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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2020年2月20日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
「海が見たいわ」
街中のカフェで、長年憧れ続けてきた年上の女性から失恋相談を受けていたQくん(20歳・会社員)、そう求められて断れようはずがなかった。もう午後2時を過ぎていたが、先日購入したばかりの愛車に彼女を乗せて80㎞ほど先にある海岸へと向かった。
助手席の彼女は、カフェのときと同じで言葉少なく表情も暗かった。でも、車窓の左側に夕日に照らされた海が広がったとき、憂さを感じさせない歓声をあげた。
「わあ、きれい」
Qくん、その明るい声のトーンにつられて海と彼女にチラッと目をやった。うん、とてもきれいだ……。美しい光景が、美しい彼女の心のキズを癒やしてくれることを切に祈った。そして、あわよくば、その心が自分に傾くようになることを強く願った。ゆっくりとした速度で走る中、幸せな時間が過ぎていった。
が、それも長くは続かなかった。切り立った崖沿いのドライブウェイを進み、急な右カーブに差し掛かったとき、突如、崖の陰からセンターラインを少しオーバーしながら猛スピードで曲がってくる対向車が姿を現したのだ。
「わっ!」
危険を覚えたQくん、とっさに左側にハンドルを大きく切って正面衝突を回避した。だが、その一瞬後にはハンドルを切り過ぎたために今度は海へと続く崖の際が目前に迫りきていた。Qくん、またしても必死の逆ハン&急ブレーキ。「ガガガガッ!」。ぎりぎり海へのダイブは免れたものの、クルマが止まったのは敷設されていたガードレールを数メートルに渡ってへし曲げてからのことだった。相手のクルマは、すでにはるか彼方まで走り去っていた。
不幸中の幸いは彼女とQくんがケガを負わなかったことだけで、あとは散々だった。ずっと海を見続けていて事の経緯を知らない同乗の彼女は「いったいなにがあったの?」と半ば訝り半ば憤りながら、動かなくなったクルマから降りて、さっさと一人で近くの駅に向かい電車に乗って帰ってしまった。そして、その後の事故の判定と、それに基づく保険会社の対応はQくんにとっては理不尽極まりないものとなってしまった。
すなわち、相手がセンターラインをオーバーしてきたからガードレールにぶつかったというのに、事故はQくんの誤った運転による自損事故と判定され、壊れたガードレールと愛車の修理代はQくんが負担することになってしまったのだ。しかも、ガードレールの修理代は対物賠償保険から出るにしても、けっこうな額にのぼる愛車の修理代に車両保険は適用されず、Qくんが自腹で出すことになったのだ。
最初、その事実を保険代理店の担当者から告げられたとき、Qくんは「えっ、ガードレールへの衝突が自損事故扱いになるってヘン。あの事故はオーバーランしてきた対向車のせいだよ」と強く主張したが、「確かな証拠がない限り、その判定は覆らないだろう」との答えが返ってきた。カーライフの節約のためにドライブレコーダーを付けていなかったQくん、そこで抗弁することをあえなく諦めた。
次に、「じゃあ、百歩譲って自損事故と認めるとしてもですね、僕、ちゃんと車両保険に入っているんだから、自腹で自分のクルマを直さなきゃならないなんておかしいでしょ。なんとかしてくださいよ」と今度は泣きそうな声で訴えたが、それもあっさり却下された。理由はカンタン。Qくんが自損事故を補償の対象外とするエコノミータイプの車両保険に入っていたからだった。Qくん、「ああ、そういえば僕、保険契約するときに、保険料を節約するためにオールリスクタイプじゃなくてエコノミータイプを選んだんだったっけ……」と思い出し、厳しい現実を受け入れることとなった。
もう、気分はどん底。そんな中、Qくんはふと彼女のことが思い浮かべた。事故の後でラインで数回やりとりしたものの、その後、なぜだかまったく会ってくれようとせず、その理由がよくわかっていなかったのだが、「ああ、そういえば彼女、以前『肝心なところでポカをしでかす男性ってダメなの、わたし』って言ってたっけ……」と気づくに至った。ここにきてQくん、とうとう滂沱(ぼうだ)の涙を流したのであった。
非接触事故の証明には
確たる証拠が必要
相手のクルマが自車に被害を及ぼすような危険な運転をしていたので、それを避ける運転行動をしたところ、相手のクルマにはぶつからなかったものの、なにか別のモノにぶつかってしまった……。
このQくんの事故は、本来であれば、相手にもある程度の責任が発生する可能性がある非接触事故(誘引事故)と見なされるべきものでした。
しかし、まったくそうとは認められませんでした。
センターラインをオーバーして走っていた相手は逃げ去ってしまい、かつドライブレコーダーの記録などのちゃんとした証拠がなかったため、Qくんが誤った判断もしくは運転をした結果の自損事故とされ、ガードレールの損害賠償を含む全ての費用を自分で被ることになってしまったのです。
ガードレールの修理代は対物賠償保険から出るとは思いますが、それにしたって、翌年からの保険料に跳ね返ってくること必至。Qくんには同情しきり(彼女の件も含めて)。かけるべき言葉も見つかりません。
ただ、Qくんに一つ注文を付けるとするなら、「ドライバーのモラル低下が話題となっている現代の日本の交通社会においては、やはりドライブレコーダーの装着を怠るべきではなかった」ということになるのではないでしょうか。
節約したい気持ちは痛いほどわかりますが、「理不尽な事故も十分にあり得る」との想像力を働かせ、何とかしてドライブレコーダー購入の費用を捻出し、装着しておくべきでした。そういう意味では、Qくん、カーオーナーとして抜かりがあったということです。残念ながら……。
皆さんも、こういう理不尽な事故の可能性に備えて、ぜひともドライブレコーダーの購入と装着を前向きにご検討ください。
なお、こういう事故の話がでると、ときどき「いっそのこと、避けずに正面衝突していればよかったのに。そうすれば、相手も逃げられないから、いい結果に繋がったはず」なんてとんでもない発想をするヒトが出現します。
いやいやいや、そういうのは絶対にありませんから。命あっての物種ですから。目の前の危機は、ちゃんとしっかり避けるようにしましょう。そして、そのときは、一瞬のことなのでかなり難しいとは思いますが、二次的被害&加害を生まないよう細心の注意を払いましょう。
非接触事故が自損事故扱いに。ああ、オールリスクタイプの車両保険に入っておけばよかった……(前編)
非接触事故が自損事故扱いに。ああ、オールリスクタイプの車両保険に入っておけばよかった……(後編)
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