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2019年6月27日更新
2015年に往年の名車トミーカイラZZをEVスポーツカーとして復活させ、2019年には日本初のEVスーパーカーであるGLM G4を量産するというGLM。社長の小間裕康氏に、両車の誕生ストーリーと今後のビジネスの展開に関しての話を伺った。第1回目はトミーカイラZZ開発・販売の経緯について――。
往年の名車がEVで復活
かつてトミーカイラZZというガソリンで走るライトウェイトスポーツがあった。1997年から2年にわたって206台が生産されただけだが、幻のスポーツカーといわれるほどに名車の誉れ高い一台だった。
2015年、そのトミーカイラZZは、限定99台のEVスポーツカーとして再び世に姿を現した。車両重量850㎏、モーター出力305ps/42.3㎏m。スタートから時速100に到達するまでに3.9秒しかかからないなど、元祖を上回るスポーツ性能を誇ることから、まさに現代の名車との賞賛の声が集まった。
これをつくったのは、2010年に京都で起業したベンチャー企業のGLM。それまで1台もクルマを開発・販売したことがない非常に若い会社だった。
京都だからこそのEV開発
GLM社長の小間裕康氏は、まず、EV開発に乗りだしたワケから教えてくれた。
「われわれは京都大学の京都電気自動車プロジェクトから発したベンチャーです。だから、EVをつくることはもともとの大命題としてあったわけです。ただ、ビジネス化を進めるうえにおいては、世界のモータリゼーションが急速にEVへと傾きつつあるという現実と、京都がEVがつくりやすい土地柄であるという事実、この二つが強力に背中を押したという実感が強くあります」
「そう、京都は、COP3で京都議定書が締結されたことから府民の環境意識が高く、EVづくりにも理解を示してくれました。しかも、EVに関する優れたテクノロジーをもつ一流の部品メーカーが集中していて、開発が進めやすいという背景もありました。われわれは、そのEVづくりのための恵まれた環境を存分に活用させてもらったということです」
高付加価値のスポーツカーを
では、なぜスポーツカーだったのか? 小間氏は、ベンチャーとしての必然があったと語る。
「とにかく、とんがったクルマを世に送りだしたかったんです。手ごろな価格の便利なクルマの開発・販売は大手メーカーがやる仕事です。それに対して、われわれのようなベンチャー企業は、世の中に大きなインパクトを与えられる希少なクルマで勝負すべきだろうと考えました。それで、日本にはなかったEVのスポーツカーをつくることにしたんです」
「注目したのは話題性だけではありません。経営的にもいい結果がでるだろうと考えました。スポーツカーを購入したいというお客さまは、世の中にそう多くはいないものの、確実に一定数はいます。そういう人たちに対して面白くてきちんとした商品が提供できれば、価格が高くてもある程度は必ず売れるだろうと踏みました。つまり高付加価値ビジネスに活路を見いだしたのです」
トミーカイラ伝説の継承
EVのスポーツカーをつくることを決めたものの、その時点ではまだ往年の名車トミーカイラZZをEV化するという発想はなかった。その選択と決定は偶然の出会いから生まれたものだった。
「会社を発足させたときにエンジニアを募集したところ、かつてトミーカイラZZの開発に携わっていた人が応募してくれました。それで私は、京都にある会社が名車の誉れ高いトミーカイラZZというスポーツカーを開発し、販売していたという事実を知ったんです」
「私は、EVと京都の縁というものを強く感じていたこともあって、これだと閃き、早速、創業者の冨田義一さんに会いにいきました。そして、これからつくるEVスポーツカーをトミーカイラZZにしたいと直訴したところ、富田さんは快く諾としてくれたというわけです」
時間をかけて一流部品を調達
いい環境、いい出会いがあり、トミーカイラZZのEV化プロジェクトははじまった。しかし、ベンチャー企業がクルマをつくるということはやはり想像していた以上にたいへんだった。小間氏は当時のことを微苦笑しながら振り返る。
