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2022年2月10日更新
今月の達人
協同/協同バス・鈴木貴大 [第3回]
中国・BYD社製の電気バスの品質の高さを心の底から認めた協同/協同バス社長の鈴木貴大さんは、その電気バスの日本への導入と運行を実現しようと奔走した。
そして、以前から培ってきた「環境問題への取り組み」の実績とネットワークによって、比較的短期間のうちに埼玉県内の女子校のスクールバスへの採用と、久喜市のコミュニティバスへの採用を成し遂げた。
いずれも大成功となったわけだが、成功した一番の要因は電気バスの「CO2削減効果」だった。
第3回目は「今、公共交通の世界では電気バスは無敵の存在になりつつある」というお話をお届けする。
日本初の電気スクールバス
——最初に私立女子校のスクールバスとしてBYD社の大型電気バスを導入されたとのことですが、決意されたのは、中国深圳市での視察を終えてすぐのことですか?
鈴木 実はもう1回視察に行っていまして、その2回目の視察から帰国してすぐに導入を決意しました。そして私たちからの提案に始まり、学校サイドでの検討・手続きを経て2020年11月に導入が決まりました。
——どんな経緯があったのか教えてください。
鈴木 BYDジャパンは2015年くらいから徐々に、日本マーケットに日本仕様の電気バスの販売を開始していまいた。そのときの製品は大型電気バスだったわけです。まさにBYDが世界各国に輸出を行い、「信頼性が高い」という評価を得てきた電気バスの日本仕様車です。私は、まず、それを送迎バスとして導入し運用することを考えました。そこで、すでに我々のディーゼルエンジンバスを採用いただいている埼玉県内の私立女子校(高校・中学校)の校長先生に、「今のスクールバスを電気バスに変えませんか」とプレゼンテーションを試みました。そうしたら、すぐに「それはいいね。ぜひとも採用したい」とおっしゃっていただけたんです。
——すんなりと採用が決まったわけですね。
鈴木 いえ、校長先生は賛同してくださいましたが、私立校ですから法人としての採用決定ではありません。まずスタート地点に立てたということで、そこからいくつものハードルを経て採用が決まったんです。
——費用面で導入メリットがあったのでしょうか?
鈴木 ランニングコストは安くなるにしても、スクールバスは1日に多くの回数や距離を走るものではありません。新たに大型バスを購入して運用するということになれば、やはり私たちが受託する料金は高くなってしまいます。そういうことを明確に提示した上での承認でした。
——では、やはり環境性能が決め手となったのですか?
鈴木 そうなんです。実はその女子校は、「アクティブラーニング(=自ら能動的に学びに向かうよう設計された学習法)」をキーワードとしており、その一環として「科学する女性の育成」を実践していました。環境問題に対する生徒の意識も非常に高いことから、生徒たちを送迎するバスを“CO2を出さないバス”にするのは学校の教育方針に合致している。また、グローバリゼーションの時代において、若い頃から海外に視野を向けるきっかけにもなるだろうということで採用が決まったんです。加えて、電気バスの導入は話題性も大きいので、学校の環境意識をPRする効果も見込まれてのことでした。ちなみに、この電気スクールバスの採用は、日本で初の事例となっています。
——採用が決定したあと、導入・運用までスムーズに事が進んだんですか?
鈴木 比較的スムーズでしたが、すべてが順調だったわけではありません。せっかくいい感じで採用いただけたのに、導入時期が国への補助金申請のスケジュールに間に合わず、危うく頓挫しかけました。なんとかなったのは、ENEOSが購入資金のアシストをしてくれたお陰なんです。
——あの石油元売最大手のENEOSですか?
