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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2019年8月20日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
Mさん(60歳・会社経営)は若いときから無類のクルマ好き。とくにスポーツカーをこよなく愛してきた。会社の経営状態がよくて、自分の給料も高く設定できていたときは、仕事用も兼ねた高級セダン1台と3台の趣味のスポーツカーを保有していたほどだ。
しかし、リーマンショック以降、経営状態があまり芳しくなくなり、給料も自ら下げざるを得なくなっていた。そのため、セダンを残して、趣味のスポーツカーはすべて処分した。今は、数十年の同好の士である友人が数台所有するスポーツカーをときどき借りて、ドライブするのが唯一の楽しみとなっている。
その日も、友人からライトウエイトスポーツを借りて、ちょい遠出をすることにした。国産車だが、2シーターでオープン仕様のスタイリングはなかなか魅力的で、Mさんの魂は久々に熱くなった。車室の革シートに体を沈めてエンジンをスタートさせ、アクセルを踏み込んで空ぶかししてみるとエンジンは軽やかな咆哮を発した。
ドライブの行程は高速道路で高速走行した後、つづら折りの山道を攻め、また高速で帰ってくるという往復200㎞。幸い晴天に恵まれ、全コースでの走りがいつになく快調なものになりそうな予感でいっぱいだった。
その明るい予感は、たしかに高速道路から山道へと通じる出口手前のサービスエリアまでは当たっていた。ライトウエイトスポーツのキビキビした走りに、Mさんの全身は喜びで満たされていた。だが、サービスエリアに入ってクルマを停め、用を足して、喉を潤した後に駐車場に戻ってきたところで事態は一変する。スポーツカーの助手席側(左側)のドアがべっこり凹み、キズだらけになっていたのだ。そういえば左側の駐車スペースは空いたまま。
何者かがそこにバックで駐車しようとしたものの、ヘマしてぶつけて、ヤバイと思ってそのまま逃げたに違いない。
Mさん、当然のことながら頭に血が上った。「なんてことをしてくれるんだ、たわけ者が!」と誰にいうでもなく声にだして怒鳴った。
しかも、このクルマは友人のもの。Mさんは何とか冷静さを取りもどし、警察に一報を入れた後、友人に電話して事情説明と釈明を行った。
「たわけ者の当て逃げとはいえ、ホントにすまん。たぶん、当てた奴は見つからないだろうから、オレが責任をもって修理するよ。確か、他の人のクルマを運転しているときの事故に対応する特約があったと思う。いずれにしろ、これ以上、君に迷惑はかけないようにするから」
しかし、警官の現場検証が終わってから契約している保険会社に電話を入れたとき、Mさんは再び頭に血が上って、こんどは血管が切れそうになった。オペレーターからこんな答えが返ってきたからだ。
「Mさま、残念ながら、他車運転特約は運転中の事故に対して補償するものであって、駐車中のクルマの事故の被害には適用されません」
結局、Mさんは、修理費用を全額自腹で支払うことに。ライトウエイトスポーツとはいえ、その額はけっこう高く、最近、蓄えが減っている身としてはかなり痛い出費となった。
友人は、そんなMさんに気を遣い、「なんかいろいろ災難だったな。でもさ、ちゃんと責任をもって直してくれたんだから、またいつでも貸すよ。乗りたくなったら、気軽に声をかけてくれ」とやさしくい言ってくれた。
だが、Mさん、その段階でスポーツカーを再び運転したいという気分が完全に失せてしまっていた。「歳も歳だし、もうクルマ遊びは完全に引退だ」。Mさんの1990年代前半から続いた華やかなエンスーライフは、これにて一巻の終わりとなったのであった。いと侘びし。
任意保険に自動セットされる特約
ああ、Mさん、知らなかったのですね、他車運転特約(他車運転危険補償特約)は、借りたクルマを“運転しているとき”の事故にだけ適用されるということを……。
まあ、わからないでもありません。他車運転特約は自分が入っている任意の自動車保険に自動でセットされる特約なので、その存在は知っていても内容までをしっかり把握している人って、けっこう少なかったりするんですよねぇ。
ということで、以下、他車運転特約がどんな内容の特約なのかについて見ていくことにしましょう。
他人のクルマを借りての事故に
自分の任意保険が使える
他車運転特約は、保険会社によって呼び方が異なっています。たとえば、あいおいニッセイ同和損保では「他車運転特約」ですが、東京海上日動火災保険では「他車運転危険補償特約」となっています。
名称は違えど、内容に大きな差異はありません。いずれも、「他人のクルマを借りて運転していて事故が起きたときに、自分が入っている任意の自動車保険から相応の補償が受けられる」という内容です。
つまり、自分が対人賠償責任保険、対物賠償責任保険、人身傷害補償保険、そして車両保険などに加入していれば、他人のクルマであっても、それぞれの保険の条件や限度額のもとで補償が受けられるのです。
事故を起こされたこと自体がクルマの持ち主(友人や知り合いなど)にとっては迷惑な話ではあるのですが、その人が加入している保険を使うことなく事が済ませられるという点では、「致し方ない」と事情を汲んで収めてもらえる最低限の対処ということも言えます。
今回の駐車場での当て逃げ事故では、Mさんは、てっきりこのありがたい他車運転特約が使えるものだと思い込み、友人に対して「これ以上、君に迷惑はかけないようにするから」と明言したのです。
事実はまったく違っていたわけですが……。
借りたクルマが駐車中に当て逃げされた。他車運転特約が使えないって、どういうこと?(前編)
借りたクルマが駐車中に当て逃げされた。他車運転特約が使えないって、どういうこと?(後編)
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