※画像は2022シーズンのもの(以下同様)
世界で初めて年間シリーズで行うEV(基本的にモーターだけで駆動する市販の電動車)レースとして、2010年に始まったALL JAPAN EV-GP SERIES(全日本電気自動車グランプリシリーズ)。
今年2023年で14シーズン目を迎えている。
このレースは、モーター出力の大小でエントリー車がクラス分けされるのだが、レース自体は全クラスの電動車が混走する形式で行われており、総合順位では出力の大きい車両が上位を占めるパターンがほとんどとなっている。
◎エントリークラス
EV-1クラス : 市販車クラス、モーター最大出力251kW以上
EV-2クラス : 市販車クラス、モーター最大出力151kW以上251kW未満)
EV-3クラス : 市販車クラス、モーター最大出力151kW未満)
EV-Sクラス : 市販車クラス、SUV(スポーツユーティリティビークル)、モーター出力自由
EV-Cクラス : コンバートEV(エンジンをモーターとバッテリーに変換した車両)
EV-Fクラス : 市販車クラス、FCV(燃料電池車両)
EV-Rクラス : 市販車クラス、レンジエクステンダー(発電をエンジンで行う車両)
EV-Pクラス : プロトタイプクラス、開発車両/レース専用車両
近年では、最上位のEV-1クラスにエントリーするテスラ モデル3勢が他を周回遅れにする格好で上位をゲットし続けている。
特に、Team TAISANのモデル3の強さは圧倒的だ。Team TAISANは2010年に初代チャンピオンを獲得した後、いったんALL JAPAN EV-GP SERIESへの参戦を見合わせていたが、2018年に復帰してから2022年まで同チームのドライバーが大半のレースで優勝し、5年連続で年間総合チャンピオンに輝いている。
Team TAISANのモデル3による桁違いの速さを目にするのは非常に楽しい。一方で「またTeam TAISANのモデル3勢が勝つのか」と食傷気味になるのも事実。
それゆえ、来る4月22日(土)に筑波サーキットで開幕する2023シーズンの上位争いに関する興味は、自ずと以下の2点に絞られる。
① Team TAISANのモデル3を打ち負かすモデル3はいるのか?
② モデル3に勝てる電動車は現れるのか?
このあたりのことを、レースを主催するJEVRA(JAPAN ELECTRIC VEHICLE RACE ASSOCIATION=日本電気自動車レース協会)の富沢久哉事務局長に第1戦の予想も交えつつ話を聞いた。
◎レースカレンダー
第1戦 4月22日(土) EV55㎞レース大会 筑波サーキット
第2戦 5月14日(日) EV 55㎞レース大会 富士スピードウェイ
第3戦 6月18日(日) EV55㎞レース大会 袖ケ浦フォレストレースウェイ
第4戦 8月11日(金・祝) EV60Kmレース大会 袖ヶ浦フォレストレースウェイ
第5戦 9月23日(土) EV55㎞レース大会全日本 スポーツランドSUGO
第6戦 10月9日(月・祝) EV60㎞レース大会 筑波サーキット
今季、Team TAISANの強さは
絶対的ではないかも……
まずは、①「TAISANのモデル3を打ち負かすモデル3はいるのか?」から見ていこう。
これについては、筑波サーキットでの第1戦から目の離せない状況が生まれそうだ。
何しろ第1戦のTeam TAISANのドライバーに、2018シーズンから2021シーズンまで4年連続で年間チャンピオンに輝いた地頭所光選手の名がない。また、2022シーズンに初の年間チャンピオンに輝いた松波太郎選手の名もない。
ドライバーとして名を連ねるのは、昨季から参戦している余郷敦選手と今季から初参戦する堀雅清選手の2名となっている。
◎第1戦 全日本 筑波 EV 55㎞レース大会エントリーリスト
《EV-1クラス》
余郷敦(車両:TAISAN BIR BOSCH TESLA)TEAM TAISAN
