画像提供:横浜ゴム(株)
ロータスクラブの提携企業である横浜ゴムは、2024年2月、日本国内でEV(電動車)対応のサマータイヤ「ADVAN Sport EV」を発売した。
世界の中で、EVへのシフトが遅れているといわれる日本。実数が少ないこともあり、EVの情報・知識などもなかなか浸透していない。たとえば「EVにはEV対応タイヤを装着すべき」という認識も定着していない。
しかし、EVがマーケットシェアを拡大している国では、「EVにはEV対応タイヤ」が常識になっているようだ。だから、世界のマーケットにタイヤを供給するタイヤメーカーとして、EV対応タイヤの開発・販売は大きなテーマといえる。
ここでは、ADVAN Sport EVというリアルな商品を軸に、EV対応タイヤについて頭の中を整理してみたい。
横浜ゴムのマーケティング担当である杉山真健氏(タイヤ国内リプレイス営業企画部 マーケティンググループ係長)と、開発担当の岩坪祐貴氏(タイヤ消費財製品企画部 製品企画1グループ課長補佐)の両氏に話を伺った。
10年以上前から
EV対応を模索
——御社におけるEV対応タイヤへの取り組みの経緯を教えてください。
杉山 まず横浜ゴムの歴史の話になりますが……弊社は1917年に創業し、1920年ごろにコードタイヤ第1号の製造に成功しています。つまり、約100年前にタイヤをつくりはじめ、今に至っているわけです。
——はい。
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杉山 この100年のあいだ、われわれは、さまざまな技術革新により、あらゆる自動車にマッチする多様なタイヤの開発を行ってきました。EV対応のタイヤの開発もその一つといえます。実験的な試みは10年以上前から行ってきました。例えば、2009年から独自のEVマシンで挑戦した、ヒルクライムレースの「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」(アメリカ・コロラド州のパイクスピークで開催されるヒルクライムレース)。2010年・2011年には、発売したばかりの低燃費タイヤBluEarthを装着したEVマシンで当時の最速記録を樹立しています。あのプロジェクトにはロータスクラブさんも協賛いただいていたので、よくご存じかと思います。
——はい。ロータスタウンでもそのEVマシンをドライブしたプロレーサー塙郁夫選手にインタビューし、記事を公開しています。
杉山 あの時のBluEarthは、優れた環境性能を誇るものの「EV対応をした」と言い切れるタイヤではありませんでした。ですが、明らかに将来のEV対応を視野に入れたプロジェクトであったと思います。
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時代の変化が
EV対応タイヤを求めた
——では、そうしたプロジェクトからもう一歩踏み込んで、具体的なEV対応タイヤの開発・発売に取り組んだ背景・理由を教えてください。
杉山 背景としては時代の変化が大きかったといえます。創業100年にして、図らずもモータリゼーションにおける100年に1度の変革期がやってきました。それに伴い、欧州・中国を中心に世界中で脱ガソリン車、すなわちEVをはじめとする電動車へのシフトがはじまり、日本でも2035年までに乗用車の新車販売において電動車を100%にする方針が出されました。そうした時代の流れの中で、EV対応タイヤの開発・発売が急務となったわけです。
——具体的にはどのような経緯でしょうか?
杉山 まず、グローバルフラッグシップタイヤとして2022年3月から発売しているADVAN Sport V107があります。ADVAN Sport V107は、電動車を含むハイパフォーマンスカーに納入してきました。V107のパターンやOE納入で培った技術を活かし、電動車をターゲットに、ADVAN Sport EV(V108)を2023年秋に欧州から発売しました。
——今後もEV対応タイヤのラインナップを増やしていくのでしょうか?
杉山 そうです。2024年2月にADVAN Sport EVを日本でも販売開始し、2024年2月からADVAN dB V553を日本・アジアで販売開始しました。
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「E+」マークの打刻で
EV対応をアピール
——現在、日本ではハイブリッド車やPHEV車といった電動車は普及しているものの、EVの普及はまだまだといった状況です。その中で、EV対応タイヤの存在もなかなか認知されにくいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
杉山 おっしゃるとおり、日本ではEV対応タイヤがあることに気付いている方は、まだ多くないと思います。われわれとしては、ニュースリリースで情報発信を行ったり、カタログに情報を盛り込むなどして、さまざまなコミュニケーションに努めています。
——コミュニケーション活動で力を入れているのがどんなことでしょうか?
杉山 2023年7月に、ADVAN Sport EV発表と時を同じくして、EV対応タイヤ対応であることを示す独自デザインのマーク「E+(イー・プラス)」を導入することを発表しました。2023年下期以降、EV対応の新商品(市販用タイヤ)には「E+」マークを、タイヤの外側のサイドウォールに打刻してマーケットに送り出しています。これは、タイヤ自体に「これは横浜ゴムの独自技術をプラスしたEV対応タイヤです」というコミュニケーション
をさせる施策です。もちろん、カタログやウェブサイトなどで「E+」マークについて説明し、お客さまに周知していただけるように努めていきます。
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——現時点で、「E+」マークの打刻があるタイヤはどのタイヤでしょうか?
杉山 2023年下期以降の新商品なので、ADVAN Sport EVとADVEN dB V553です。今後、多少時間はかかりますが順次「E+」マークの打刻があるタイヤが増えていくと思います。
——「E+」マークへの反響は、いかがですか?
杉山 販売ルートから伝え聞いたところでは、EVに乗っていらっしゃるお客さまの中には「特別なクルマに乗っている」という意識をもっていらっしゃる方もいらっしゃるので、この「E+」マークが付いたタイヤは特別なクルマに適合したタイヤとして受け止めていただいているようです。
——EVオーナーはタイヤへのこだわりがあり、「E+」マークはシンプルで分かりやすいので認知されたということですね。
杉山 はい。われわれとしては、EVオーナー以外の方々にも「E+」マークについて知っていただき、横浜ゴムがEV対応タイヤに熱心に取り組み、着実に商品を送り出していることを知っていただけるように努めていきたいと思います。
横浜ゴムのEV対応タイヤ「ADVAN Sport EV」の実力
(前編)「E+」を打刻したタイヤ。それがEVに適したタイヤである証です。
(中編)プレミアム&ハイパフォーマンスなEVに最適のタイヤをつくりあげました。
(後編)これからの時代、「EVにはEV対応タイヤ」という認識の広がりが必要です。