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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2024年6月13日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
山あいの小さな町役場に勤めているIさん(29歳)は、ある週末、隣の市まで買い物ドライブに出かけた。
あれこれ物色した末に、欲しい物を安く手に入れ、帰りは気分アゲアゲとなった。
だが、浮かれすぎて注意力散漫だったらしく、信号待ちしていたクルマにガツンと追突してしまった。寸前に急ブレーキを踏んだため、人身事故には至らなかったものの、相手のクルマのリアはベッコリとへこんでいた。
相手ドライバーは同じ町に住む中年男性だった。役場で何度も顔を合わせている。Iさんは気まずさを覚えつつ、素直に謝罪の言葉を口にした。
「私の不注意で起きた事故です。すみませんでした」
現場に駆けつけた警官も、Iさんが全面的に悪い事故と判定。過失割合はIさん100%で相手0%となり、相手のクルマの修理代はすべてIさんが契約している自動車保険(ネット型)の対物賠償で賄うことにした(自分のクルマの修理代は自分の車両保険を使うことにした)。
その段階では、事故を起こした後悔や来年の保険料がアップすることなど残念に思うことはいろいろあったが、この補償が済めば一応の決着が見られるわけで、そう考えると多少は安心できた。やっぱり自動車保険は頼りになる。
だが、現実はそう甘くなかった。
事故から1週間経ったある日、役場での勤務中に相手の男性が突然訪ねてきて、大声でこう訴えたのだ。
「クルマの修理代は50万円するとわかった。なのにあんたが契約している保険会社は30万円の補償が限度と言ってきた。ひどい話だ。保険会社が全額出さないというなら、残りの20万円、事故を起こしたあんたが出してくれ!」
いきなりの訴えにIさんはたじろいだ。そして、同僚や来訪者などからのいぶかしげな目線におののいた。その場はなんとか取り繕って男性に帰ってもらったが、このまま事が収まるとは到底思えなかった。
とりあえずIさんは自分が契約している保険会社に電話し、本当に30万円しか補償されないのかを確かめた。すると担当者はあっさり「はい、30万円の補償で間違いありません」と返してきた。
「理由は被害に遭われた方のクルマの時価が30万円だったからです。対物賠償保険は時価額以上の補償はできないのです。これは法律的にもそのようになっています」
電話を切ってからIさんはどうすべきか迷った。できれば20万円は出したくはない。しかし、相手の男性は、それでは絶対に納得しないだろう。たぶん今日みたいに役場に乗り込んできて、足りない分の賠償を再び要求してくるに違いない。そうなると仕事に支障が出る。小さな町ゆえ変な噂も広まってしまう。例えば「あの役人は自分が悪い事故を起こしても、ちゃんと賠償しない無責任な人みたいだよ」とか……。それは非常に困る。
悩みに悩んだ末、結局Iさんは男性の要求をのんで残り20万円を自腹で支払うことを決めた。法律上は支払う義務がないにしても、自分が全面的に悪い事故であるという引け目があるし、小さな町で生きていく上で人付き合いが重要だと考えたからである。
この決断をしたとき、Iさんは「これって『和を以て貴しとなす』という高邁な精神の発露だよな」と自分を慰めるように独りごちたのだが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
対物無制限でも
補償は時価額まで
交通事故で他人のクルマなどを壊してしまったときに、その損害賠償を行ってくれるのが自動車保険の対物賠償責任保険。
対物事故でも場合によっては賠償額が1億円を超える事例があることから、保険会社は保険金額を「無制限」に設定して契約することを勧めています。
しかし、無制限に設定されていても、対物賠償責任保険による補償はクルマなど対象となる物の時価額(経年や消耗分を差し引いた現在の価格)に限られます。事故で壊れたクルマの修理に50万円がかかるとしても、クルマの時価額が30万円なら補償は30万円止まり。対物賠償責任保険からそれ以上の補償がされることはありません。
ただ、それゆえに前述のストーリーのような補償のいざこざも起こりがちですし、それが示談交渉を長引かせてしまうケースもあるようです。
ところで、そうしたケースは、Iさんのようにネット型の自動車保険を契約している人の周辺で起こることが多いようです。
なぜか。
ほとんどのネット型自動車保険の対物賠償には「対物超過修理費特約(対物超過修理費用補償特約)」が自動セットされていないからです。
続く後編では、この対物超過修理費特約について解説します。
自分が悪い物損事故。もし対物賠償に「対物超過修理費特約」が付いていないなら、補償のいざこざにご用心!(前編)
自分が悪い物損事故。もし対物賠償に「対物超過修理費特約」が付いていないなら、補償のいざこざにご用心!(後編)
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