ロータスクラブが運営するクルマとあなたを繋ぐ街「ロータスタウン」

みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

BookReview(44)『トヨタのEV戦争』―マルチパスウェイが先か、魅力的なEVづくりが先か、それが問題だ!

2023年8月31日更新

書評「トヨタEV戦争」_1

世界のEV市場は急速に拡大している。

本書によれば、2022年のEV販売は758万台で、新車需要全体の10%に及んだ。

この中で目立つのは米国テスラと中国BYD。前者は154万台、後者は91万台を売り上げている。

対して日本勢はまったく振るわない。日産の9万台が最高で、トップメーカーのトヨタはわずか2万台にとどまっている。

全方位型の車台が
bZ4X不振の原因!?

現実的な脱炭素に向けてマルチパスウェイ(全方位)なクルマづくりを標榜しているトヨタは、2020年に「EVも本気」と明言し、以降、本格的なEVの生産と販売に乗り出している。

だが、その本気の第一弾であるbZ4Xは、残念ながら転けてしまった。

もともとEV開発と販売が遅れがちだったところに、これはかなりの痛手となった。2万台という寂しい数字は、そうした失敗が招いた結果といえる。

bZ4Xが転けた原因としては、一般的には、リリース直後にタイヤが脱落する恐れが判明しリコールとなったことが大きいとされている。

だが、多くの専門家たちは違う見方をしている。要約すると以下のようになる。

「bZ4Xの性能は先行して発売されたVWのID.4や日産アリアとあまり変わりがない。トップメーカーが出す新しいEV、しかも後出しじゃんけんで出すEVとしては、あまりに凡庸。それが結果的に市場の失望を招いた」

本書の意見も同様。著者は、bZ4Xが凡庸なEVとなった具体的な要因のひとつとして、採用しているEV専用プラットフォームe-TMGAがひどく中途半端なものだったことを挙げている(以下、同書からの引用)。

〈トヨタはEV専用プラットフォームを作るといいながらも、そのe-TMGAはプラグインハイブリッドや燃料電池車のプラットフォームとして活用する可能性を探っていたとも考えられる〉

〈明らかにマルチパスウェイ(全方位)を意識しながらEV専用プラットフォームを開発したことになる〉

〈世界はゼロベースでEV専用プラットフォームに非連続的に飛び出そうと躍起のところ、トヨタの発想は、ガソリン→ハイブリッド→プラグインハイブリッド→EVという連続的な進化へのこだわりが強く、EV専用といってもこの発想から抜け出せていなかったとはいえないだろうか〉

〈その意味で、e-TMGAの頭出しとなったbZ4Xは、EVとして思い切った開発ができなかったのである〉

著者はトヨタびいきを自認している。マルチパスウェイ路線についても非常に合理的な考えと高く評価している。

しかし、その上で、今回は展開の仕方に重大な間違いがあったと厳しい指摘をしている。

つまり、マルチパスウェイを尊重するあまりに、それが目的化し、魅力的なEVづくりが二の次になってしまったのはまずかった。近々に、トヨタの主戦場である欧米や中国でCO2を排出するクルマへの厳しい規制が発動されることを考えれば、まず優れたEVをリリースして市場に存在感を示しておき、のちにマルチパスウェイを追求すべきだっただろう、と。

マルチパスウェイを是としながらの効果的なEV戦略を考えるなら、なるほどの論といえそうだ。

横綱の戦い方ではなく
チャレンジャーの戦いを!

ところで、こうした外野からの厳しい声がたくさん届いたか、あるいは自社内で激しい反省があったかどうかわからないが、トヨタは2023年4月に開催した新体制方針説明会で、今後、EV開発にさらに本気で取り組むことを明らかにした。

具体的には、改良したe-TNGAなどのプラットフォームと、新たに開発中の真にEV専用のプラットフォームによる魅力的なEV(ビークルOSのアリーンも搭載)を2026年に複数リリースすることを発表している。また、それらによって、2026年に世界で150万台のEV販売実現を目標化(目標ではない)することも語られた。

期待大の発表である。しかし、150万台といえば、今の2万台の75倍。途方もない数字だ。あと3年で本当にそんなことが可能なのか。もし、達成できなかったとしたら、トヨタはいったいどうなってしまうのか。

著者は言う(以下、同書からの引用)。
〈仮に、2026年時点でトヨタが販売台数を挽回できない(例えば、EV販売台数50万台)という悲観的な前提に立てば、―略― 2026年から先は「谷」が深くなる〉

