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第28回 日本EVフェスティバル レポート③―今はEV本格普及の夜明け前。普通充電器を無料で設置する画期的な新ビジネスも登場!

2022年12月23日更新

第28回日本EVフェスティバル_3-1

第28回 日本EVフェスティバルの後半の目玉企画は「EVシンポジウム」である。

約3時間半にわたり、基調講演、行政と企業各社によるプレゼンテーション、公開ディスカッションという三つのプログラムが実施された。

個々人の欲望を対象に
クルマをつくる時代

冒頭の基調講演では、日本EVクラブ代表の舘内端氏が、「自動車と資本主義と私たち」~欲望のゆくえ と題したスピーチを行った。以下はその概略である。

第28回日本EVフェスティバル_3-2

「クルマは、約100年にわたって資本主義とともに発展してきた。しかし、今は大きな変革期を迎えている。脱炭素というテーマを背景にクルマが複雑な機構を持つエンジン車からシンプルな機構の電動車へと変わりつつある。そして、ネット世界の拡張によって消費者が一律の大衆から多様な個々人へと変貌しつつある。これらのことを踏まえれば、今後のクルマの生産・販売は、大衆の欲望をターゲットとした資本主義的なものではなく、徐々に個々人の欲望を対象としたミニマムなスタイルが主流になっていく可能性がある。クルマに携わる者は、それを前提にして物事を考え行動していく必要がある……」

舘内氏は、1990年代からいち早くEV普及の必要性をアピールしてきた人物である。その先見的な視点は、今、EV普及後の新たなモビリティの世界の在り方へと向けられようとしているのである。

合成燃料のエンジン車に
期待が高まっている!?

続いて、行政と企業による各種プレゼンテーションが行われた。

最初に環境省 水・大気環境局自動車環境対策課の河田陽平氏が登壇し、「環境省における移動の脱炭素化に向けた取り組み」と題したプレゼンを行った。

第28回日本EVフェスティバル_3-3

内容は2050年のカーボンニュートラル実現を前提にした環境省の取り組みの概略である。既報の内容がほとんどだったが、注目すべき新たな発言もいくつかあった。以下はその要約である。

「今、環境省は、クルマの保有からシェアへと移行する動きに補助金をつけることで電動車(EV、PHEV、HV、FCV)普及へのてこ入れを行っている。また、商用車の電動化ならびに水素活用への補助にも力を入れ始めている。さらには、合成燃料のエンジン車の将来的な活用の道も探り出している」

日本のクルマの電動化は、従来どおりEV一辺倒ではなくて多様なパワートレインを活用しながら進められることが再確認できたわけだが、気になったのは国が合成燃料を使うエンジン車の活用を以前より重要視している印象があったことだ。

これは後退なのか進展なのか……今後の推移を見守りたい。

商業施設や集合住宅に
無料で充電器を設置!

企業のプレゼンテーションでは、以下の4社がそれぞれのクルマの電動化と脱炭素化に向けた取り組みを紹介していた。

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KTM Japan 増岡淳氏「KTMグループの電動モーターサイクルへの取り組み」



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エネチェンジ 田中喜之氏「EV社会の定着を目指して6kW充電器設置を進めるENECHANGEの取り組み」



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Terra Motors 酒井良成氏「EVをもっと身近に『Terra Charge』」



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141マーケティング 石井啓介氏「EVの充電時間の有効活用について~充電時間をより楽しく、美味しくする『EVごはん』」



どれも、EVをはじめとする電動車の本格普及につながる興味深い内容であった。中でも、エネチェンジとTerra Motorsがスタートさせた、普通充電器を無料で設置する事業の説明はインパクトが強かった。

まずエネチェンジの取り組み。

同社は、主にアウトレットなどの商業施設、ゴルフ場、宿泊施設といった、大型施設での「目的地充電」用の普通充電器の設置費用などを、基本的に無料で請け負うビジネスを展開している。同社が設置を進める充電器の特徴は、出力が通常の倍の6kWとなっていることである。3時間充電すれば18kWhが充電でき、1kWh当たり7㎞走れるとすると126㎞の航続が可能となる。これによって遠方からEVで来店・来場する利用客の帰路の電欠の不安が解消され、ひいては集客効果につながる。

