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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2024年5月14日更新
日本自動車ジャーナリスト協会の会員である著者は、大の欧州車好き。
本書を通して、こんなことを主張してくる。
― ブランドとは物語である。多くのクルマ好きはメーカー特有の歴史や物語に魅了され、そのメーカーのクルマを手に入れたがる。特に欧州の自動車メーカーは、どこもロマンを感じさせるストーリーがいっぱいだ。熱狂的なクルマ愛からの創業、レース活動を通して勝ち得た名声、代々受け継がれるクルマづくりの哲学と文化……。いったん興味を持ったら、その沼から抜け出せなくなる。対して日本の自動車メーカーはどうか。残念ながら、ホンダ以外はどのメーカーにも見るべきストーリーが少ない。現在、トヨタは自動車業界のブランドランキングで1位を誇るが、それは信頼と安心の大衆車を大量に製造・販売していることからくるビジネス的な評価。クルマ好きをうならせるエモーショナルな物語があっての評価とはいえない。これでは駄目だろう。トヨタをはじめとする日本の各メーカーは、真のブランド構築のために、欧州のメーカーに倣って独自の魅力的な物語を紡いでいくべきだ。
物語という視点では欧州車メーカーに一日の長がある。日本車メーカーはもっと頑張らないといけないようだ。
BEV化に最適なブランドは?
この本には、欧州、日本、アメリカの32社の物語が紹介されている。
物語は過去にさかのぼるため、エンジン車をめぐるストーリーが主となっている。しかも著者自身がエンジンの咆哮をこよなく愛することから、それらの記述にはかなりの熱がこもる。エンスーの領域に入るクルマ好きにはたまらない1冊となっている。
例えばポルシェの章にはこんな一節がある。
〈1949年、フェリーが中心となってポルシェの名を初めて冠したスポーツカーである356を開発し、ポルシェは自動車メーカーとしても歩み始める。356はビートルをベースに高性能化したスポーツカーだった。それゆえ必然的に水平対向4気筒エンジンを、リアにオーバーハングさせて積んだ2+2のクーペという形式となった。この時点でポルシェというスポーツカーの基本形は決定したといえる。―略― 356を引き継ぐ911も同じ形式を継承することになる。性能アップのために6気筒化されたが、この重くて大きい6気筒エンジンが災いとなって当初911はやっかいな操縦性に悩まされることになる。しかし、これによってポルシェの個性はさらに強まる形となり、乗りこなしにくい操縦性にもかかわらず熱狂的なファンを増やすことになる〉
〈現在のポルシェは、BEV化がもっとも進んでいるブランドのひとつ ―略― ただし、ポルシェはCO2と水素からつくる合成燃料の開発にも力を入れている ―略― 現在でもポルシェといえば911であり、911の存在こそがポルシェブランドの圧倒的な強さの源泉である。―略― ポルシェは最後まで、内燃機関を搭載した911を諦めないであろう〉
〈2030年までに100%BEV化する予定というが、ロールス・ロイスの特性を考えれば、これほどBEVに向いたブランドもないといえる。なにしろ、無音・無振動に近い静粛性と滑らかさが特徴で、BEV的な乗り味を追求してきたブランドなのである。またロールス・ロイスの車体は大きく高価なので、大量のバッテリーを搭載することは難しくない。ほとんどのオーナーは大きなガレージのある豪邸に住んでいるはずで、充電設備を設置するのもまったく問題ないだろう。プライベートジェットも持っているとすれば、クルマで長距離移動する機会はそもそも少ないかもしれない。このように考えると、BEVの時代になってもロールス・ロイスの価値や存在感は盤石だろう〉
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