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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2024年11月9日更新
EVは、アクセル全開で長い距離を走り続けると、バッテリーが過熱して損傷をきたす恐れがある。
そのため各メーカーは、自社のEVに、バッテリーが一定の温度を超えたらアクセルを踏んでも相応の加速ができなくなるシステムを導入している。
普段の道路走行でこの制御が働くことは滅多にないが、一般ユーザーにとっては安心を担保してくれるシステムといえる。
しかし、EVレースを走るドライバーにとっては大問題。みんな、これを「熱ダレ」と呼んで忌み嫌っている。
いくらパワーが大きいクルマでも、どれほどいい位置で走っていても、勝つことができなくなってしまうからだ。
ただ、対策はある。バッテリーが過熱しないよう頭を使って走ればいい。
ピットからの適切なペース配分の指示、それに呼応するドライバーによるアグレッシブかつクレバーなアクセル調整。これらがうまくいけば、レース途中の熱ダレは起きにくくなり、高い確率で勝利をものにできる。
10月20日に筑波サーキットで開催されたALL JAPAN EV-GP SERIES 2024の最終戦となる第6戦「全日本 筑波 EV 60㎞レース大会(2.045㎞×30周)」では、この頭脳的戦略が結果につながった。
“分切り”なるか!?
1周の速さを競う予選は、熱ダレを心配する必要はあまりない。
この日の午前に行われた予選でも、各ドライバーはアクセル全開でタイムアタックに挑んでいた。
前戦で年間総合チャンピオンを決めているKIMI選手は、爆速のモデルSプラッド(#23 GULF RACING/EV-1クラス)のアクセルをめいっぱい踏み込んで“筑波の分切り”すなわち1分未満でのEV-GPのレコードタイム樹立を目指していた。
だが、記録は1分01秒717止まり。この日は、全19台もの車両がコース上にいたことから、なかなかクリアランスが取れなかった。
幸い、最大のライバルと目されていたアイオニック5Nを駆るCHOI JEONG WEON=チェ・ジョンウォン選手(#3 KMSA MOTORSOORT N/EV-1クラス)が、午前中に別のレースに出場していたため予選に不参加。不本意なタイムながらも、楽々のポールポジション獲得となった。
KIMI選手は、決勝ではチャンピオン・シーズンの最終戦に花を添えるべく「優勝を目指す」と静かながらも断固とした口調で目標を語っていた。
予選番手はモデル3パフォーマンスの地頭所光選手(#321 WIKISPEED/EV-1クラス)。かつて前人未踏の年間総合4連覇を成し遂げた名選手である。
所属していたTeamTAISANが今季途中でレースから撤退したため、しばらく復帰はないと思われていたが、今季から参戦しているWIKISPEEDがTeamTAISANの車両を買い取ったことで、早期の復帰が実現した。
今回、地頭所選手がかつてのチャンピオンカーを駆って1分前後のタイムを出すかどうかに注目が集まっていたが、WIKISPEEDの代表兼ドライバーのJoe Jastice選手のプラッド(#524)がクラッシュ事故を起こしたことも影響し、タイムアタックが十分にできず、1分06秒049という平凡な記録に終わった。
とはいえ意気は軒昂。地頭所選手は「決勝では優勝を狙う。旧型のモデル3パフォーマンスがまだまだ速いというところをしっかり見せつけたい」と勇ましく語っていた。
予選3番手はモデル3パフォーマンスのTAHARA選手(#17 GULF RACING/EV-1クラス)で、今回が初参戦。いつもはKIMI選手の車両の整備を担当しているが、かつてKIMI選手がレースで使用したモデル3を購入したことから、今回の参戦に至った。
本業のポルシェの整備でポルシェタイカンを走らせているので、EVには慣れている。それに筑波は耐久レースで何度か走っている。決勝も、予選タイムの1分06秒400に近いペースで走り続ければ、そこそこいけるだろうと踏んでいた。
ただ、目標は控えめ。「KIMI選手を勝たせるためにブロック役に徹し、その中で上位に食い込めればいいのかな」と気負う様子もなく語っていた。
