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2023年5月11日更新
今月の達人
沼津中央自動車・今野秀明[第3回]
沼津中央自動車は「環境に優しい整備工場」であると同時に、「次世代対応の整備工場」である。整備作業時に発生した汚水を浄化する画期的な装置が稼動する一方で、たぶんどんな自動車整備工場よりもクルマのコンピュータ診断をするスキャンツールの活用が進んでいる。
そして、この2つは両立ではなく、連携している。沼津中央自動車社長の今野秀明さんへのインタビュー第3回目は、それらの設備と体制が生み出すエコな効果についてうかがった。
バクテリアを使った
油水分離槽システム
――2007年から中部運輸局静岡運輸支局の「環境に優しい自動車整備事業者」の表彰を計13回受けられています。整備工場におけるエコな取り組みについて教えてください。
今野 先にお話ししたとおり、もともと「絶対に廃油を川に流さない」など、私の父が培ってきた地域に迷惑をかけない整備工場がベースとしてありました。私はそこに、環境に配慮した設備や体制を導入してきたわけです。
――具体的にはどのようなことをされたのでしょうか?
今野 2006年に導入した油水分離槽システムもその一つです。通常、自動車整備工場では、油分を含む排水の処理のためにグリーストラップ(グリース阻集器)を設定して油と汚泥を除去して排水を下水に流します。溜まった油と汚泥は、定期的に業者さんに来てもらい回収してもらいます。以前は、うちもそうでした。けれども、グリーストラップだと油を完全に除去できない場合があります。それで、もっと完全に油を除去できるものはないかと探していたんです。
――油水分離槽システムは、どういう仕組みで油分を含む排水を浄化するのでしょうか?
今野 バクテリアを使います。自然界には油を食べるバクテリアがたくさんいるんですよ。そのバクテリアに槽の中で油を食べてもらうんです。工場から出る排水は全部、油水分離槽システムを経由する設定になっています。槽は4槽構造で、その内の3つの槽ではときどきポンプから空気を送って水を循環させて、水と油の分離を促進します。それから1日に2回、微生物活性化剤を投下する仕組みになっています。それによって、目には見えませんが槽の中では油を食べるたくさんのバクテリアが活性化し、排水に含まれる油を食べてくれるんです。つまり、油はなくなってしまうわけです。汚泥は沈殿して残るので、それは業者さんに回収してもらいます。水は排出しても問題ないレベルに浄化されるので、側溝にその水を流しても油膜は一切浮かびません。
――画期的なシステムだと思います。 また、整備工場自体もたいへんきれいで、整っている印象を受けました。
今野 それは、日ごろから整理・整頓・清掃を徹底している成果だと思います。それと、2012年に整備工場をリニューアルした際に、コンクリートの床を「磨き床」にしたことも多分に影響しています。この床は、表面が大理石のようになっているので油がまったく染みないし、美観が保たれます。
スキャンツールを活用して
「エコ整備」を推進
――御社のホームページに「エコ整備」という記載がありますが、これはどういうことでしょうか?
今野 最近は、多くの自動車整備工場が、クルマに搭載されているコンピュータ(ECU) の診断を行うスキャンツールを所持していると思います。ただ、その使い方は、クルマの状態が思わしくないときに「故障診断」するということがほとんどだと思います。当社では「故障診断」にもスキャンツールを使用しますが、それよりも点検・車検の入庫時に行う「予防点検整備」にスキャンツールをフル稼働させています。当社はスズキのアリーナ店として営業していますので、点検・車検で入庫するスズキ車にはすべてこれを実施していますし、他メーカーのクルマの場合でも汎用のスキャンツールで診断することを基本にしています。このスキャンツールによる「予防点検整備」を軸としたクルマの整備を、私たちはエコ整備と言っています。
――スキャンツールを使って「予防点検整備」を行うことは次世代車対応には良いと思いますが、どのような点がエコなのでしょうか?
