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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2024年10月10日更新
2024年に入ってから、世界的にEV販売の伸びが鈍っている。
逆にエンジンを搭載したHVとPHEVの販売が好調に推移している。
この事実を受け、ちまたでは「日本車の巻き返しのチャンス」との声が多く聞かれるようになった。
得意のHV販売で地力を保ち、その間、遅れているEV開発に力を注げば、かつての自動車大国の地位が取り戻せるとの考えだ。
なるほどの理屈である。
だが、本当にそうなのか?
この本の著者は、それは現実を見ない楽観論と断じている。
トヨタとホンダの
DVに期待せよ
著者は、今の世界自動車市場において、主要な競争軸はEVではなくなったと見ている。
2040年ごろまでにEV普及はある程度は進むだろうが、現時点での伸長は予想よりも緩やか。自ずとEVか否かは喫緊の競争軸ではなくなりつつある。こうなると、代わって競争軸となるのは、このごろ開発・製造が急なデジタルビークル=DVか否かになる可能性が大きいのだという。
DVとは何か。
本書によれば「デジタル技術をフルに活用して新たな価値を盛り込んだ次世代のクルマ」のことだ。
代表的なものとしては、テスラ車のようなネットを介してソフトウェアを更新するOTAや自動運転技術が備わったクルマが挙げられる。また、最近の中国車に見られるような、音声でエアコンやシートポジションなどの調整ができたり、車中から住宅のエアコンや施錠の管理ができたり、カラオケなどのエンターテインメント機能が充実していたりなど、乗員に新しいエクスペリエンスをもたらすクルマもそれに当たる。
こうしたデジタル化に伴って、クルマのインパネ周りも大きく変わってきている。
機械式のメーターやスイッチ類が排され、操作のほとんどが大型ディスプレイのタッチもしくは音声指示で行えるようになっている。なかには、フロントウィンドウにナビゲーションや運転支援システムの作動状況などを表示する拡張現実ヘッドアップ・ディスプレイを搭載するクルマまで出てきている。つまり、DVは使い勝手も見た目もまさに次世代的な仕様となっているのだ。
DVの市場投入はこれから本格化するため、評価はまだ定まっていない。だが、例えば中国の若い世代には「とても新しくてスマートなクルマ」と映るらしい。対してDV化が遅れている日本車やドイツ車などは、たとえ「走る・曲がる・止まる」がしっかりしていたとしても、「とても古くさいクルマ」と映るようだ。こうなると、パワートレインがEVであろうとHVであろうとPHEVであろうと関係ない。購買欲求の促進力は当然のごとく前者に軍配が上がることになる。
すなわち、HVやPHEVの販売が盛り返しているとしても、現状でDV化していない日本車は競争力に欠けるといえる。実際、中国の各メーカーは、時代の流れを読んでDV化したPHEVの販売にも力を入れはじめている。それらを考えると、「日本車の巻き返しのチャンス」などと甘いことは言っていられないのである。
ただ、希望もなくはない。
トヨタとホンダが、遅ればせながらも2025年以降にDV化したクルマの販売をはじめるという。その実力のほどは現物に接してみないとわからないが、著者が聞き及んだところによれば、かなり期待が持てそうだ……。
真の「日本車の巻き返しのチャンス」は、2025年からしばらくして、ようやくはじまるのである。決して今ではない。
『ポストEVの競争軸 デジタルビークルの知られざる正体 ~人と対話するクルマの未来』
・2024年8月5日発行
・著者:鶴原吉郎
・発行:日経BP
・価格:2,200円(税込)
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