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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2019年2月12日更新
カッコいい車両を展示していた
日本の二企業に取材!
前編と中編では、『オートモーティブワールド』に出展している中国企業のブースの人たちから聞いた「中国のEVの数はすごく多いが、質は日本が上」「自動運転とコネクテッドカーは中国が一歩リードしている」という意見を紹介した。インターネット上の記述で似たような分析を目にしたこともあるが、やはり現地の人の話のほうがリアリティがあってストンと腑に落ちる。聞いてよかった。
ただ、これで終わるのはなんだかもの足りない。「では、日本の企業の人たちは、こうした次世代自動車の世界における中国の躍進をどのような思いをもって見ているのか?」 という興味が湧き、それも探りたくなった。
ということで、NTTドコモと旭化成のブースで話を聞いてみることにした。
この展示会は部品展示が主なため、車両の展示が極めて少なかったのだが、そんな中でこの二社はとてもカッコいいクルマをドーンと展示していた。一般に、NTTドコモも、旭化成も、クルマのイメージはほとんどない。しかし、両社のそれぞれの技術は、次世代自動車の具現化においてかなり重要な役割を担うようだ。車両展示はそれ故のものであり、ブースの担当者はそれ相応の意見をもっていると思えた。
日本の自動運転技術は
デザインも考えて進化する
NTTドコモのブースに展示されていた車両は日産GT-R(トップ写真)。深いピンク色にカラーリングされたそのボディには、5Gの文字が大書してあった。
実は、この車両、2018年の春に行われた時速300㎞の超高速移動環境での5G無線通信実験に使われたコネクテッドカーで、今回は、それに「車載用5Gガラスアンテナ」を装着した形で展示を行っていた。
「車載用5Gガラスアンテナ」とは、車両のデザインを損なわずに、走行中でも広いエリアで安定した高速通信(5G通信)利用を可能にするガラス一体型のアンテナのこと。まだ5Gコネクテッドカーが実用化されていない現段階で、クルマのスタイリングまでを気にするあたり、いかにも日本らしい技術といえた。
以下、ブースにいた担当者へのインタビュー。
― まず、5Gコネクテッドカーの開発と実験を行っているワケを教えてください。実現すると、高速走行中でもこれまで以上にスムースな通信ができるようになるのだと思うのですが、もしかすると、NTTドコモさんもいずれ自動運転の世界に深く関与していくものと捉えていいんでしょうか?
「はっきりとそう宣言しているわけではないのですが、延長線上にそういうことは十分にあり得ると考えています。現在のセンサーやライダーだけの自律型の自動運転には限界があり、やはり人やインフラ、人工衛星などと繋がる協調型の自動運転技術の確立が不可欠といわれています。今回のわれわれの5Gコネクテッドカーの開発と実験が、それに大きく寄与していくことになればなによりだと考えます」
― 自動運転と5Gの開発では、中国が規模もスピードも先行しているといいます。その事実をどう受けとめていますか?
「官民が一体となって自動運転ならびに5Gコネクテッドカーの実現に向かってまっしぐらにやっているところは、少し羨ましく感じます。日本の場合は国は国、通信は通信、クルマはクルマといった具合にそれぞれがバラバラにやる傾向がある上、同じ業界内でも企業によって方式が異なったりもしていて、同じ方向で事が前に進まず、もどかしいところがあるのも事実です。なので、今回のような100年に一度の変革期には、中国のように足並みを揃えて事を急いでもいいのかな、と思ったりするわけです。ま、でも、それはいっても詮方ないこと。われわれは、われわれのやり方で手を緩めず開発を進めていきます」
「車載用5Gガラスアンテナ」でクルマのスタイリングまで気にしながら重要な先端技術の開発に取り組むという、日本独自のきめ細やかさを発揮したNTTドコモの今後の成果に期待したい。
日本の次世代自動車技術は
快適な居住性にも目を配る
旭化成のブースには、『AKXY(アクシー)』と名付けられた近未来的なスタイリングのコンセプトカーが展示されていた。
旭化成といえば繊維とかサランラップが思い浮かび、クルマとはあまり縁がなさそうに思えるわけだが、聞けば、さにあらずだった。実は、長年にわたってクルマ用の内装素材やカーオーディオ用の半導体も作ってきており、けっこう自動車業界とは繋がりが深い会社なのだという。
以下、ブースにいた担当者へのインタビュー。
― このAKXY、ずいぶんとカッコよくできていますが、あくまで展示用のコンセプトカーなんですよね?
「いえ、ちゃんと走るEVです。京都にあるEVメーカーのGLMに協力してもらい製造しました」
― もしかして、旭化成さんも次世代自動車の製造・販売に乗りだされるということですか?
「まさか(笑)。100年先はどうなっているかわかりませんが、当面そういう計画はありません。今回、われわれは『自動車の安全・快適・環境への貢献』をテーマにしてAKXYを創ったのですが、この一台には、快適なカ―シート用人工皮革を使ったシート、各種音声処理技術を利用した車内コミュニケーションシステム、車内の空気環境をセンシングするCO2センサーなどが搭載されています。つまり、われわれが手がけている素材や部品、システムがいかに次世代自動車にとって有用であるかをリアルに感じてもらうために本物のEVを創ったというわけです」
― 主に次世代自動車の車室内の安全・快適・環境を支える素材やシステムを提案しているということですね?
「そういうことです。自動運転とかMaaSとの世界が実現していくなかでは、車室内の定義も変わっていきます。これまではいかに気持ちよく運転できるかが問われていましたが、これからは乗車しているすべての人たちがいかに安全かつ気持ちよく過ごせるかといったことへと焦点が移ります。われわれは、そうしたクルマの居住性市場にアプローチしようとしているのです」
― ちなみに、中国では次世代自動車の開発が盛んで、日本側の手強いライバルと見られているわけですが、そのことについてはどのように捉えていますか?
「旭化成はグローバーサプライヤーで、中国のお客さまもいらっしゃいます。なので、次世代自動車づくりの分野で中国と対抗するという意識はまったく持っていません。日本のメーカー、中国のメーカー、それぞれがいい次世代自動車を実現していけば、きっとすばらしい交通社会ができあがるわけで、われわれとしてはそれを待ち望むとともに、それに相応しい提案を両国のメーカーに対して行っていくだけです」
位相はちがうものの、中編で紹介した自行科技のDr.Yanfeng GUANさんの意見と相通じる話だ。おそらく、次世代自動車づくりの覇権争いというのは、あくまで国益視点あるいは自動車メーカー視点のものであって、既にグローバルビジネスが前提となっている部品製造・販売の現場においては、そういう意識は薄いということなのだろう。何事も一律には語れない。
というわけで、日本と中国のどちらがどうという結論はない。あえていうなら、甘いといわれるかもしれないが、やはり「日中それぞれがそれぞれのやり方で次世代自動車づくりを進めていき、そのなかで技術融合をするなどしてすばらしい交通社会をつくりあげるべき」となるだろうか。
そもそも『オートモーティブワールド』という展示会は、そういう主旨で開催されている…その意味で、次世代自動車の機が熟す、その前段が今年の会場に映し出されていたように思う。(文:みらいのくるま取材班)
『第11回オートモーティブワールド』ルポ
(前編)「中国のEVは、数はすごいけれども質はまだまだなんですよ」
(中編)「インテリジェントカー分野は中国が一歩リードしてますかね」
(後編)「日中それぞれのやり方で次世代自動車をつくりましょう」
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