鈴木 ええ。ENEOSは将来のガソリン市場のシュリンクを見越し、早くから電気自動車や再生可能エネルギーに関する事業に取り組んでいます。それで、我々の電気バスの運用にも興味を持ち、「資金面で協力するから、一緒に電気バスの実証実験という形で進めませんか」と提案してくれました。条件は、毎日のバッテリーの状態記録を含む運用データを共有すること、ENEOS電気の再エネの電気で充電を行うことなどで、ある程度想定内のことでした。
——とてもタイミングのいい申し出。ENEOSは、いったい、いつどこで御社の電気バス導入の情報を知ったのでしょう。
鈴木 実は私が深圳のBYD工場の見学に行ったとき、ENEOSの取締役の方もいらっしゃっていたんですよ。そのときにご挨拶し、親しく会話する中で、「いつか電気バスの事業でコラボしたいですね」みたいなことを社交辞令的にお話したんですが、結局、その縁がうまくつながったということです。この環境時代、何がどう動くか、本当にわからないですよね(笑)。
——確かに。それで、実際の運用は支障なく進みましたか?
鈴木 はい。運用開始から今に至るまで大きな故障もほとんどなく、毎日快調に50名ほどの生徒の送迎を行っています。生徒の皆さんからは、「このバス、地球温暖化につながるCO2を出さないから好き」とか「音と振動がないから乗っていて疲れないし気持ち悪くならない」といったうれしい声をいっぱいもらっています。
BYDの小型電気バスは
環境面とコスト面で無敵
——では、そろそろ本題を。2021年2月10日から運用がはじまっている、久喜市のコミュニティバス用の小型電気バス導入に至るまでのお話をお願いします。
鈴木 私たちが女子校での電気スクールバスを計画・推進していた2019年に、BYDジャパンは日本仕様の小型電気バスの発売予告と先行予約(2020年春からの納車)を開始しました。この小型電気バスは満充電での航続距離が200㎞(BYD発表)なのですが、それほど長い距離を走らなくてもいいコミュニティバスとしては申し分ない性能です。間髪をいれず、久喜市に「現在運行中のCNGバスよりも環境効果の大きい電気バスを走らせませんか」と提案に行きました。
——反応はいかがでしたか?
鈴木 久喜市の梅田修一市長はお若く、地球温暖化問題にも敏感な方なので、非常にいい反応がいただけました。それで早く導入しようということで、2019年度中に具体的な計画を策定して市議会の承認も得て、2020年4月に募集された国土交通省の「地域グリーン化事業」に応募して同年6月に採択が決定。そうした補助対策も活用して導入を行うことができました。また、電気バスの導入に併せて、コミュニティバスの行き先のひとつである市の「ふれあいセンター久喜」に、運行途中に充電できる急速充電機器の設置を決めていただきました。
——これまた、ずいぶんとスムーズな採用ですね。
鈴木 はい、国と自治体の環境意識が高まる中、タイムリーな導入計画であったことが導入を後押ししたと思います。実際に、電気バスのCO2削減効果は圧倒的にいいわけです。私たちの運用データでは、ディーゼルエンジンバスに比較したCO2削減率は55%にも上ります。久喜市のコミュニティバス1台当たり年間16トンのCO2を減らす計算になります。1年間に杉の木が吸収できるCO2が約14㎏だとすると、約1,100本くらいの杉の木の吸収量を削減できるわけです。脱炭素社会に向けて、電気バスはたいへん有効だということがこの事実からもわかります。
——新しい電気バスは車両価格が高いでしょうから、運用コストも高くなると思うのですが、その点はいかがでしょうか?
鈴木 「電気バスは高い」というイメージがあるようですが、BYD社製の小型電気バスの場合はコミュニティバス用途の特別仕様を入れた車両価格で、小型ディーゼルエンジンバスよりは高いけれど小型CNGバスよりは安いという位置付けです。概算で2,600万円くらい。これに電気バスの場合は急速充電器の費用が加算されます。こうしたバスは10年の償却期間で考えるので、初期費用を10で割って年間設備費用を出し、それに1年間のランニングコスト、つまり燃料費と整備費を合わせた維持費を足して運用コストを考えます。その比較では、小型電気バスは小型ディーゼルエンジンバスよりほんの少し高いけれどほぼ同等で、小型CNGバスよりは安くなります。しかも、その比較は補助金を入れない比較なので、久喜市のように補助金を活用した場合は小型電気バスが運用コストでも断然有利になります。
——ランニングコストでは、具体的にどれくらいの削減ができるのですか?
