「街と車」　～　「NAVI」表紙写真ストーリー　 Vol.2

写真・初沢克利

「代表的なフランス車は」と聞かれ、シトロエンDSのフォルムを思い浮かべる人は多いのではないだろうか。宇宙船にたとえられる流線型をいかしたデザインは2CVを手掛けたフラミニオ・ベルトーニーによるものである。1955年にパリのモーターショーでデビューしたとき近未来的な車として噂になり注文が殺到したという。
停車時には車体が低くなるシトロエンDSは私にとってフランス車のスタンダードになっている。
フランス政府の公用車として長年使われ、ドゴール大統領の時代から多くの政府要人を乗せてきたことから、テレビのニュースなどでよく見かけたせいもあるだろう。
映画にもよく登場している。子どもの頃に見た映画「ジャッカルの日」ではフランス大統領ドゴールが暗殺者の標的になる。もちろん大統領が乗っているのはシトロエンDSなので頻繁に映画に出てくる。子ども心に流線型の車が気になっていた。ヘッドランプが特徴的だが、後ろ姿も美しい。
タクシー、救急車などの特捜車にもなっているので、日本車でたとえるとセンチュリーではなく、量産されているのでトヨタのクラウンの様な高級車ということになる。
写真は1994年に撮影されている。背景の古い建物とシトロエンDSと道路の標識とのバランスが絶妙である。やはりデザインの強さでパリの街に負けていないことがよくわかる。
写真に移っている男は学生だろうか、サンミッシェル界隈は多くの大学がある文教地区として知られている。
近くにあるカルチェ・ラタンは1968年の「五月革命」でドゴール政権に反対する学生と警官隊が衝突し「解放区」となった地である。「五月革命」は日本の学生運動にも影響を与え、アメリカなど世界各地でベトナム反戦、大学制度改革を主張した大学紛争が起こった。
そんなサンミッシェル界隈とシトロエンDSという組み合わせに意味はあるのだろうか。
今度、初沢氏に聞いてみたいと思っている。
（文・渡辺久浩）