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クルマのトラブル「もしも」マニュアル

Vol.61 保険の「使用目的」の変更を知らせないままだと、万が一のときに補償されない!?(前編)

2021年5月21日更新

自動車保険_通知義務_1

【今回のやっちゃったストーリー】

「ホウレンソウを忘れるな」
中堅企業の総務部長であるDさん(40歳)は、いつも部下に対してこう言い聞かせている。かつて自分も上司からホウレンソウ=報告・連絡・相談の大切さを教わり、ずっと励行してきた。そのおかげで仕事で大きなミスをせず、出世もできた。かわいい部下には自分の後に続いてほしいと切に願っていたのだ。
そんな実直なDさんは、コロナ禍の第一波が襲った2020年春以降、入社以来続けてきた電車通勤をやめてマイカー通勤に切り替えている。社員の多くはリモートワークに移行したが、総務部長のDさんは会社全体の調整役としてどうしても出社しなければならない。せめてウイルスの感染リスクがある満員電車を避けようと考え、それまで週末のドライブや買い物でしか使っていなかったマイカーでの通勤を選んだのだった。会社側も世の状況とDさんの献身的な働きぶりを鑑み、原則禁止だったマイカー通勤を認めてくれていた。
だが、この状態が1年ほど続いたある日の夜、Dさんは帰宅途中に思わぬ事故を起こしてしまう。
自宅近くの住宅街を低速で走行していると、路地から急に無灯火の自転車が飛び出してきた。驚いたDさんは急ブレーキを踏み、ハンドルをグイッと切って接触を回避した。幸い自転車にはぶつからなかったものの、クルマのフロントはガードレールに接触してしまった。結果、ガードレールは折れ曲がり、クルマも損傷を被ることに。事故の原因をつくった自転車は、気づけば遙か彼方へと走り去っていた。
「あー、やってしまった……」
Dさんにとっては初の交通事故。ミスの少ない人生に拭い切れない汚点を残した気分だった。
しかも後日、さらにとんでもないミスが発覚することに――。
事故から数日後、Dさんはガードレールとクルマの修理代を保険で賄うべく、交通事故証明書を持って保険代理店を訪れた。ちょうど自動車保険の更新時期でもあったので、まとめて手続きをお願いしようと思ったのだ。
手続き中、Dさんは担当者に「まさか、あそこで無灯火の自転車が一時停止せずに飛び出してくるとは思わなかったんですよ。事故は完全にあの自転車のせい。でも、乗ってた人はこっちを無視してどこかに走り去ってしまうし……。もう、世の中モラルも何もあったもんじゃないですよ(苦笑)」と、鬱憤を吐き出すように事故当時のことを話した。
それを受けて担当者は「確かに、傍若無人な自転車には困ったものです。最近、自転車の違法運転の取り締まりが厳しくなったと聞いていますけれど、警察にもっと頑張ってもらわないといけませんね」とDさんをなだめるように答えた。
その会話の流れから担当者が何気なく「ところでDさま、平日の夜に、どうしてクルマを走らせていたのですか?」と聞いてきた。
Dさんは聞かれるがままコロナ禍の影響で1年ほど前からマイカー通勤に切り替えていたことを明かし、「マイカー通勤って本当にラク。電車通勤に比べると天国と地獄ぐらい差がありますよ。あははは」と朗らかに笑った。
すると、ずっと笑顔だった担当者の表情が急に強ばった。そして低い声でこう言うではないか。
「あのー、Dさま。最初に保険を契約されたときからクルマの使用目的が『日常・レジャー』になっています。でも、この1年は通勤で使用していらっしゃった……。これは保険の使用目的の変更を通知する義務に違反していることになります。故意では無いとして、契約違反となります。保険会社の判断になりますが、保険金は満額出ないかもしれません。また、今後もマイカー通勤をされるのであれば、使用目的を『通勤・通学』に変え、保険料もその分多めにお支払いいただくことになります」
「ええーっ!」
ショックを受けたDさん。……仕事だけじゃなく、自動車保険でもホウレンソウを忘れちゃいけないということですよ!

契約時の〈告知義務〉と契約中の〈通知義務〉

自動車保険の契約者が心がけるべきホウレンソウとしては、〈告知事項(告知義務)〉と〈通知事項(通知義務)〉の二つが挙げられます。

〈告知事項〉とは、保険の契約時に申込書に正しく書き入れなければならない情報のこと。以下の五つがそれに当たります。

①契約するクルマの用途車種、登録番号、使用目的など
②契約者の住所・氏名・免許証の色など
③契約者の自動車保険契約台数(10台以上かどうか)
④以前に契約していた保険の等級や事故の有無など
⑤他の自動車保険契約(重複保険契約)に関する情報
(日本損害保険協会の資料を参考に略述)

一方、〈通知事項〉とは、保険の契約中に〈告知事項〉に記した情報の中で変更が生じたもの。以下の二つがそれに当たります。

①用途車種、登録番号の変更
②使用目的の変更
(日本損害保険協会の資料を参考に略述)

〈告知事項〉と〈通知事項〉には、事故が発生する可能性を知るためのリスク情報が多く含まれています。保険会社はその情報を基に契約の可否を判断するとともに、保険料の算出をしています。そのため、契約者はいずれの情報も正しくかつ遅れなく保険会社に知らせる必要があります。

もし、故意または重大な過失によって事実と異なる情報を記入したり、変更の通知がひどく遅れたりすると、契約が解除されたり、保険金が支払われなかったりするおそれもあります。

そのため、一般的に〈告知事項〉は〈告知義務〉、〈通知事項〉は〈通知義務〉とも呼ばれているのです。

今回、Dさんは〈告知義務〉は正しく果たしていたようですが、その後の使用目的の変更に伴う〈通知義務〉を怠っていました。おそらく、義務だと認識していなかったか、忘れていたかのどちらかなのでしょう。故意ではないにしても、これは契約違反。判断は保険会社に委ねられますが、保険金を満額受け取ることはまずできないでしょう(減額されて支払われる場合などがあります)。

働き方・暮らし方が大きく変化しても驚かない昨今の情勢です。〈告知事項(告知義務)〉と〈通知事項(通知義務)〉といった自動車保険のホウレンソウに関しても、日ごろから十分に留意しましょう。

保険の「使用目的」の変更を知らせないままだと、万が一のときに補償されない!?(前編)

保険の「使用目的」の変更を知らせないままだと、万が一のときに補償されない!?(後編)

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