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2024年7月12日更新
KIMI選手がつかんだ
EVレースの極意
1周2.436㎞を23周して順位を争うALL JAPAN EV-GP SERIES 第3戦の決勝は、午後2時20分にスタートした。
すでに雨があがり、雲間からはときどき日が差していた。路面にはところどころに水たまりが残っていたものの、ドライに近いコンディション。予選と違い、コースはクルマの性能が十全に発揮できる状態となっていた。
KIMI選手が、トライモーターのモデルSプラッドで2番手グリッドからロケットスタートを決めたのは、まさにその証左だった。
レッドシグナルがオールクリアとなった瞬間、KIMI選手はためらいなくアクセルを全開させた。そして、スタートラインからわずか数メートルのところでポールポジションにいたシングルモーターのモデル3 RWDのモンド選手の前に出て、そのままトップで第1コーナーへと飛び込んでいった。
スタート早々からの熱いバトル。だが、今レースにおけるトップ争いは、実はこれが最初で最後となった。
結果から言えば、KIMI選手は、その後は後続の追い上げを許さず、悠然と一人旅を楽しんだ。最終的には4位までの車両を周回遅れにする形で優勝し、開幕戦からの3連勝を達成した。
シリーズは残り3戦。今回の結果により、次戦でKIMI選手が4連続優勝を果たし、総合2位にいるモンド選手が6位以下に沈めば、その時点でKIMI選手が年間総合チャンピオンの座に輝くことになる。今回の優勝はその意味でも大きな勝利となった。
レース後、KIMI選手はピットのスタッフたちと喜びを分かち合いながら、こんな趣旨のコメントを残している。
「僕はアクセル全開が大好きなドライバー。そんな僕が第1戦と第2戦で優勝できたのは、ピットに陣取ってくれたスエヒロ自動車商会(昨シーズンまで参戦していた強豪チーム)の監督とTAKAさんが無線を通して『バッテリーの過熱によるスピード抑制を防ぐためにアクセルは70%で』との指示をしつこく出し続け、僕が仕方なくそれに従ったからだ」
「でも、この第3戦はパターンが違った。プラッドやモデル3を擁するTAISAN勢がいないので余裕で優勝できるだろうということで、監督とTAKAさんは何度か『もう全開で走ってもいいよ』という指示を出してきた。だけど今回、僕はその指示にスタート時以外はほとんど従わなかった。時には60%のアクセル開度で走ることさえあった。なぜなら、確実に勝ちたかったし、勝利への意欲が途切れることなく保たれたから……。今回の勝利はそれが大きかったように思う。もしかするとEVレースの勝利の極意が身についたのかもしれない(笑)。この極意を大切にし、次戦も年間総合チャンピオン獲得に向けて頑張りたい」
伸びしろいっぱい
初表彰台の2台
トップから31秒遅れの2位でフィニッシュしたのはモデル3 RWDのモンド スミオ選手だった。
スタート時に抜かれたプラッドのKIMI選手を一度も追い詰められなかった。だが、後続から追い詰められることも一度もなかった。マイペースに徹した安定の走りが2位という好成績をもたらした。
「初の表彰台ゲットは非常に嬉しい。4戦目にして走り方、ペースのつくり方がわかってきて、けっこう計画どおりに走れたのがよかったと思う。シリーズ後半には、僕のモデル3 RWD以上のパワーのクルマが何台か参戦してくるらしいが、自分の走りを磨き、それらに負けないよう頑張りたい。できたら、まだ披露できていない熱いバトルもお見せしたい(笑)」
4番手グリッドから一つ順位を上げて3位に入ったのは、Honda eで初参戦した安井亮平選手だった。
昨シーズンの最終戦から参戦しているチームにとっても初の表彰台ゲット。小さなパワーの1台で、レースに強いホンダの系列会社チームとして面目躍如の結果を残した。
「決勝では、軽量化したメリットを生かした走りができ、非常に楽しくレースを戦えた。このHonda eには、まだまだ伸びしろがあると実感できた。次戦からは、また別のドライバーが乗ることになるが、今後のこの小兵の戦いぶりにぜひとも注目してもらいたい」
シリーズ後半の
興奮の展開に期待
今戦は、上位入賞者にとっては意義あるレースとなった。
だが、観客の視点からいえば凡戦だった。
なにしろ上位3車のタイム差が開きすぎていた。バトルらしいバトルがほとんどなかった(ALL JAPAN EV-GP SERIES 第3戦 決勝結果は以下の通り)。
次戦からのシリーズ後半においても、爆速プラッドを駆るKIMI選手がぶっちぎりで優勝するのか。全戦を勝つのは驚異的ではあるが、そうなればレース自体の面白みは著しく欠けてしまうだろう……。
だが、安心してほしい。いろいろ聞き込んだところによれば、KIMI選手が年間総合チャンピオンとなるのはほぼ確実だとしても、それが熾烈なバトルの末となる可能性が出てきている。
まず、シリーズ後半のどこかで、ヒョンデの快速車両アイオニック5N、そしてプラッドよりも馬力の大きな怪物マシンが参戦してくるとの情報がある。これが本当なら、さしものKIMI選手もぶっちぎり優勝とはいかないだろう。事と次第によっては、優勝をさらわれてしまう可能性もあり得る。興奮のレース展開に期待しよう。
そしてもうひとつ、今シーズンの初戦からKIMI選手のピットに入っているスエヒロ自動車商会が、富士スピードウェイでの第5戦に、昨シーズンまでTAKAさんが走らせていたモデル3 パフォーマンスで再参戦するという話が出ている。その場合、ドライバーは、なんとKIMI選手のおいっ子が務めることになるという。
これはKIMI選手の親戚を巻き込んでのスエヒロ自動車商会の造反というわけではない。TAKAさんによれば「シリーズ後半を面白くするため」とのこと。勝てないにしても、コーナーでプラッドを追い詰めるシーンをたくさんつくってレースを盛り上げたいという意図がそこにはある。なんともEVレース愛に満ちた粋な計らいである。その実現を楽しみに待ちたい。
ということで、ALL JAPAN EV-GP SERIES 2024は、後半の各戦も見逃せないのである!
ALL JAPAN EV-GP SERIES 2024 第3戦レポート
(前編)モデル3 RWDの“貴公子”モンド選手が初のポールポジションを獲得!
(後編)モデルSプラッドのKIMI選手が悠々と3連勝し年間総合チャンピオンに王手!
(付編)未来に向かって走るWIKISPEEDと慶応大学のスマートドライバー!
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