経ているとはいえ、よく走り、気持ちのいいドライブが楽しめた。しかも、こだわりのクルマ故に仲間内でも受けがよく、自己顕示欲もしっかりと満たされた。Jくん、「オレって、見る目あるじゃん!」と改めて自分のチョイスを自画自賛したのであった。
が、災いは突然にやってくる。納車から1年と少しの時が経った、ある週末、はじめての500㎞超えの遠出ドライブの途中、エンジンがいままで聞いたことのない不穏な音を奏で出した。Jくん、「ん?」と思い、とっさにブレーキをかけて路肩にゆるゆるとクルマを寄せたのだったが、その間にもエンジンからの異音はより明確に響いていた。Jくんあはわててエンジンを停止させ、「フーッ」と一息ついた。異常事態だった。
それでも、Jくんは落ち着きを取り戻し、「ああ、エンジン、ダメかもな」とつぶやいた。同時に「好きこのんで古いクルマに乗っているわけだから、こういうトラブルは付きものってことだよね」と、いっぱしのエンスー気取りでクールに苦笑いした。
ドライブ先でのエンジントラブルという事態の割りにJくん、余裕綽々だったわけだが、その理由は「自動車保険に車両保険を付けているから、それで修理代を出せばいいや」と考えていたからだった。事実、そそくさと契約している任意保険のコールセンターに電話をしてロードサービスを依頼するついでに、オペレーターに対してこんな質問を投げかけた。
「僕、車両保険に入ってるんですけど、修理代を補償してもらうためには、やっぱ、警察を呼んでおいたほうがいいんでしょうかね?」
それを聞いたオペレーターの女性は、一拍おいてから低い声でこう返してきた。
「Jさま、故障は事故ではないので警察を呼ぶ必要はございません。それから、たいへん残念ではございますが、それと同じ理由で、車両保険によって修理費用を補償することはできません。Jさまが中古車保証を付けていらっしゃるなら、それでご対応いただくことになると思います……」
Jくん、事ここに至ってやっと表情を強ばらせ、ワナワナと震えだした。車両保険が故障に適用されないという事実を初めてはっきり認識したからだ。それに、中古車保証などというものは愛車に一切付けてはいなかった。というか「中古車保証って、なに?」と思うほどに、それは初耳の単語だった。
結局、エンジンをしっかり修理するとしたら、数十万円もの額を自腹で払わなくてはならないことが判明し、Jくん、致し方なく愛車を廃車にする道を選んだのであった。うーむ、迂闊すぎ。
「損傷は保険、故障は保証」
という認識を持つ
クルマの世界には、「損傷は保険、故障は保証」という格言のような常套句があります。長い間、古いこだわりのクルマを乗り継いできている人たちなら、おそらく知っている言葉です。
しかし、残念ながら免許取りたてで、初めて中古車オーナーとなったJくん、この言葉についてはまったく知らなかった模様。初っぱなからこだわりのクルマを選んだのはいいとしても、それに見合うだけのキャリアというか、見識が大いに不足していたようです。
まず、「損傷は保険」について確認しておきましょう。
任意の自動車保険に付帯する車両保険の補償は、オペレーターの女性がいっていたように、あくまで事故による損傷に対してしか保険金が支払われません。
車両保険には、一般型とエコノミー型があり、一般型であれば自分の運転ミスなどによる自損事故の損傷に対しても補償されるようになっているのですが、それでもやっぱり対象は事故による損傷のみであり、Jくんが直面したような故障は補償の対象にはなりません。
このことは、保険の説明書や約款にもしっかりと書かれています。また、保険代理店の担当者からも、当然ながら口頭でその旨の説明が行われたはずです。それなのに、Jくんは、自分勝手な思い込みをしてしまっていたようです。自業自得とはいえ、なんとも困った話です。
中古車を購入する場合、新車を購入する場合以上に、自動車保険についてよく調べて自分の考えに合った契約内容にする必要があります。特に車両保険については十分に検討しなければなりません。
たとえば古くて車両価値が残っていないクルマは、時価額も低くなっていて、事故を起こしたとき全損扱いになる可能性も高くなります。この場合、車両保険に入っていてもあまり意味がありません。
でも、10年落ち未満であれば事故の備えとして検討する価値はあります。また、ローンを組んで購入した場合などは、ローン支払い中の事故に備える必要もあるでしょう。
とにかく、Jくんのように、「自動車保険に入っているから大丈夫」という安易な意識ではなく、「自分のクルマ、そしてカーライフに合った自動車保険とは?」としっかり悩んでおくべきなのです。
そうすれば、「損傷は保険、故障は保証」という話も自ずとインプットされるはずです。
「損傷は保険、故障は保証」という言葉を深く胸に刻もう!(前編)
「損傷は保険、故障は保証」という言葉を深く胸に刻もう!(後編)
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