今野 今のクルマは、エンジン車にも電動車にもあらゆる箇所にコンピュータが組み込まれています。スキャンツールを使うと、それらのコンピュータのデータを覗き込むことができます。過去の不具合のチェックもできますし、お客さまのクルマが適正なコンディションであるかどうかの判断もできます。もし、異常値などがでた場合には、すぐにお客さまにお伝えし、お客さまの了承を得て適正な状態を回復するよう努めています。そのようにして、クルマの状態を常に適正に保つことができれば、排気ガスに含まれるCO2を抑え、燃費の向上につながります。そうした意味で、エコであると考えています。
――スキャンツールを使うことで、お客さまにもエコ整備のメリットをアピールできるような気がします。
今野 まさにそうです。この試みは、メカニックのミーティングの中ででた、「スキャンツールでクルマの問診をしよう」という提案から始まりました。だから、メカニックはお客さまにクルマをお渡しする際に、「クルマのコンピュータの点検をさせていただきました。異常値などは残っておりませんでした」といった説明を必ず行います。すると、お客さまから「クルマのコンピュータの点検までしてくれたの。ありがとう」といったあたたかい言葉をいただくこともよくあり、私たちもお客さまの満足度の高さを実感しています。環境経営では、お客さまを巻き込んでいくことが重要です。私たちがエコ整備を日頃から実践し、お客さまにご説明しているという前提があることによって、お客さまにエコ・ドライブをお勧めすることもスムーズに行えています。
――スキャンツールを使ったコンピュータ診断とエコのつながりがよくわかりました。
今野 戦後すぐの時代、腕に自信があった父は当時の壊れやすいトラックに「予防整備」を施すことで故障を未然に防ごうと努めました。コンピュータ化への対応とCO2削減・環境保全が求められる現代において、私たちは技術力とスキャンツールによってこの時代に即した「予防整備」を遂行しているというわけです。
――環境経営・環境活動に「予防整備」のDNAが継承されているのですね。
今野 私たちがそういう歴史を持っていることは、一つの強みだと思っています。それに加えて、新しい歴史を創り続けていくことの重要性も感じています。たとえば、昨今では、電子制御装置整備や自動運行装置の整備ができる「自動車特定整備事業」への対応が必要とされています。当社は2020年にその認証を取得しました。これからは、スキャンツールを使いこなす整備技術を持った整備士がますます必要になるわけですが、当社ではすでにスキャンツールを使った「予防点検整備」を全面展開していることによって、新人の整備士も日々経験を積んでいます。これも環境経営の生んだメリットの一つだと言えるでしょう。
[第1回]創業者の「地域に貢献する整備工場」への想いが、「環境に優しい整備工場」につながっています。
[第2回]誰でも無理せずできる「エコキャップ回収運動」が、私たちの環境への取り組みの原点です。
[第3回]スキャンツールを活用した「エコ整備」を実施。お客さまも大満足です。
[第4回]「エコアクション21」によって中小企業でもできる環境経営を実践しています。
[第5回]環境活動に取り組む“想い”をお客さまに伝えるコミュニケーション活動は不可欠です。
[第6回]地元愛を込めた「SDGs行動宣言」。お客さまとともに地域と地球の環境を守ります。
お店紹介
沼津中央自動車:1946(昭和21)年、今野嘉男氏(現社長の父)が静岡県蒲原町(現静岡市)にイマノエンヂンを創業。1954(昭和29)年に現所在地の沼津市に移転し、沼津中央自動車株式会社として法人設立。地域に貢献する自動車整備工場として発展する。1977(昭和52)年に全日本ロータス同友会(ロータスクラブ)に加盟。自動車販売事業では、2001(平成13)年に「スズキアリーナ沼津大岡」を開店。1997(平成9)年に今野秀明氏が社長に就任した後、2000年代から会社をあげて環境への取り組みを推進。2010(平成22)年に環境省の「エコアクション21」の認定を取得し、2022(令和4)年には日刊自動車新聞の「整備事業者アワード2022 環境対策部門」を受賞、また「SDGs行動宣言」を行った。
住所:静岡県沼津市大岡二ツ谷町1553-1
電話:055-963-1061(代)
HP:https://www.numazu-chuo.com
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