午前中は晴れていた空は、決勝が行われる午後にはどんよりとした曇り空になっていた。
だが、幸い雨は降っていなかった。気温も26.6度と、午前中よりやや低い数値を示している。
長時間にわたる密室ドライビングをする3人のロータスおじさんには、ほんの少しではあるがありがたいコンディションといえた。
決勝のコース上では、Vitzクラスでトップに立ったゼッケン24番のLOTAS CLUB Vitzが、総合6位ということで6番目のスターティンググリッドについていた。
スターティンググリッドのLOTAS CLUB Vitz
マシンに乗り込んでいたのは第1ドライバーの並木重和選手。同選手が予選で見せたスピードでできるだけ先行し、そのリードを第2ドライバーの鈴木泰貴選手と第3ドライバーの鈴木貴大選手がうまく活用しながら走り、最終的に上位(できれば優勝)を狙う作戦だった。
エースが見せた鬼神の走り
午後2時、グリーンシグナルが点灯し、初の「Joy耐チャレンジ」決勝がスタート。
全クラス13車が渾然一体となって猛進する中、真ん中に位置していた並木選手のVitzは、どのマシンにも接触することなく、抜かれることもなく、グリッドの順位のまま第1コーナーへときれいに飛び込んでいった。
固唾を飲んで見守っていたピットのスタッフたちから「さすが、うまい!」の声が上がる。
うまいだけではなかった。決勝での並木選手は予選走行時とほとんど変わらない速さを見せた。
何しろ、わずか2ラップで後続車との間に10秒以上もの差をつけている。このときのタイムは2分35秒700。最終的にVitzクラスのベストタイムとなった記録である。
その後も2分36秒~38秒でラップを重ね、後続との差をどんどんと広げていく並木選手。スタートから45分後にドライバー交代でピットに入る直前には、すべてのVitzを周回遅れにしていた。その時点で上位クラスの最後尾のマシンをもパスしており、総合でも5位に順位を上げていた。
まさに鬼神の走り。参戦者と観衆の多くが、改めて70歳(正確には69歳と8カ月)の恐るべき速さを目の当たりにして感嘆しきりだった。
クラス優勝は、決して夢ではない状況になりつつあった。
給油時に最下位に転落。
終盤の巻き返しも実らず……
スタートから17ラップ目で並木選手がピットイン。
ピットイン後の順位は少し後退したが、他車も順次ピットインしてドライバー交代を行うわけで、第2ドライバーと第3ドライバーが順調に走れば問題なくトップに返り咲く見込みがあった。まだまだ余裕だった。
ところが、ところがである。実際には、そうならなかった。
先に結果を明かしてしまおう。LOTAS CLUB Vitzは、最終的にクラス優勝を逃してしまった。
序盤でリードしていたのに、いったいなぜ?
サーキットを各ドライバーが何周もする耐久レースでは、いろいろな要素が順位に影響を与える。それは、マシンの状態やテクニカルなことに併せて、ドライバー心理なども挙げられる。
第2ドライバーの鈴木泰貴選手のタイムは、ほぼ2分46秒前後でもう一伸びがなかった。普段、鈴木(泰)選手はFR車でレースを戦っている。しかし、この日のVitzはFF車。しかも練習走行はたったの1回。本番で思うようなドライビングがなかなかできなかったのである。
本人は「そんな状態の中で攻めたドライビングをして、スピンしたりクルマを壊したりしたら、もっと迷惑を掛けてしまう。そう考えて、途中からはとにかく無事に第3ドライバーに引き継ぐことだけを考えて走りました」と回想している。結局、約45分間のパートを走り終わった頃には、クラス4位に順位を落とすこととなった。しかも、このピット時に10分間の滞留が義務付けられている給油を行ったため、ピットアウト時の順位はクラス最下位となっていた。
続いてマシンに乗り込んだ第3ドライバーの鈴木貴大選手は、それでも「まだいける」と諦めていなかった。1周を2分40秒を切るタイムで走り続ければ、規定のピットインを済ませていないトップ集団に十分に追いつけると計算していたのだ。鈴木(貴)選手は2分38秒台のタイムを連続して出すなど、果敢な走りを披露し、まずは3位に順位を上げる。そして、周回ごとに1位・2位のマシンとの差をつめ、ピットのスタッフたちを大いに喜ばせてくれた。
だが、その鈴木(貴)選手も残り時間30分あまりとなった49ラップ目あたりから勢いが失われてしまった。後に本人から聞いたところ、フロントのハブあたりから急に激しいバイブレーションが発生し、マシンを壊さず完走するには2分42~44秒で走るしかなくなっていたのだという。
これで万事休す。最終的に完走はできたものの、狙っていたクラス優勝の夢は泡と消えてしまった。もう一息だっただけに、実に残念な結果だった。
とはいえ、予選では断トツ1位のタイムを出した。決勝でも、クラス優勝は逃したもののクラス3位に入賞できた。
この結果は、(コロナ禍で数は少なかったが)観る者の記憶と、今後も続くJoy耐チャレンジの歴史にはっきりと残ったことだろう。LOTAS CLUB SAITAMAのスタッフたち、そしておじさんドライバーたちの奮闘に、身内ながらも賞賛と労いの拍手を送りたい。お疲れさまでした!
「2021 もてぎJoy耐チャレンジ」レポート
(前編)もうすぐ70歳のロータスおじさんが、予選でトップに躍りでた!
(中編)ロータスのVitz、決勝でトップタイムを叩き出すもクラス3位フィニッシュ!
(後編)レースは自分だけでなく、お客さまも社員もハッピーにしてくれる!