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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2018年6月26日更新
EVはエコではあるが
ゼロエミッションではない
走るときも給電するときも、EVから排気ガスはでない。
しかし、完全なるゼロエミッションを達成しているのかというと、そうではない。
EVに充電する電気を石油、天然ガス、石炭を燃やす火力発電でつくれば、そのときに大地球温暖化の原因であるCO₂が大量に排出されることになる。CO₂の排出が少ないとされる原子力発電による電気であれば、毒性が強い放射性物質である核廃棄物の発生がともなうことになる。
いずれも間接的な有害性ではあるものの、そうした電気を使って走ったり給電をする以上、見て見ぬふりをして完全なるゼロエミッションを誇ることはできないのである。
EV普及を後押ししている日本EVクラブも、そのことはよく承知している。
だから、今後、風力発電や太陽光発電などの自然エネルギー発電による電力供給が増えることを切に願っている。そして、そのためにはどうすればいいかを懸命に模索している。
〈5/31 六ヶ所村で原発関連施設を見学〉
立場は違えどEVに関しては見解が一致
『EVスーパーセブンで東北被災地を巡る旅』の一行は、最終日の5月31日、青森県の大間崎にゴールする直前に六ヶ所村に立ち寄った。
六ヶ所村といえば、原子燃料サイクル施設があることで有名なわけだが、近くに巨大な国家石油備蓄基地があったりもする。そうかと思えば、至るところに風力発電の風車が立つほか、メガソーラーシステムの施設まであり、自然エネルギー発電の聖地ともなっている。いわば、日本のエネルギー事情の縮図のような風景が広がる特別な場所なのである。
旅のメインドライバーの堤健一氏と寄本好則氏は、この六ヶ所村で、原子燃料サイクルの必要性を訴求する「六ヶ所原燃PRセンター」と、放射性物質および放射線の環境への影響安全などについて研究する「環境科学技術研究所」を見学に訪れた。
「なぜあえて原発関連の施設へ?」の質問に両氏は、以下のように答えている。
「われわれのように、『なるべく自然エネルギーでEVを走らせ、給電するようにしようよ』といいたい人間は、ただただ自然エネルギーを賞賛するだけでなく、ほかのエネルギー源のメリット、デメリットについてもしっかり認識し、それを元に説得力をもって発言していく必要があります。なので、今回は是か否かではなく、虚心坦懐に勉強させてもらうつもりで訪問することを決めたんです」
果たして、その虚心坦懐の訪問は大成功となった。
まず、一つの感動的な出会いがあった。「環境科学技術研究所」で、かつてある電力会社がつくったプロトタイプEVの開発に携わった人と偶然に出会うことができたのだ。堤氏も、寄本氏も、そのEVの存在を知り、EVを推進する道に足を踏み入れた経緯がある。それを思うと、この出会いには、“世話になった恩師に再会した歓び”に近い感慨があった。
もう一つ感動的だったのは、その研究所で、今後のEV普及に期待しているという嬉しい見解の一致が得られたことだ。研究所の人によると、原発による発電を行うにせよ、社会全般で夜間に充電したEVによる給電、あるいはリユースバッテリーによる給電が増えていけば、夏場などに余計な発電をする必要がなくなるので、その効用に大いに注目しているとのことだった。
二人は、立場が違う人たちも、EVの普及に注目していることを知り意を強くした。ゼロエミッションを達成するために電力供給源をどうすべきかという問題は残ったままだが、それは同じEV推進派として、ともにじっくり語り合い、時間をかけてよりよい道を見つけだしていくべきことのように思え、そのことへの決意が新たにできたのだった。
なお、この六ヶ所村では、仙台から女川までEVスーパーセブンのサポートドライバーを務め、その後も旅をフォローしてきたSEIさん(31才)という方から、EVのエネルギー問題に関する貴重な意見をもらっている。SEIさんは、さまざまな自動車メーカーの開発をサポートすることを仕事にしている、いわばクルマ業界のプロである。
「いまのEVって、電力ロスがけっこうあったりするんです。今後、そのロスを少なくする技術が確立すれば、同じバッテリー容量でも航続距離は延びていくし、給電能力もアップしていくことになるんです。だから、EVのエネルギー問題は、発電の種類だけでなく、そうしたクルマの側からも考えていくべきものとしてあるといえるんです。EVのさらなる技術の進化に期待しましょう」
〈5/31 大間崎にゴール〉
五感でわかるEVの魅力ということ
旅のゴールである本州最北端の大間崎は、面する津軽海峡に朝日が上り、夕日が沈む。
