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クルマのトラブル「もしも」マニュアル

Vol.53 首都高のトンネル内で車両火災に遭遇したら、どう行動すべきなのか?(後編)

2020年8月25日更新



閉じられた空間での火災は
即、命の危機へとつながる

さて、ここからが本題――。

数多い首都高での車両火災のなかでも、もっとも怖いのは今回の事例で紹介したようなトンネル内での車両火災で
す。

閉じられた空間内に高温の炎が立ち上り、有害が煙が渦巻くため、消火装置や排煙装置が設置されているにしても、出火したクルマの持ち主はもちろん周りの車やドライバーもかなり高い確率で命の危機に直面してしまいます。

最近では、2019年12月17日に首都高の多摩川トンネル内で起きた車両火災事故(死亡者1人・負傷者22人)がニュースなどで大きく取り上げられました。当時の報道番組などを切り取ったと思われるYouTube映像などには現場の様子を伝えるものがありますが、それを観ると、トンネル内車両火災の恐ろしさのほどがよくわかります。

ただし、そうした映像には現場に居合わせた人たちのさまざまな問題行動も映っています。それらに関しては絶対にマネしないようにしてください。

例えば、火と煙が立ち上っている中で多くの人たちがわさわさしながらも興味深げに火災と消火の様子を眺めているところが映っています。そして、それをスマートフォンで撮影している人自身、火災現場に留まっていることが明かです……。

また、燃える車両から出ている黒煙の中を突っ切って走るドライブレコーダーの映像もあるのですが、視界ゼロの中での追い越しを終えた瞬間、前方に止まっていたクルマにあわや激突しそうになっています……。

これらはどれもトンネル内での車両火災に遭遇したときには、絶対にやってはいけない危険な行為。もう、それだけで生存確率がグーンと下がってしまいます。そうならないよう気をつけましょう。

すぐに非常口へと避難すべき

では、もし、トンネル内で車両火災に遭遇したら、どのようにに行動すべきなのか?

首都高速道路株式会社のホームページ上には、車両火災に遭遇したときに取るべき行動についていろいろと書かれています。
首都高ドライバーズサイト「もしもトンネル火災に遭遇したら」

ここでは、その中から、今回のVさんの事例のように間近で車両火災に遭遇した際に取るべき行動を、「自分の命を守る」という観点から紹介したいと思います。

◎走行中に火災車両を発見したら必ず手前で停車する。火災車両を追い越すのは、煙による視界不良や爆発で二次的な事故に繋がる可能性があるので絶対に避ける。

◎その際、後から来る消防車両・救急車両が通りやすくするために、クルマをなるべく端に寄せて停める。

◎そのままクルマの中に留まっていると炎や煙にまかれて命を落とす可能性が高いので、クルマの外に出て、火災車両から遠ざかる方向にある非常口を目指して逃げる。

◎クルマから降りるときは、消火・救護活動のための移動が必要になることを考えて「キーを車内に置いたままにする」「ドアをロックしない」。さらに、延焼を防ぐために「窓ガラスをしっかりと閉める」。

◎非常口に着いたら、ドアを開けて中に入り、そこから地上もしくは地下の避難スペースへと出る(避難者の中に車椅子や高齢者がいたら避難の援助をする)。

おわかりいただけましたか?

車両火災に間近で遭遇したら、とにかく「クルマを手前で停めて外に出る」「炎と反対側にある非常口まですばやく逃げる」が大事ということ。通常、高速道路の非常口は300~350メートル間隔で設置されています。クルマから出て、迅速かつ適切にそこを目指すようにすれば、きっと命は助かります。

実際、今回のVさんの事例に出てきた青年は、まさにこのとおりのことをみんなに呼びかけていました。Vさんはそのお陰で危機を脱することができたのです。

損害賠償に保険は不可欠だが
被害者には切ない事態も

最後に、保険に関する話を付け加えておきたいと思います。

Vさんは、大事な愛車を炎と黒煙が渦巻くトンネル内に残してきました。もし、その愛車が火災の被害にあったとしたら、その補償はどうなるのでしょうか?

車両火災を起こしたクルマの持ち主が自動車保険の対物賠償保険に加入しており、その保険金額が「無制限」に設定されていれば、類焼で被害をこうむったVさんのクルマなどはその対象として、保険金によって損害賠償がされます。

ただし、対物賠償保険の保険金額が「1,000万円」などに設定されていた場、保険金はそこまでしか出ないので、後は出火車両の持ち主負担となります。さらに言えば、出火車両が無保険車だった場合には、損害賠償の全額が持ち主の負担になります。

そうなった場合、出火車両の持ち主が「とても払えない」となったらどうなるかと言うと……その場合は、Vさんなど被害者が自動車保険の車両保険に加入していたら、それで被害の補償がなされます。だから、愛車がこんな災難に巻き込まれたとしても、車両保険に入っていれば一安心というわけです。

ただし、ここが自動車保険の切ないところなのですが、相手の対物賠償保険で補償してもらうにしろ、自分の車両保険で補償がなされるにしろ、基本的に保険金はそのクルマの時価額しか出ません。例えば、Vさんが新車購入時に300万円の価格だったクルマに乗っていてトンネル内車両火災のとばっちりを受けたとして、この時点で10年以上もの所有期間になっていてそのクルマの時価額が30万円であれば、その金額しか保険金は出ないということになります。

このように自動車保険とお金の話をしてしまうと、愛車を火災現場に残してきたVさんは大きな損をしたように思えるかもしれません。でも、前編のストーリーの後半で、非常口から地上に出たVさんは、自分を導いてくれた青年に涙を流してながら「ありがとう、ありがとう、ありがとうね(涙)」と言いました。まさに命あってのものだねだったのです。災害時に優先すべきはお金より命。だから、「自分の命を守る」行動を忘れずに、しっかり実行してください。

首都高のトンネル内で車両火災に遭遇したら、どう行動すべきなのか?(前編)

首都高のトンネル内で車両火災に遭遇したら、どう行動すべきなのか?(後編)

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