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2022年2月10日更新
今月の達人
協同/協同バス・鈴木貴大[第4回]
電気で動くスクールバス・コミュニティバスの導入と運用は、世間から大いに歓迎された。
さらに、“いいこと”は社内でもいっぱい起きていた。
バスの運転手が実感した電気バスの運転のしやすさ、整備士が驚いた車両整備における省力効果とクリーン効果はその代表例と言えるだろう。
第4回目は「運転手、整備士、そして会社も明るくする電気バス」というお話である。
電気バスは「運転手を疲れさせないバス」
——電気バスの運用によって、自社にもいいことが起きたとのことですが、いったい、どんないいことが起きたのでしょうか。
鈴木 ひとつに、バスの運転手があまり疲れなくなったことが挙げられます。例えばコミュニティバスは、朝の7時30分から夜の7時45まで1日12時間強にわたる運行スケジュールが決まっているので、運転手はその間、長短の休憩をはさんで運転を行うわけですが、ディーゼルエンジンやCNGのバスを担当したときは、やっぱりそれなりに疲れがたまっています。ところが、電気バスの担当のときは、疲れ具合が違って、みんな比較的元気なんです。ありがたいことに、電気バスは「運転手を疲れさせないバス」だったんですよ。
——バスに乗る市民の皆さんと同じで、やはりエンジン音がせず、振動もないことがいい影響をもたらしているのですか?
鈴木 それもあります。それから、運転操作が楽なのも大きな要因ですね。バスの運転には、乗客の安全と快適な乗り心地のために、なるべくガックンガックンしないスムーズな走りが求められます。エンジンを積んだバスでそれをやろうとすると、ギアチェンジしながら繊細なアクセルワークとブレーキングを繰り返さなくてはならず、結構大変なんです。しかし、電気バスはモーターによるシームレスな加速と、回生ブレーキによるナチュラルな減速があるから、完全に停止する時以外はアクセルワークだけでスムーズな走りができる。長時間の運転では、必然的に疲労度の差が大きくなるわけです。
——なるほど。
鈴木 細かなことを言えば、夏の暑い日に、しばらく停車している間に気兼ねなくエアコンをつけたままにしておけるのも運転手には好評です。エンジンを積んだバスの場合、エアコンをつけたままにするならアイドリングしておかなければなりませんが、大きなバッテリーを搭載している電気バスの場合は、そういうことを気にする必要がまったくないんです。環境性能と経済性を両立している電気バスならではのメリットです。
——それだけメリットがあると、運転手の皆さんが電気バスを担当したがるんじゃないですか?
鈴木 ええ。みんな、早くすべてのバスを電気バスに変えてほしいと言っています。導入した当初は「社長がまた妙なバスを入れた。もう勘弁してよ」って言っていたのに、実際に運転をはじめたら途端に態度がコロッと変わりましたね(笑)。
点検整備・車検の時間が半減した
——それ以外での導入メリットは?
鈴木 車両整備の面でも省力化が図れています。作業にかかる時間がものすごく減ったんです。細かいことについては、メカニックの貝瀬に話を聞いてみてください。
——貝瀬さん、よろしくお願いします。鈴木社長に「車両整備の省力化が図れた」とうかがったのですが、具体的にはどれほどの省力化が実現しているのですか?
貝瀬 ディーゼルエンジンのバスと比べると、点検・整備、車検の作業時間が半分ぐらいに減りましたね。バスは事業用自動車なので法定点検が3ヵ月ごとにあるんですけど、2時間だったところが1時間で終わります。1年ごとの車検は、先日大型の電気バスについて行ったばかりですが、ディーゼルエンジンの大型バスだと2日かかったところが1日で済みました。慣れれば半日で済むかもしれません。
——半減ですか!
貝瀬 そうです。ディーゼルエンジンバスの場合は、エンジンやブレーキといった主要部品のメンテナンス箇所が非常に多いうえ、エンジンオイルをはじめとした各所のオイル交換の作業も結構手間がかかります。けれども、電気バスは機構がシンプルで、かつオイル類もほとんど必要ないから、いろいろ手間が減って、結果、作業時間も半減するんです。
——それは、診たり触ったりするところが少ないという意味に捉えていいんでしょうか?
貝瀬 一応、すべてにわたってしっかりと診ます。ただ、触るところは確かに少なくなっていますね。もともと高電圧のバッテリーは中を触ってはいけないことになっていて、もし不具合があったらメーカー側が責任をもって交換することになっています。モーターも同様で、整備士がやることといえば、モーターのオイルを交換するぐらいです。ブレーキのチェックは行いますが、回生システムがあるためほとんどブレーキパッドが減らず、滅多なことがない限り交換には至りません。とにかく、電気バスは、我々整備士にとって作業の負担が少ないバスになんですよ。
——でも、故障のときは大変なんじゃないですか?
貝瀬 これまでに発生した故障は、ウインカーのカバーに水が入って玉が切れたとか、ワイパーの不具合とかのちょっとしたものだけ。今のところ大きな故障は一度も起きていません。なので、その質問にはお答えしようがないです(笑)。
——では、組み込まれているコンピュータの設定や調整についてはどうなんでしょうか?
