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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2019年9月10日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
会社員のNさん(50歳)には大学3年生(21歳)の娘がいる。彼女、元は父親ゆずりのマジメ派だったが、地方の実家を離れて大学のある都会の街に暮らしはじめてからは急速に超イケイケ女子に変貌を遂げていた。大事な試験のときだけそれなりに勉強をするものの、それ以外はほぼ毎日、あやしいアルバイトと夜遊びに明け暮れていた。
Nさんは、娘のそういう「ふしだら」ぶりに気づいていた。服装が派手になり、態度もはすっぱになり、帰省すると「お小遣いちょうだい」「あれ買って」と、親をATM扱いするようなことしか口にしなくなっていたからだ。
今回、帰省したときも、最初に出た言葉がこれだった。
「あのさ、高校んときの友だちに会いにいくからクルマ貸して。そんで、お茶したり、ガソリン入れたりするから、お金ちょうだい」
その要求に対してNさんは黙って頷き、キーと一万円札を渡した。多少もやもやしつつも、やっぱりかわいい一人娘……、帰省中ぐらいはワガママを聞いてやりたかった。
たまの帰省のときにしか運転しないので事故が心配だったが、彼女が大学1年のときに免許を取って以来、安全装備が万全なクルマに買い替えていたので、なにかあったとしても大事には至らないだろうとの思いがあり、「気をつけてな」ぐらいしか言わなかった。
だが、娘が出発してわずか30分後、Nさんのスマートフォンにめったに電話かけてこない娘から電話がかかってきて、その思惑ははずれた。
「あのさー、わたし、事故っちゃった。交差点で黄色信号で停まったかったるいクルマに追突しちゃったのよ。ま、わたしも、相手の乗ってた奴もケガしてないんだけどさ、クルマがさ、あっちのもこっちのもなんかメチャメチャな感じになっててさ……」
Nさん、一瞬、頭の中が真っ白になった。ただ、娘が無事だという事実を本人の口から確認できたので、すぐに落ち着きが取りもどせた。だから、余裕をもって娘にこう伝えた。
「とにかく警察に連絡して、現場検証してもらいなさい。とりあえずお父さんは、保険の代理店に連絡して、事故処理やレッカー移動とかのお願いをしておくから。うん、心配ない。あとでタクシーで迎えに行くよ。まあ、とにかく無事でよかった」
電話を切ったNさんは、改めて保険代理店に電話を入れた。で、「かくかくしかじかこういうわけで……」と事の顛末を伝えた。すると保険代理店の担当者は、少し間を置いてからこんな思いがけないことを口にしたのだった。
「N様、今年の2月に自動車保険を更新されたときに、以前から付けていただいていた運転者家族限定特約が廃止になったため、割引率が大きいということで運転者本人・夫婦限定特約に切り替えていらっしゃいます。ですから、今回の娘さんの事故については、自動車保険を使うことはできないのです、残念ながら」
「ガーン!」。そういえばそうだった。保険の内容は例年どおりという意識が強くあって、更新時に特約の内容を切り替えたことをすっかり忘れていた。あのまま娘を運転させては、いけなかった。なんらかの手を打つべきだったのだ。うっかりでは済まされない、大失態を犯してしまった……。
結局、Nさんは、娘が起こした事故による相手のクルマと自分のクルマの損害の修理にかかる費用を全額自腹で支払わざるを得ないことに。その額、なんと娘の大学の学費1年分に相当していて、卒倒寸前となった。
娘は、後にこの事実を知ったとき、「だっさ」と吐き捨てるようにいい放った。それを聞いて、さすがに頭に血がのぼったNさんは、娘へのこれまでの甘い態度を改めることと、翌月からの仕送り額を大幅に削減することを固く心に決めたのであった。
大手保険会社は
運転者家族限定特約を廃止
事例にあるように、東京海上日動火災保険やあいおいニッセイ同和損保をはじめとする大手保険会社は、2019年1月に自動車保険の運転者家族限定特約(以下、家族限定特約)を廃止しました。
なぜ、そういうことになったのでしょうか?
そもそも家族限定特約は、1970年に登場した特約です。当時は大家族の家庭も多く、保険を契約している人のクルマをその家族・親族や別居している未婚の子が運転して事故を起こしても補償される家族限定特約は、それなりに価値ある特約でした。
ところが、最近では、以前に比べて単身世帯や核家族が増加したために、家族限定特約を選択する人が減ってしまったのです。加えて、割引率はわずか1%程度という低さ。ということで、一部の保険会社を除いて廃止されることが決まったということです。(家族が運転する可能性がある場合は、「限定なし」の契約にするということです)
この事実、保険業界や自動車業界ではけっこう大きなニュースとなりました。しかし、今でも一般的にはあまり広くは知られていません。皆さん、この機会に、ぜひこの事実をしっかりと認識しておいてください。
更新時の
内容変更にご用心!
さて、Nさんの話です。
娘が免許を取ってから家族限定特約を付けて自動車保険の契約をしていたNさんは、その廃止を受けて、2月の更新の際に保険の内容を変更することになりました。
それでNさんはどうしたかというと、 自分の家族のカーライフの在り方と保険料の割引率の大きさを考慮して、新たに運転者本人・夫婦限定特約(以下、本人・夫婦限定特約)を付ける形で契約することを決めたのです。たぶん、経済的なことを優先し、帰省のときに運転する可能性がある娘のことについては、そのときになってから対処すれば良いと考えたのでしょう。その時点では、合理的な選択だったということができます。
ですが、Nさん、その後がまったくダメダメでした。帰省した娘が運転する瞬間がやってきても、本人・夫婦限定特約に変更したことをすっかり忘れてしまっていて、なにも手を打たなかったのです。その結果、娘が起こした事故で、双方のクルマの損傷への補償が皆無となる悲劇を招いてしまいました。もう、うっかりでは済まされないほどのポカ。言い方はともかく、娘が「だっさ」と吐き捨てた心境もわからないではありません……。
自分のクルマを、(同居や別居など)大ぜいの家族が運転する可能性のある皆さん、日頃から、自分が契約している保険の内容を正確に把握していらっしゃいますか? Nさんのような悲劇に陥らないよう、そこらへん、ぜひしっかりと確認しておくことをオススメします。
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