鈴木 私たちの計算では、例えば小型ディーゼルエンジンバスの燃料費が年間180万円(小型CNGバスの場合もほぼ同様)くらいの路線で考えたとき、小型電気バスだとその半分の90万円程度の費用で済みます。10年間なら900万円もの差が出る計算になります。
——なるほど、すごいコストパフォーマンスです。
鈴木 私なりの見解を言わせてもらえば、市街地を循環するコミュニティバスの場合、今のところBYD社の小型電気バスは環境面とコスト面で無敵の存在だと思っています。
利用客はもちろんのこと
路線沿いの住民にも大好評
——ところで、運用に先立って行われた2021年1月のお披露目会で、梅田市長は「(オレンジ色にラッピングされた電気で動くコミュニティバスが)市民の皆さまに元気を与えられるような存在になることを期待している」と述べています。実際、2月以降に電気バスを利用するようになった市民の方々の反応はいかがですか?
鈴木 もう、たくさん好評をいただいています。やっぱり「静かで振動がなくて乗り心地がいい」という声が圧倒的に多いですね。専門的なものでは「モーターによる継ぎ目がないスムーズな加速と、回生ブレーキによるショックが少ないブレーキングで、滑らかな走りが味わえる」といった声も聞こえてきます。
——評価は上々で、市民の方々をしっかり元気にしている、と。
鈴木 はい。忘れていけないのは、コミュニティバスが巡回するコース沿いに住んでいらっしゃる方々からも大いに好感を持たれていることです。バスは狭い住宅地の道路を通ることが多く、それゆえ「静かに走ってくれるのでとても助かる」とか「排気ガスを出さないから大歓迎」といった声が数多く出ているんです。これは事前に予想できなかった評価です。なるほど電気バスにはこういう波及効果もあるんだなと、改めて感心させられましたね。
——導入した久喜市にとっても、利用する地域住民の方々にとっても、電気バスの運用は歓迎すべきものになっている、ということですね。
鈴木 ええ。でも、得られる成果はそれだけじゃないんですよ。「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしという言葉がありますけど、電気バスを導入・運用している売り手である我が社にとっても、実はいいことがいっぱい発生しているんです。―― つづく
[第1回]環境時代に対応するため、まずは天然ガスで走るCNGバスを導入しました。
[第2回]BYD社製電気バスを導入したのは、品質の高さに“大感動”したからです。
[第3回]電気で走る脱炭素のコミュニティバスは地域の方々から大きな支持を得ています。
[第4回]運転手と整備士にもやさしい電気バス。会社を明るい未来に導く頼れる相棒です。
[第5回]電動化時代に相応しいサービスを提供。これからのロータス店にぜひご期待ください。
お店紹介
協同グループ:埼玉県において自動車運送事業および自動車販売・整備事業を行う企業グループ。グループは、バス事業株式会社協同バス、整備事業の株式会社協同、貨物運送事業の大同貨物自動車株式会社から構成される。1978(昭和53)年4月15日の設立。「みなさまを笑顔にする」ことをサービスの基本として、埼玉県地域の交通インフラの一翼を担う。CNGバスに始まり、中国製電気バスの日本国内への受け入れなど、エコロジカルな交通社会の実現を積極的に図ってきた。株式会社協同は、一般向け乗用車の販売・整備を行うほか、CNGバス・電気バスなど大型車両の改造・整備も行っている。
《株式会社協同》
住所:埼玉県行田市佐間1-27-49
電話:048-554-2254(代)
HP(協同グループ):http://www.kyodo-g.co.jp
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