貝瀬 コンピュータに関しては、BYD社の方々と一緒にやっています。設定や調整は、基本的にBYD側が行うんですが、彼らは、我々現場の意見や実感を反映しながら最適な設定を決めています。我々も、そうした協業の中で、電気バスゆえのセッティングについて日々理解を深めています。
——日本への導入期ということもあって、メーカーと整備の現場が協力して、安全・快適な運行を実現しているわけですね……。ところで◎◎さんは、長いキャリアの中で初めて電気バスのメンテナンスを行う立場になったと思うのですが、担当すると決まったときに抵抗はなかったですか?
貝瀬 まさか現役中に電気バスを触ることになるなんて夢にも思っていませんでした。だから、最初はかなり戸惑い、正直「嫌だなあ」って思ってました(笑)。でも、BYD側から丁寧な説明を受け、そのうえで何度か触っていくうちに、「ああ、これなら大丈夫」って思えてきた。今では、新しい整備体験ができ、新しい整備技術を習得できていることが、自分にとって大きなプラスになっていると感じます。
——整備士の立場から見て、電気バスに将来的な可能性は感じていますか?
貝瀬 送迎バスやコミュニティバスといった、それほど長い距離を走らないバスは電気がベストだろうなという意見に傾いています。これから、BYD社の電気バスはもっと増えるんじゃないでしょうか。
クリーンな電気バスを扱えば
自動車整備工場のイメージも変わる
——電気バスは運転手によくて、整備士にもよい。これまでのお二人の話から、「電気バスは売り手にもよし」という意味がわかったような気がします。
鈴木 お話しした以外にもメリットはいろいろあるんですよ。電気バスの事業はスタートしたばかりなので、まだはっきりとした効果は出ていませんが、会社の経営やブランディングにもいい影響をもたらしてくれる存在だったりするんです。
——それはどういうことでしょうか?
鈴木 今後、部品点数の少ない電気バスが増加すると、バス会社としてはよい面が多いですが、自動車整備工場の経営としては「少し厳しくなるのではないか」という見方もあります。でも、私は、それは違うと思っています。整備士不足が叫ばれている今、少人数でも効率的に作業が行えるならば、これまでの台数はもちろん、それ以上にこなせる可能性が出てくるからです。やりようによっては逆に経営にいい影響をもたらすのではないでしょうか。
——なるほど。
鈴木 また、電気バスを多く扱うことは、世間の「油臭くて汚い整備工場」といったマイナスイメージを払拭することにもつながりますよね。脱炭素に貢献するバスを扱っていること自体が好感を誘うわけですが、もっと身近なことで言えば、廃オイルがほとんど出ない工場となるインパクトは相当大きいでしょう。ディーゼルエンジンの大型バスの場合、点検・整備ごとにエンジンオイルをはじめとするオイル類を大量に交換しなくてはならず、1台当たりで廃棄するオイルは年に約100ℓにも上ります。ところが、電気バスにすると、それがまるまるなくなってしまうんですよ。そうなると、後処理のための環境負荷が減るのはもちろん、見た目や臭いを含めた工場の風景自体がガラリと変わっていくはず。我々は長年にわたって「女性のお客さまも普通に通うことができるきれいな自動車整備工場」を目指して一所懸命にやってきましたけど、それが物理的側面において難なく成し遂げられるわけです。これは画期的なことだと思いますね。
——確かに。
鈴木 こうした電気バスの数々のメリットを意識して活用しつつ、今後、我々は新しいバス会社そして自動車整備工場として発展することを目指していきたいと思っています。いや、時代が電動化、脱炭素化に向かって動きはじめている以上、絶対に目指さないといけないでしょう。——つづく
[第1回]環境時代に対応するため、まずは天然ガスで走るCNGバスを導入しました。
[第2回]BYD社製電気バスを導入したのは、品質の高さに“大感動”したからです。
[第3回]電気で走る脱炭素のコミュニティバスは地域の方々から大きな支持を得ています。
[第4回]運転手と整備士にもやさしい電気バス。会社を明るい未来に導く頼れる相棒です。
[第5回]電動化時代に相応しいサービスを提供。これからのロータス店にぜひご期待ください。
お店紹介
協同グループ:埼玉県において自動車運送事業および自動車販売・整備事業を行う企業グループ。グループは、バス事業株式会社協同バス、整備事業の株式会社協同、貨物運送事業の大同貨物自動車株式会社から構成される。1978(昭和53)年4月15日の設立。「みなさまを笑顔にする」ことをサービスの基本として、埼玉県地域の交通インフラの一翼を担う。CNGバスに始まり、中国製電気バスの日本国内への受け入れなど、エコロジカルな交通社会の実現を積極的に図ってきた。株式会社協同は、一般向け乗用車の販売・整備を行うほか、CNGバス・電気バスなど大型車両の改造・整備も行っている。
《株式会社協同》
住所:埼玉県行田市佐間1-27-49
電話:048-554-2254(代)
HP(協同グループ):http://www.kyodo-g.co.jp
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