「単にかつてのトミーカイラZZの中身を入れ替えるという話ではなく、一から新たにつくる必要があったわけですが、とくに高品質で安全なクルマをつくるための労力と時間は想像以上に多くかかりました」
「それは技術的な問題だけではありません。たとえば、当初、いくつかの部品メーカーさんが、実績のないベンチャーに部品を提供することを渋り、なかなか開発が前に進まなかったという事情があったりもしました。もし、できたクルマが危ういものだったら、自社の部品のブランドに傷がつくと考えたのでしょう」
「その気持ちはよく理解できました。しかし、われわれは、安易に海外の信頼性の低い安い部品を使うつもりはまったくなかったので、それら部品メーカーさんに対し、自分たちの細部にまでこだわった安全思想と設計について時間をかけて説明し、提供していただけるよう努めました。ローンチの予定が3年延びたのは、これら欲していた一流部品がすべて調達できる状態になるのを待ったためという側面もあったのです」
美味しい素うどんのような一台
2015年10月、遂にEVスポーツカーのトミーカイラZZがローンチされた。それは、開発責任者が内部でたてていた秘密のコンセプト「なにも乗せなくても、麺とつゆだけで美味しくいただける素うどんのようなクルマをつくろう」を見事に体現させたものだった。世の中のスポーツカー好きたちは、こぞって食指を動かし、結果、限定99台という数を大幅に上回る予約が入ることになった。小間氏の狙いどおりの展開だった。
「そう、美味しい素うどんのようなクルマです(笑)。屋根もないエアコンもないトミーカイラZZは、ただ“走る・曲がる・止まる”がきっちりと楽しめる素晴らしいスポーツカーに仕上がりました。屋根やエアコンがない分、余計な開発労力が削られ、クルマとしての高品質化に集中できたということです」
「実際、購入いただいたお客さまをはじめ、国内外の専門家やクルマ好きの人たちから多くの賞賛の声をいただくことができました。少数精鋭の体制で、苦労して開発を行ったエンジニアたちには、すごく大きな励みになりました」
「私としても、ベンチャーとしてとんがったEVスポーツカーづくりをめざしたのは大正解だったと、自分なりに満足しました。とはいえ、じつは反省点もありまして……完成までに時間がかかりすぎて、そのせいで、いただいた予約のかなりの数がキャンセルとなってしまったんです。その後追加の注文をいただき、おかげさまで完売に近い状態となっていますが、当時、これは相当に苦い経験となりました」
その後、GLMは、EVスポーツカーのトミーカイラZZの成功体験と反省点の両方を活かし、次のEVづくりに取り組むことを決めた。それは、最新技術をタイムリーに盛り込んだEVスーパーカーのGLM G4。2016年のパリモーターショーでコンセプトカーが初披露され、現在、2019年の発売をめざして開発が進められている。(②につづく)
(文:みらいのくるま取材班)
EVキーマンに聞く/GLM株式会社社長 小間裕康
①トミーカイラZZ誕生エピソード~「とんがったEVがだしたかったんです!」
②EVスーパーカーG4開発コンセプト~「あえてタブーに挑戦しています!」
③プラットフォームビジネスの展開~「さまざまなオリジナルEVが可能です!」
小間裕康(こま・ひろやす)
GLM株式会社 代表取締役社長
1977年8月3日生 。 大学時代に音楽家派遣サービスをはじめ、2000年に株式会社コマエンタープライズを設立。国内外の電機メーカーへのビジネスプロセスアウトソーシング事業に展開。 2010年にGLM株式会社を設立。独自開発のEV Platformをもとに、EVスポーツカー「トミーカイラZZ」を開発。 2015年に日本のベンチャーとして唯一、EVの量産を開始。 2016年にパリモーターショーにて次世代EV「GLM G4」を発表。
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