〈「谷」を滑り落ちても、会社側が示した高収益に着地できるならそれでもいい。万が一、2026年からのEV新戦略が不振に終わった時、その「谷」は「崖」になる。トヨタといえども崖から落ちたら無事ではいられない〉

〈重傷を負い、先進国での市場シェアは下落し、収益は2023年の水準を大きく下回る。厳しくいえば一流から滑り落ちる姿になりかねない。そのような最悪の事態は是が非でも回避しなければならない〉

〈凄まじいスピードで劇的な変化を遂げるのがEVである。日本車メーカーはエンジンで連戦連勝したことで生まれた自信を投げすてなければならない。横綱のような現在の受けて立つ戦い方をやめ、新しい戦いへ頭からぶちかます勇気を持つべきだ。そうでなければ、EVのトップランナーに追いつくことはできない。トヨタはチャレンジャーであるべきだ〉

はてさて、結果はどうなるか。

10月26日~11月5日に東京ビッグサイトで開催されるJAPAN MOBILITY SHOW 2023(東京モーターショーを改称)では、この2026年に登場予定のEVの開発モデルが展示される可能性がある。この本で前知識を深めた上で会場に足を運んで観覧し、トヨタに果敢なチャレンジャーとしての姿勢があるか否かを確かめることをおすすめしたい。

書評「トヨタEV戦争」_2

『トヨタのEV戦争』
・2023年7月25日発行
・著者:中西孝樹
・編集発行:講談社ビーシー
・発売発行:講談社
・価格:1,980円(税込)

  • ロータスカードWeb入会
  • ロータスカードWeb入会
  • 店舗検索
  • 店舗検索
  • 楽ノリレンタカー
  • 楽ノリレンタカー

あわせて読みたい

  • 第2回 SDGs ERK on ICEレポート(前編)―氷上電気カートの激突バトルは、やって楽しく観て面白い!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    第2回 SDGs ERK on ICEレ…

    「自動車はガソリンエンジン車を中心に進化・発展を続けてきました」「そして、長きにわたり移動の自由やモータースポーツの楽しさをもたらしてくれました」「しかし、…

    2021.10.12更新

  • Book Review④ 楽しくエコカーの基礎が学べる『エコカー技術の最前線』(後編)

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    Book Review④ 楽しくエコカー…

    ハイブリッド車やEVは5年でバッテリー交換も前編で挙げた、3つの視点に基づく記述を紹介していこう。まずはバイヤーズガイド的な記述例――。〈日本で圧倒的に人…

    2017.05.29更新

  • EVキーマンに聞く/日本EVクラブ代表 舘内端 ①「大好きなレースをつづけるために日本EVクラブをつくりました」

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    EVキーマンに聞く/日本EVクラブ代表 …

    ロータスクラブも会員になっている一般社団法人日本EVクラブ。その代表である自動車評論家の舘内端さんに「日本EVクラブ発足の経緯」「日本のEV化の現状と課題」「レ…

    2018.10.23更新

  • 2022 ALL JAPAN EV-GP SERIES Rd.6&7 レポート② 高品質なニッポンの電動車たちによる4位争いが大いに盛り上がった!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    2022 ALL JAPAN EV-GP…

    モデル3同士の“凡戦”全日本EVグランプリシリーズの第7戦(最終戦)には3台のテスラ・モデル3が参戦していたが、ここでもやはり白熱のトップ争いは見られなかった…

    2022.11.10更新

  • BookReview(42)『#離婚して車中泊になりました』―寝袋は意外に不便!? 快適な車中泊ライフのための実践的ノウハウを満載!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    BookReview(42)『#離婚して…

    コロナ禍では車中泊がブームになった。あまり他人と接することなく自由に旅できるところが受けた。最近のクルマが居住性を高めていることもブームの一因となっている。…

    2023.06.22更新

  • 2020全日本EVグランプリシリーズ第4戦レポート② テスラモデル3の強さが際立つなか、驚きのバトルも目撃できたぞ!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    2020全日本EVグランプリシリーズ第4…

    疾風のようなホールショット全日本EVグランプリシリーズ第4戦の決勝レースが始まる午後3時過ぎ。気温は36℃に上昇し、湿度は80%を優に超えていた。真夏の27…

    2020.08.25更新

< 前のページへ戻る