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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2022年12月8日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
「ヤバっ、遅刻しちゃう!」
日頃からちょっとルーズなU君(20歳・学生)。ある土曜の午後、自宅でスマホゲームに没頭していたのだが、気付いたら、苦労してチケットを入手していた推しのアイドルのコンサート開演まであと2時間を切っていた。
コンサート会場は隣県の郊外にあるアリーナ。身支度してから電車&徒歩で行くと、遅刻は必至の情勢だった。そこでU君は、いつも使っている父親のクルマを借りて会場へとぶっ飛ばすことにした。
家を出てからしばらくは、ナビも案内しない勝手知ったる抜け道を行った。あまりスピードは出せないが、夕刻の渋滞にはまって時間をロスするより早いと考えた。
抜け道は思っていた以上にすいすいいけた。この調子なら本道に出た後に少々の渋滞にはまったとしても17時の開演には余裕で間に合いそうだ。U君は推しのアイドルのヒット曲「さよなら僕の青春(アオハル)」を口ずさみながら快調に走り続けた。
が、物事はそう簡単ではない。途中、狭い道が続く住宅街で、思わぬアクシデントに遭遇してしまう。信号も標識もない小さな交差点を走り抜けようとしたとき、左側から自転車が出てきたのだ。
「わっ!」
とっさに急ブレーキをかけたU君。若い反射神経のおかげで、なんとか衝突は免れた。
ただ、自転車に乗っていた老人は、クルマが突然出現したことと、キキーっという急ブレーキの音に慌ててバランスを崩し、その場でバタンと転倒してしまっていた。
U君は運転席側のウインドーを下げ、顔を出して老人に声をかけた。
「おじいさん、大丈夫?」
老人は、よろよろと立ち上がりながらこくりとうなずいた。それを見てU君は「ああ、問題なさそうだな」と判断。ならばと、今度はちょっときつい調子でこう言った。
「あのさ、こういう狭い道の交差点では、一時停止しなきゃ駄目でしょ。もう少しでぶつかるところだったじゃないか。ほら、その倒れている自転車をどかしてくれる?俺、今、ものすごく急いでるんだ」
老人は、倒れていた自転車をゆっくり起こして、道路に面している家の塀に立てかけた。ついでに自分も塀に寄りかかった。少しぐったりした様子であった。
でも、たぶんどこかを打ってちょっと痛いだけだろうと思い、U君は再びクルマを発進させた。50メートルほど行ったあたりでバックミラーをちらっと見たら、後続のクルマのドライバーが外に出てこちらを見ながら老人と話しているところが目に入ったが、特に気にせず先を急いだ。
コンサート会場の駐車場には開演の約10分前に着いた。ギリギリセーフ。なんとかアイドルの魅力的な容姿と歌声を最初から最後まで堪能することができた。U君にとっては、最高の3時間となった。
しかし、人間万事塞翁が馬である。会場を出て駐車場に着いたときにスマホに父親から着信があり、電話に出た途端、激しい口調で怒鳴られることとなった。
「おい、お前、クルマでおじいさんをケガさせて、そのまま走り去ったそうじゃないか!さっき警察から連絡があって、ひき逃げの疑いがあるって言ってたぞ。何をやってるんだ、この馬鹿者が!」
U君は「いや、だってぜんぜんぶつかってないし」「おじいさん、大丈夫だって言ってたし」「ひき逃げなんてあり得ないし」と抗弁した。だが、怒り心頭の父親は聞く耳を持たず、「そんなことは俺は知らん。とにかくすぐに警察に行って話を聞いて謝ってこい。さもないと家には入れんぞ!」と、
さらに激しくどやしつけた。
ハッピーだったU君の気分は一瞬にして落ち込んだ。そして、そのまま警察署へと向かったのだった。
「ったく、なんなんだよ」
警察に行くと、1人の警官がU君の非について説明をはじめた。まず、この場合、交通弱者である自転車をクルマよりも優先されなければならないと言われた。そして、現場となった小さな交差点は、どちらが優先道路という区分けがないために左側から来る車両が優先されるという原則を説明された。その上で、U君は非接触事故(誘因事故)の加害者である疑いがあり、そうであれば、被害者であるおじいさん(後で骨盤にひびが入る全治3ヵ月の重傷と判明)を救護する義務と、警察に報告する義務を怠ったと見なされるということだった。
平たく言うと「ひき逃げ」の疑いがかけられていた。もし、上記のすべての違反が確定となれば、U君は厳しい刑罰に加えて、3年間の免許取り消し処分を食らうことになるという……。
実はU君、近々アルバイトで貯めたお金と親の援助で中古のクルマを買い、仲よくしている女の子と楽しくドライブをするつもりでいたのだが、その実現は、もはや風前の灯火。
警察署で力なくうなだれるU君の頭の中には、推しのアイドルのヒット曲「さよなら僕の青春(アオハル)」が、いつもと違う、もの悲しい調子でループしていた。
ぶつからない
交通事故もある
交通事故は、直接ぶつかって起こるものばかりではありません。
相手との接触がなくても、目の前を通り過ぎたり接近したりしたことで相手が驚き転んだりしてケガをすると、交通事故と見なされることがあります。交通の世界では、これを非接触事故あるいは誘因事故と呼びます。
前述ストーリーの事故はまさにこのケース。U君は、おじいさんの自転車にぶつかりはしなかったものの、間一髪の状態をつくり、びっくり&転倒させてケガを負わせてしまいました。それは、交通弱者である自転車に対する配慮がなく、また左側優先の原則に反する行為でもありました。そうした要素からすると、U君は高い確率で非接触事故の加害者となりそうです。
そのとき、もしU君がクルマを降りておじいさんをケアし、警察に連絡を入れるという対応をしていれば、違反切符は切られるにしても、大きな問題には発展しなかったでしょう。しかし、U君は、勝手に「問題ない」と判断し、それらをすべて怠り、その場から走り去ってしまいました。
これにより、U君は非接触事故を起こしたにもかかわらず、ケガ人を救護する義務と警察に報告する義務を怠ったとされ、「ひき逃げ」の罪に問われる状況となったのです。非常に残念な顛末と言わざるを得ません。
後編では、非接触事故における救護義務ならびに警察への報告義務について、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。
非接触でも交通事故。そこで救護を怠ると免停になっちゃうかも!(前編)
非接触でも交通事故。そこで救護を怠ると免停になっちゃうかも!(後編)
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