予選4番手はモデル3RWDを駆るモンド スミオ選手(#55 Mond Coffee/EV-2クラス)。前戦では自車よりもパワーがあるアイオニック5Nとのバトルを制して4位に入賞。同時に年間総合2位とEV-2クラスのチャンピオンも決めている。
来季はもっとパワーがある車両に乗り換えてレースを戦う予定らしいが、今回、最終戦にもかかわらず現車両をさらにブラッシュアップさせてきていた。
実はモンド選手のモデル3RWDは、バッテリーの冷却システムにパワーの大きなモデル3パフォーマンス用を搭載しているおかげか、熱ダレがほとんど起きない。モンド選手は、非力ながらもこうした優れた特性を持つ現車両を大いに気に入っており、最後の最後まで戦闘力アップのための手入れがやめられないのだ。
決勝では、アップした戦闘力と今シーズンに向上させたブレーキングとコーナリングの技術をもって、また上位入賞を狙うつもり。「パワーの大きなクルマといいバトルをして勝つところをお見せしたい」と、いつもの柔和な表情を引き締めながら抱負を語っていた。
素性がいい中国製EV
予選7番手ながら、サーキット中の注目の的となっていたのは自動車研究家の山本シンヤ選手が駆るシャオミSU7Max(#70 小野測器/EV-Pクラス)。
バッテリー容量はモデルSプラッドの100kWhを上回る101kWhで、モーター出力はアイオニック5Nの478kWを上回る495kW。見た目もまるでポルシェタイカン。爆速の予感に満ちた初見参の1台だ。
この日本未発売のEVが、なぜ参戦することになったのか。
チームの小野測器は計測器メーカーで知られる会社だが、近年、新発売となったEVの計測データをメーカーなどに販売するビジネスも展開している。SU7Maxはそのビジネスの一環で中国から取り寄せたもの。既にある程度は計測を終えていて、熱ダレしにくい特性があることなどがわかっている。ただ、それは通常使用における特性である。レースのような極限状況ではどうなのかが不明であり、それを知るためにも今回はノーマル車のまま参戦に至ったのだった。
計測の結果は、決勝でのデータを基に社内で詳しく分析した後に明らかになるため、現時点でわれわれには知るすべがない。ということで、SU7Maxがいったいどんな1台なのか、予選を走らせた山本選手に印象を語ってもらった。
「637馬力あるだけに、ストレートは非常に速い。だけど、コーナーはいまいち。たぶん安全を優先した制御が働くせいで、曲がっている途中でアクセルを踏んでも加速をしない。制御を解除すれば、もっといいコーナリングができてタイムもよくなると思うが、今のところその方法がわかっていない(苦笑)」
「あと、車重が2.2トンあるわりにブレーキがかなり脆弱だった。決勝の目標はデータ取得のために完走することだが、このブレーキだと厳しいような気がする(事実、決勝前にブレーキバッドを交換)」
「ただ、総合的にこの中国車は、想像していたよりも高いレベルにあると感じた。なんというか、素性がとてもいい。たぶんヨーロッパのエンジニアリングの会社がつくっているのだろう。前後車重バランスがきっちり50:50になっているし、至るところに欧州車っぽいつくりが見て取れる。今後、制御や足まわりの改良を加えていけば、相当いいクルマに仕上がるのではないか」
「ちなみに、僕はこのEV-GPの黎明期にアイミーブで参戦していたことがある。2019年にもMIRAIで一度出た。その経験を踏まえて言えば、高速化が著しく、レースのレベルが相当高くなった印象がある。おそらく熱ダレ問題もかなり改善していることだろう。今回は、そんな大きな進化がある中、未知の車両でのレースとなる。決勝では僕なりの走りをしてなんとか完走を成し遂げたい」
今季ラストのEV-GP決勝、各ドライバーは掲げた目標を達成できるのか!?
ALL JAPAN EV-GP SERIES 2024 第6戦レポート
①【予選】爆速のシャオミSU7Max初見参も、プラッドのKIMI選手が楽々とポールを獲得!
②【決勝】王者の帰還。モデル3の地頭所選手がラスト1周で大逆転ウィン!
③【表彰式】初の戴冠。シーズンを通して圧倒的強さを見せたKIMI選手に100人が大拍手!
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