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クルマのことならなんでもガイド
2019年12月3日更新
今月の達人
こちや自動車工業・東風谷謙二
EVにおいて、バッテリーは最重要部品のひとつ。今回は、「EVのバッテリーの劣化を遅らせるための具体的な方法」についてお話したいと思います。
一律ではないバッテリー劣化の速度
このごろ、EVを普通に見かけるようになりました。ウチの整備工場にも、EVが入庫するようになりました。
それにともない、お客さまからこれまでになかった質問を投げかけられることがあります。なかでも代表的なのが、「どうしたらバッテリーの劣化を遅らせられますか?」という質問です。
ご存じのように、EVなどのバッテリーは時間の経過とともに必ず劣化します。乗れば乗るほど、走れば走るほど、100%であった蓄電能力が徐々にダウンしていき、長く乗り続けていけば、やがて交換する必要まで生じます。バッテリーはEVの主要部品ではあるものの、整備すれば性能が維持できるガソリン車のエンジンなどとは根本的にちがう性質のものです。
加えて、このバッテリーの劣化の速度は一律ではなく、オーナーのクルマの使い方や走り方によって大きく差がでるといえます。同じEVでも、3万㎞しか乗っていないのに充電能力が80%までに下がってしまうクルマがある一方で、8万㎞を走ったけど充電能力が95%も残っているクルマがあったりするのです。
だから、「どうしたらバッテリーの劣化を遅らせられますか?」は、快適なEVライフをめざすお客さまにとっては切実な質問。どうしても知っておきたい内容のひとつとなるわけです。
急速充電オンリーは劣化を速める
インターネットを検索して調べると、バッテリーの寿命をなるべく長く保つためのヒントがいっぱいでてきます。整備士の立場から見ても、「なるほど」と頷かせるところがあり、「ほんとによく研究されているな」と思います。
ただ、それらのネット情報はあまりにも多様で、私的な思い込みが混在しているものもあります。
そこで、ここでは、整備の現場にいる私から、バッテリーを劣化させないための具体的かつシンプルな方法を二つに絞って紹介したいと思います。いずれも、日ごろの充電習慣に関わる内容なので、容易に実践に移せるはずです。
まず、一つ目ですが、それは、「急速充電をなるべく控える」ということ。
急速充電は、ある意味で「無理矢理に多くの電気を押し込むシステム」ということができます。そのため、バッテリーの温度が高くなり、ダメージが生じやすくなります。毎回の充電を急速充電だけでやっていると、劣化が速まるのは必至です。よほど急ぎの場合とか、たまの長距離ドライブの場合は別として、普段のカーライフにおいては、なるべくバッテリーに負担をかけない普通充電を常としましょう。
こういうと、「日本で展開しているCHAdeMO方式の急速充電器にはクルマからの情報をリアルタイムで読み取って電流値を調整するなどの対策が講じられているので、さほどバッテリーに悪影響はないのでは?」という意見が聞こえてきそうです。
たしかに、そういうケアはされているようです。しかし、とはいっても基本的に多くの電気を押し込む充電システムであることに変わりはありません。それ自体、バッテリーにとっては、かなりの負担となってしまうのです。
先ほど、3万㎞しか乗っていないのに充電能力が80%までに下がってしまうクルマがある一方で、8万㎞を走ったけど充電能力が95%も残っているクルマがあるといいましたが、この差を生じさせる原因の一つは急速充電の多用ではないかと推察されます。
それから、もう一つ。三菱のi-MiEV(アイ・ミーヴ)の例でいうと、i-MiEVにはバッテリーボックス内に複数納められているセル(単電池)の電圧を均等にする機能がついているのですが、その調整は満充電になったときにしか行われないため、80%充電で終えることの多い急速充電ではそれが効かないことになります。そうした状態が続くと、電圧の低い状態にあるほうのセルが痛みだし、全体としてバッテリーの劣化を招いてしまいます。この点においても、常に急速充電で充電するというスタイルはオススメできないといえるのです。
「ちょこちょこ充電」を控えるのも手
もう一つのバッテリーの劣化を遅らせる方法は、「ちょこちょこ充電」をなるべく控えるということ。
みなさん、以前から「ケータイの充電は、なるべく空に近い状態になってから充電したほうがバッテリーの持ちがよい」という話を聞いたことありませんか? そう、あれと同じです。
EVやPHEVのバッテリーも、充電量に余裕があるときにはなるべく充電せず、空に近い状態になってから充電するほうがバッテリーの持ちがよいのです。
そういう充電スタイルを日ごろから実践していれば、所有するEVやPHEVについてバッテリーの劣化を抑制することができます。インターネットなどで自分のEVライフを紹介しているオーナーの中には、常に残り20%以下になるまで充電しないという方もいて、やはりバッテリーはいい状態に保たれているということです。
電欠ギリギリまでガマンして運転をつづけるというのは、なかなかに怖いこと。けれども、普段のカーライフのなかで「この残量なら、この距離は大丈夫」という目安を設定しておけば、決して難しいことではありません。バッテリーの劣化を遅らせることを重視するのであれば、そうしたきめ細かい乗り方が求められるということです。
ちなみに、この方法はいつでもすぐに中・長距離を走る態勢を整えておきたいという人には向かないかもしれません。そういう人は、普段から「ちょこちょこ充電」をすることになるでしょうが、その場合は急速充電での「ちょこちょこ充電」は控えましょう。そんなことをしたら、劣化がどんどん進行してしまいます。あくまで普通充電での「ちょこちょこ充電」が基本です。
結局、バッテリーの劣化を遅らせるには、自分の運転スタイルをよく知り、そこに、ここに紹介した方法を組み込んでいくということになります。みなさんの、スマートかつ快適なEVライフの実現をお祈りいたします。
お店紹介
こちや自動車工業:東風谷吉信氏が1967年に創業した、福島県白河市にあるロータス店。元来、小型車から大型車までの整備・点検をおこなってきたが、現在はエンジン車だけではなくHV、PHV、PHEV、EVなどの整備・点検にも力を入れている。一級整備士でもある東風谷謙二専務は、全日本ロータス同友会が実施するサービスアドバイザー講座のトレーナーを務めるプロフェッショナルである。
住所:福島県白河市萱根西の内53の2
電話:0248(22)1215
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