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クルマのトラブル「もしも」マニュアル

Vol.53 首都高のトンネル内で車両火災に遭遇したら、どう行動すべきなのか?(前編)

2020年8月25日更新



【今回の巻き込まれちゃったストーリー】

会社を定年退職してから東京郊外の街で悠々自適に暮らしているVさん(無職・67歳)。ある日、同期入社の仲間から千葉県南房総のゴルフ場で行われるゴルフコンペに誘われ、久しぶりに都心方面へと愛車を走らせることになった。
最初は夜明け前に出発して、一般道をゆっくりと走っていくつもりだった。だが、出発の支度に手間取ってしまって時間を食い、やむなく首都高(首都高速道路)主体で目的地を目指すことにした。
「首都高ってジェットコースターみたいな走りになるから怖くてイヤなんだよなあ……」
ほぼ5年ぶりぐらいの首都高の運転は、実際に怖かった。まだ朝の早い時間で交通量が少ないとはいえ、右へ左へとカーブが続く中での高速走行に、Vさんは手に汗を握る思いだった。しかも、アクアラインに続く、最近開通したばかりの道はずうっと地下トンネル。視界が狭まり、走行車線を巡航しているだけなのに肩にチカラが入った。Vさんは、無事に目的地に着くことだけをただただ願って運転を続けた。
しかし、残念ながら、その願いはかなわぬことに……。
もうすぐアクアラインとなったころ、Vさんの前方を行くクルマが突然ハザードランプを点滅させスローダウンし始めた。Vさんも「ん、高速のトンネル内にありがちな自然渋滞かな?」と思いつつ、それに倣って愛車をスローダウンさせた。
ゆるゆると進みながら数十メートルほど先に目をやると1台の乗用車がボンネットからうっすら煙か蒸気のようなものを上げて止まっているのが見えた。手前の路面に、三角表示板と着火した発炎筒を置いて後続車に追突注意の合図を出していた。故障車のようだった。路肩に避難した運転者らしき人が、大きく手を振って注意喚起しているのが見えた。
Vさん、それを見てやれやれと思いながら、とりあえずその故障車を追い越して先に進むことを決めた。それで、ウインカーを出してミラーを見ながら車線変更をしようとしたのだったが、「いまだ!」とアクセルを踏み込もうと思った瞬間、突然、ボンッと大きな爆発音が響いた。驚いて前を見ると、故障車のボンネットから紅蓮の炎と黒煙が立ち上っていた。路肩にいた運転者は慌てた様子でこちら側に走って逃げ出した。
「ええええ!?」
目を見開いてその様子を2秒ほど呆然と眺めていたVさん、すぐに自分も命の危機に直面していることに気付き、逃げる算段をしだした。
まず、そのまま故障車を追い越そうかと思った。だが、道路の幅員いっぱいに黒煙がもうもうと渦を巻いていて、それはとうていムリそうだった。次に、クルマをバックさせて炎と煙から遠ざかろうとも思った。だが、振り返ると既に後続車がずらりと並んでいて、それも完全にムリだとわかった。
「ま、まずい」。アタマのなかが真っ白になったVさん、どう行動していいかわからなくなり、ハンドルを握ったまま固まった。
と、そのとき、前にいたクルマが路肩に寄っていって止まり、そこから一人の青年が飛び出てきて、Vさんのクルマに近づきながら手振りを交えてこう叫んだ。
「クルマを路肩に寄せて停めて! カギを付けたまま外に出て!それで非常口まで逃げて!」
Vさんは、ハッと我に返り、自分の息子より若いであろうその青年の言うとおりにクルマを路肩に寄せて停め、車内にカギを残したまま、煙が立ちこめ始めたトンネル内へと出た。そして、後続車に同じような言葉をかけながら駆けていく青年の後を必死に追った。
非常口は100メートルほど走った辺りにあった。Vさんはほかの避難者とともにそこに駆け込んだ。入るとそこはシェルターのような安全な空間になっていて、通路をたどっていけば外へ脱出できるようになっていた。Vさん、息を切らしながらも、「ええ、こんな場所がトンネルにあっただなんて知らなかったよ!」と純粋な驚きを覚えた。
無事、外に出ると、興奮冷めやらぬ表情の人々がめいめいスマホで誰かに連絡を入れていた。その中には先ほどの青年の姿もあった。ぜいぜいと肩で息をしていたVさんは、連絡をし終えた彼に近づき、しかと手を握って礼をいった。
「ありがとう、ありがとう、ありがとうね(涙)」
大事な愛車とゴルフクラブとスマホをトンネル内に残してきた。ゴルフコンペにも行けなくなった。でも、もう、そんなことはどうでもよかった。自分の命がロストボールとならずに青年に発見され、人生というプレイが再開できるようになったありがたみを深くしみじみ噛みしめたVさんなのであった。

首都高での車両火災は
年間に20件近くも発生

ここ最近、首都高(首都高速道路)での車両火災が増えています。

首都高を管轄する首都高速道路株式会社の統計によると、2019年度(2019年4月~2020年3月)の首都高での車両火災は20件も発生しました。2020年度も4月から7月の4ヵ月で既に7件の発生が見られています。



火災の原因は主に整備不良

これら火災は、事故によるものもありますが、多くは整備不良によるものとのことです。

中でもエンジンオイルの交換や冷却水の補充を怠ったことで起こるエンジンの焼き付きや、タイヤの空気圧不良などによって起こる駆動系の過熱による火災が目立っているようです。

この事実の裏側には、所有年数が伸びている一方で、日常点検や定期点検がともすると適正に行われていないという事実があります。つまり、古いクルマに乗っているにもかかわらず、法で義務付けられている日常点検をほとんど行わず、12か月点検などの定期点検も罰則がないためにスルーしてしまっていた……そんなクルマが、首都高を走行中に火災を起こすという因果関係です。

クルマは機械ですから、長く乗れば劣化したり具合が悪くなったりします。それを事前に確認し、故障を予防するのが日常点検や定期点検です。自分自身と愛車を守るためにも、そして道路を走る他の人に迷惑をかけないためにも、日頃の点検・整備はしっかり行いましょう。

首都高のトンネル内で車両火災に遭遇したら、どう行動すべきなのか?(前編)

首都高のトンネル内で車両火災に遭遇したら、どう行動すべきなのか?(後編)

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