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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2022年12月6日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
Mさん(21歳)は、ロッククライミングに情熱を燃やす女子大生。ある日、バイトで貯めたお金の一部で、山奥にある岩場に通うためのクルマを購入した。選んだのは10年落ちで車検切れ寸前の車両本体価格20万円(プラス諸費用)という軽自動車だった。
外見はかなり疲れたクルマだが、ちゃんと走るので不満はなかった。むしろ毎週末、さまざまな岩場に続く狭い山道をスイスイ走ってくれるところに頼もしさすら感じていた。
「道具は目的を果たせるかどうかが肝心。見映えなんて二の次よ」
そんな少々ハードボイルドなカーライフを続けること数カ月。意識から遠ざけていた車検の時期がとうとうやってきた。またバイト貯金を取り崩さなければ……。
Mさんは当初、なるべく安くて早く作業が終わるところに入庫しようと考えていた。だが、検討を重ねた結果、近所にある個人経営の整備工場に入庫すると決めた。ここはMさんの父親が長年利用していて、「腕がよくて料金も良心的」と高く評価している工場。「ロッククライミング同様、何事も技術が大事」と考えている彼女にとっては、他の自動車整備工場に比べて信頼できるように思えたのだ。
学校がない土曜日、工場に愛車を持っていくと、父親のことをよく知るおじいさん社長が、「おお、あそこの娘さんか」とニコニコしながら対応してくれた。そして、「車検が終わって返せるのは3日後。それまで代車を使うかい?廃車間近の1台しか空いてないけど、それでよければ貸せるよ」と聞いてきた。
代車があれば岩場に行ける!明日、日曜日の岩場行きを中止するつもりだったMさんは、間髪をいれず「はい、ぜひ貸してください」と返答した。
代車は小型乗用車で、軽の愛車よりやや大きかった。「狭い山道、大丈夫かな」と不安がよぎったものの、細心の注意を払って走れば問題ないと考え、岩場行きを決行することにした。
さて、結果はどうだったのか?
明るい時間の往路は問題なかった。しかし、夕刻の帰路がダメだった。山道は木々に囲まれ、街灯もなく真っ暗。Mさんはヘッドライトの灯りを頼りに狭い道を慎重に下ったのだが、あと少しで平坦な道に出るあたりで左側のドアミラーに何かが激しくぶつかってきた。慌ててクルマを停めてミラーを確認しようと外に出たところ、樹脂製のミラーのカバーに大きな裂け目が入っていることが判明した。どうやら道に突き出ていた太い木の枝がミラーを直撃したようだった。
Mさんは、当日に電話で事故内容を整備工場に報告し、謝罪したが、後日、愛車を引き取りに行ったとき、改めておじいさん社長に深々と頭を下げた。
「本当に申し訳ありませんでした。ミラーの修理代はお支払いします」
おじいさん社長は大きくかぶりを振り、笑顔でこう言った。
「いやいや弁償なんか必要ないよ。いつもウチでは代車に車両保険を含めた自動車保険を付けていて、万が一の事故があっても、お客さんに弁償させることがないようにしている。この代車に限っては廃車間際ということで最低限の保険だけにして車両保険は付けてなかったけど、それはもともと壊れても直すつもりはなかったから。だから、気にしなくていいんだよ」
「そもそも、こういうことは先に伝えておくべきだった。逆にあなたに余計な気を遣わせて悪いことをした。すまないね」
「え? ミラーはあのままで大丈夫かって? うん、まったく問題ない。鏡や電動部品は壊れてないから、ヒビを補強テープで塞いでおけば、廃車まであと数カ月は支障なく走るよ。わははは」
ということでMさんの無罪放免が決定。彼女は車検の代金だけを支払い、恐縮しながら愛車で自宅へと帰ったのであった。
その夜、自動車修理工場での一件を父に話したところ、父はおじいさん社長に感謝しつつも厳しい口調で諭してきた。
「今回、お前が借りた代車には車両保険が付いていなかったが、損傷が軽かった上に、廃車間際ということで修理代の支払いは免れた。そして、あの社長がいい人だったからすべてが許された。幸運に感謝するんだな」
そう言うと、父はスマホを取り出し、おじいさん社長に電話をかけて謝罪と感謝の言葉を述べた。Mさんは、その様子を目にしながら今回の一連の出来事を振り返り、人生というロッククライミングもそう簡単ではないことを改めて噛みしめたのであった。
無料の代車は
顧客サービスの一環
ディーラーであれ、自動車整備工場であれ、カー用品店であれ、クルマを車検や修理のために入庫すると、多くの場合、作業が終わるまで無料で代車が貸し出されます。
しかし、これは法律で定められた制度ではありません。店側が自分たちの裁量で行っている善意の顧客サービスです。
お店によって代車の台数には多寡があり、空きがないと借りられません。代車として用意されるクルマの車種やグレードもお店の事情により異なります。また、最近は、レンタカーの利用を勧めるお店や有料で代車を貸し出すお店もあります。
代車のサービスはお店によって内容が異なっているのです。
車検などのように入庫予定がはっきりしている場合に、代車のサービスを受けたいのであれば、あらかじめそのことを伝えて店側から代車のサービスについて情報を得た上で、利用希望をお店に伝えましょう。
長期入庫の場合は
レンタカー利用に
レンタカー利用を勧められることが多いのは、事故によって自分のクルマの修理期間が長期に及ぶケースです。
例えば1人のお客さんに1ヵ月も代車を貸し出すとなると、ほかの複数のお客さんに貸し出しができなくなる可能性が生じます。そうした不都合を避けるために「レンタカーを借りてください」となるのです。
これに対し、お客さん側が不満を持つことはあまりないようです。なぜなら、お客さんが契約している自動車保険には、事故でレッカー搬送された場合には30日程度レンタカーを借りられる特約が付いていることが多く、レンタカー代が補填されるからです。すなわち、双方納得ずくのレンタカー利用となるのです。
※事故の際のレンタカー利用可能日数は保険会社によって異なります。また、故障の場合のレンタカー利用は可能日数は15日程度が多いようですが、これも保険会社によって異なります。
このように多様な状況を呈している代車のサービスですが、前述のストーリーのように借りた代車で事故などを起こしてしまったとき、どうなるのか?……後編では、その点について述べていきたいと思います。
軽いノリで借りた代車で事故したら……どうなるの!?(前編)
軽いノリで借りた代車で事故したら……どうなるの!?(後編)
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