だから、曇りの日の深い夕刻であっても、かなりの明るさが残る。
午後5時半ごろ、EVスーパーセブンとその一行が、遂にその大間崎にスルスルと到着した。EVは音がでないだけに、じつに静かで落ち着いたゴールとなった。
ただ、2週間にわたって約1000キロという長距離をドライブし、各地でキャンプをして過ごしてきた二人のメインドライバーにとっては、それは飛び上がるほど嬉しいゴールとなっていた。
堤健一氏は、日焼けした顔をさすりながら、こうゴールの歓びを語ってくれた。
「いいことではないのですが、EVスーパーセブンにトラブルが頻出し、それを克服しながら旅を続けたからこそ、達成感が大きくなったところがある(笑)。いや、無事にゴールできて、ほんと感無量です」
「旅の大きな目的であったEVの給電アピールもしっかりできたかな、と思っています。たとえばキャンプで行った給電バーベキューもそのひとつ。各地で参加してくれた人たちが『EVの電気で焼くバーベキューって、早く焼けるし、すごく美味しんだね』と絶賛してくれた。みんな、味覚でEVの給電メリットを感じてくれていたんです。なんでもないことなのかも知れませんが、そういう人間の五感に即したメリット訴求って大事なんだなってしみじみ感じ入りましたね」
「あと、私たち自身、夜はテントで二人っきりで寝たんですけど、いつも傍らにエネルギーを蓄えたEVがあることに妙に安心感を覚えました。もしなにかあっても、なんとかなる、そんな思いをもって就寝することができていたんです。だから、総合的にいえば、人間の生きる渇望をサポートする存在としてのEVのメリットを訴求できたし、実感できた次第。ほんと、いい旅になりました」
寄本好則氏は、今回の旅のテーマであった「元気と電気を届ける旅」の成果について語ってくれた。
「まず元気のほうですが、被災した人たちに元気を届けるつもりが、皆さんの元気な姿や活動に感銘を受け、逆に元気づけられたりしました。だから、この旅は、お互いに元気を届け合う旅だったのかなあって改めて思っています」
「電気を届けるについても、そう。僕はこれまで昔ながらのキャンプを何回もしてきたんですが、今回の連日のキャンプ生活で、EVの電気でつくる料理のほうが断然美味しくなるし、後片付けもすごくカンタンなんだということがよくわかった。さすがにたき火がないのは寂しかったですけど(笑)、自分自身が電気というエネルギーのありがたさをとことん実感できたように思います。今後は、このリアルな体験を踏まえて、EV推進のためのもっといいコミュニケーションができていければいいなって思っています。そして、それこそが本当の意味で電気を届けるための第一歩になるのかな、と」
「あと、原発関係の施設を見学できて、そこでいろんな方と出逢えたこともよかったことの一つですね。エネルギー問題は、そうカンタンに解決できることではないことが確認できたうえで、みんなEVの働きにかなり期待していることがはっきりとわかった。なので、僕らとしては、それを前提としながら、EVと自然エネルギー発電の必要性をより説得力をもって訴えていこうという決意がもてた。はい、ほんとうに、いい勉強になりました」
「結局、物事は頭で考えるだけではダメで、こうやってEVで自分のカラダを遠くに運んでみて、はじめてわかることがあるということでしょうね。皆さんも、ぜひ、社会を変えるチカラがあるEVで旅をしてみてください。楽しく快適なのはもちろんですが、きっとエネルギー問題のことがちゃんと考えられるようになるなど、これまでになくいい世界観が広がっていくはずです」
今回の旅は終わった。だが、EVスーパーセブンによる旅は、これからも続いていく予感に溢れている。
二人によれば、今後、壊れた急速充電機能を諦めて、普通充電機能を100ボルトから200ボルトにバージョンアップしたEVスーパーセブンをつくる計画があるのだという。現在、日本では急速充電機よりも200ボルトの充電機が多く普及しているため、それに対応するものにすれば、より安定した長距離の充電走行が続けられるようになるからだ。つまり、それは長旅を想定した改良をすることを意味している。
はてさて、新たに生まれ変わるEVスーパーセブンは、次はどのようなユニークな旅に出ることになるのだろうか。首を長くして待ちたい!
(文:みらいのくるま取材班)
【ルポ】日本EVクラブ『電気自動車EVスーパーセブンで東北被災地を巡る旅』
①・・・「全国にEV給電ネットワークをつくるのが僕の夢」(舘内端)
②・・・「世界初の外部給電器を生む契機となった中学校に感謝」(堤健一)
③・・・「東北の人たちがEVに乗れば震災支援の恩返しができる」(柴山明寛)
④・・・「EVで旅すると電気エネルギーのありがたさが身に染みる」(寄本好則)
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