堀雅清(車両:タイサン東大 BIR TESLA3)TEAM TAISAN
TAKAさん(車両:スエヒロ Rush モデル3 BMS_066)スエヒロ自動車商会
アニー@ニキ(車両:スエヒロ モデル3@ニキ)スエヒロ自動車商会
《EV-2クラス》
レーサー鹿島(車両:東洋電産・LEAFe+)東洋電産株式会社
《EV-3クラス》
本間康文(車両:LLAS RACING ZE1)LLAS RACING
《EV-Cクラス》
水谷侑司(車両:MuSASHi D-REVシビックEVR)D-REV@武蔵精密工業
《EV-Fクラス》
飯田章(車両:トーヨーシステム CNR ミライ AKIRA)AKIRA RACING
《EV-Rクラス》
大野博美(車両:千葉県自動車大学校 AURA ePOWER)Barn RACING
廣瀬多喜雄(車両:e-Power オーラ NISMO)OIRAKU RACING
余郷選手は、かつてル・マン24でクラス優勝を果たした実力者。だが、昨季はEVへの不慣れと車両の不調が相まって、一度も優勝を果たせず年間総合5位に終わっている。第1戦で優勝できるかどうか、年間総合チャンピオンになれるかどうかは同選手のEVへの慣れと車両の調子次第となる。
もう一人の堀選手は、ツーリングカーレースなどに参戦して腕を磨いてきた。しかし、アクセル全開を続ければバッテリー温度が上がってスピードが抑制される仕組みを持つ、EVのレース参戦は初。レースを重ねてEV特有の戦い方を身に付ければ好成績を残す可能性はあると言えるが、シリーズ開幕の第1戦では苦戦も予想される。
富沢事務局長のコメントは、「今シーズンもTeam TAISANは強いは強い。でも、その強さは絶対的ではないと思いますね」というものだった。
虎視眈々と王座を狙う
スエヒロのモデル3
では、だれがこのTeam TAISANの間隙を突くのか?
富沢事務局長は、スエヒロ自動車商会チームからモデル3で参戦するTAKAさん選手が有望と見ている。
TAKAさん選手は速いクルマが大好きな市井の走り屋。2019シーズンから2021シーズンまでチャンピオン地頭所選手を脅かす走りを見せ、連続で年間総合2位をゲットしている。
昨季は原因不明のバッテリー性能ダウンという不運に見舞われ、不本意ながらシーズン途中で戦線を離脱した。そのショックは大きく、そのままEVレースから姿を消すのではないかとの憶測も流れた。
だが、原因不明で性能ダウンしたバッテリーは、今年になってこれまた原因不明で回復の兆しを見せはじめたようで、それに気をよくしたTAKAさん選手は改めて今シーズン第1戦からの参戦を決めたのである。
「第1戦のことだけいうと、これまでのキャリア・実績から見て、優勝の最有力候補はTAKAさん選手となるのが自然でしょう。おそらくレースは、彼のモデル3に余郷選手とアニー選手(スエヒロ自動車商会)のモデル3がどう絡んでいくかがポイントになるはず。結果はどうなるにせよ、TAISAN勢vs.スエヒロ勢の、かなりいいバトルが見られると思いますよ」(富沢事務局長)
「そして、TAISANの年間総合チャンピオンの牙城を崩すのも、やはりスエヒロのTAKAさん選手となる可能性が大きい。ただ、またバッテリー性能が突然ダウンする可能性はゼロではないし、他の有力な車両がシーズン中に出てくるかもしれないので、王座奪取の確率が高いとまでは言えない。なので、この時点での“TAKAさん推し”の予想は、あくまで年間を通してレースを面白く観戦するための希望的観測と捉えておいてください(笑)」(富沢事務局長)
シーズンの行方を占う第1戦にエントリーする車両は全10台。異なるチームのモデル3同士による静かながらも熱いトップ争いに期待したい。
ALL JAPAN EV-GP SERIES 2023 プレビュー
(前編)絶対的な強さを誇るTeam TAISANのモデル3を打ち負かすモデル3はいるのか!?
(後編)「打倒モデル3」を目指す日本の自動車メーカーのEVは参戦してくるのか!?