※写真提供:チャデモ協議会
2020年に日中共通の規格策定
『CHAdeMO(チャデモ)』という規格の直流型急速充電器の国際的展開をめざしている一般社団法人チャデモ協議会は、8月28日の午前、中国・北京市において、中国電力企業聯合会と次世代の超急速充電規格を共同で開発するという主旨の覚書に調印した。
現時点で日本のCHAdeMO規格の急速充電機の最大出力は1000V×400A=150kWで、中国のGB/T規格の急速充電機は750V×250A=50kWだが、この調印により、2020年を目途に日中ともに最大出力1500V x 600A=900 kW(最短10分以下でEVに充電できる出力)の超急速充電規格が標準策定され、以降は、それに基づいた急速充電器が両国および世界各国へと展開されることになると考えられる。
日中の規格の充電器が
世界シェア9割を占める!?
現在、世界中で展開されている主な急速充電器の規格は、日本のCHAdeMO方式、欧米のコンボ方式、中国のGB/T方式の三つで、従来からどの方式のものが世界でイニシアチブを握るかが注目されていた(書き加えておけば、テスラ社は独自のシステムを展開している)。
量的な側面でいえば、CHAdeMO方式が約1万8000台、コンボ方式が約7000台、GB/T方式が約22万台と、圧倒的にGB/T方式が勝っている状況にある。
一方、技術的な側面で見れば、CHAdeMO方式とコンボ方式の二者が競い合いつつリードしてきた。そもそも中国のGB/T方式は日本のCHAdeMOの技術支援によって開発されたものであり、車両と充電器の間でデータをやりとりする通信技術が共通する。
大雑把な言い方をすれば、中国は自国のEV化推進のために必要な「充電器」というインフラを日本のCHAdeMOの技術支援によって成立させ、一気に面展開してきたという事情が読み取れるわけである。
しかし、中国のGB/T方式の約22万台という量は圧倒的であり、中国が次世代に向けてどのような方式を採用するのかに注目が集まり、コンボ陣営が中国との連携を模索しているという話が聞こえてきたりもした。
今回の調印は、中国側から日本側に次世代規格の共同開発が提案され、日本側も応じる方向となったという。中国は日本との共同開発によって短期間のうちに超急速充電技術を確立し、次世代規格を握る方向に舵を切ったということになるだろう。
果たして国際標準はいかに…
いくつかのメディアは、今回の件を受けて、事が順調に進めば世界シェアの9割が日中共同開発の超高速充電器となり、それがそのまま世界標準となる可能性が大きいという解説を行っている。
「“覇権争い”に結着がつき、充電器の製造に関わる日本企業はもちろん、(日本の)自動車メーカーも有利になる流れができるだろう」との予測もある。
そのような言い方もできるかもしれないが、これで「覇権争いに決着」というのは、あまりに早計といえるだろう。
従来から、CHAdeMO方式とコンボ方式はどちらが国際標準となるかを競ってきた。
これはありとあらゆる産業において存在することなのだが、国際標準となることと、市場を取ることは、ときとしてイコールではない。
そして、過去多くの場合、日本は市場を取りながら国際標準になれず、その結果、長い目でみたときにその産業において手痛い敗北を喫するという経験を積み重ねてきた。
今回の調印で、中国には中国の思惑があると考えられる。それは、これまで多くの産業で国際標準を手にしてきた欧米に対抗し、中国が主導する国際標準を生み出すことであろう。
日本はどうか?チャデモ協議会から、その辺を察することのできるコメントやリリースは出されていない。
しかし、中国からの申し出を受けて調印を決断した背景には、中国という量の力と組み、CHAdeMOの名を捨ててもコア技術という実を取る(つまり、国際標準を握る)という決断があったのではないか・・・そんなふうに考えられなくもない。
たとえば、チャデモ協議会の吉田誠事務局長は、以下のような発言をしている。
「欧米勢が参加を望み、それなりの譲歩をするのであれば、枠組みに入っていただけることは歓迎だ」(毎日新聞8月22日)
「(コンボと)規格争いではなく互換性などを議論している」(日本経済新聞8月27日)
コンボ側は、いまのところ日中の枠組みに入ることに難色を示しているという。先にも述べた多くの産業の国際基準は、ある意味では政治的な手法によって決着をみてきた(くどくいえば、欧米は政治的な手法に長けている)。今後、「互換性の議論」において、どちらが主となりどちらが従となるのか。まだまだ展望は定かではない。
一ついえることは、日中が共同開発する2020年の超急速充電規格が、きわめて優れており、強力であるということと併せて、対立する陣営にとっても極めて魅力的であらねばならないということである。(文:みらいのくるま取材班)