第28回日本EVフェスティバル_3-8

次にTerra Motorsの取り組み。

同社は、主に分譲マンションをはじめとする集合住宅での「基礎充電」用の普通充電器の設置費用などを基本的に無料で請け負うビジネスを展開している。同社が設置を進める充電器はコンセントタイプで、出力は3KWだが、基本的に帰宅後の夜間に充電する「基礎充電」用であることを考えれば十分な出力といえる。かつ、マンション駐車場などの限られたスペースにおいて設置しやすい規模の充電器といえる。

第28回日本EVフェスティバル_3-9

両社は共に充電器設置のための初期費用やメンテナンス費用を無料にしている。導入する施設のオーナー側や集合住宅の組合側にメリットがあるのはわかるが、ビジネスとして成り立つのだろうか。

聞けば、ちゃんと成り立つらしい。まず、国から充電器設置に対して補助金が出る。そして長期にわたって利用者から充電器使用料を回収できる仕組みをつくっている。すなわち、先行投資したお金を時間をかけて回収し、利益を上げていくビジネスということ。かつて、インターネット普及前夜にYahoo!BBがモデムを無料配布した手法に近い。その根底には、充電器の設置が増えれば、徐々にEVは増えていき、充電器ビジネスそのものも発展するという思惑があるようだ。

現在、日本でEV普及が進まない要因のひとつとして充電インフラの不足が挙げられている。公共の場所では急速充電器と普通充電器の設置が徐々にではあるが進んでおり、EVを購入した個人宅でも簡単に導入できるコンセントタイプの設置がゆるやかながらも進んでいるが、商業施設や集合住宅の駐車場ではコストならびに利用者の公平性などがネックとなり、なかなか導入が進まない現状がある。

今回のエネチェンジとTerra Motorの取り組みは、この障壁を打破する可能性がある。果たして、どうなるか。今後の両社の頑張りに期待したい。

地産地消型の三輪EVは
クルマの価値観を変える

EVシンポジウム最後の、日本EVクラブ有志による公開ディスカッションは、「クルマの地産地消、三輪EV“E3”が示すこれからのクルマ社会」というテーマで行われた。

第28回日本EVフェスティバル_3-10

基調講演で舘内氏が「今後のクルマの生産・販売は、大衆の欲望をターゲットとした資本主義的なものではなく、徐々に個々人の欲望を対象としたミニマムなスタイルが主流になっていく可能性がある」と述べたことを前提に、日本EVクラブが地方自治体などと構想している三輪EV“E3”を題材にして議論が進められた。

三輪EV“E3”は、前が二輪で後ろが一輪のいわゆるトライクで、普通免許で運転できる気軽な乗り物だ。日本EVクラブは、これを地域ごとの使用目的によって比較的自由に可変させられる設計にし、地産地消的な生産・販売を提案していきたいと考えているのだという。

ディスカッションではこのユニークなEVの魅力や課題などについて多く語られたが、その模様をここでは全部紹介できないため、三輪EV“E3”の目指すべきところを平易に語ってくれた、EVsmartブログ編集長の寄本好則氏の発言の概要を以下に掲載する。

第28回日本EVフェスティバル_3-11

EVsmartブログ編集長 寄本好則氏



「これまで(資本主義下で発展してきた)エンジン車が人々に提供してきた航続距離の長さだったり、スピードだったりというクルマの価値観は一朝一夕では消えない。でも、だからといって、今後のEVにもそれをそのまま求めていくばかりだと、結局何も変わらないし、新しい魅力的なモビリティの世界の広がりは期待できない」

「かつて僕はバッテリーがまだ小さくて航続距離が短い日産リーフを中古で購入し、『あ、僕の乗り方なら、これで十分じゃん』と気付かされた。その経験からいうと、この地域でこういう使い方をするならこのパッケージのEVでいいよね、という発見を促す提案をし、それが納得できるものであれば、人の価値観ならびにモビリティの世界は確実に変えられると思っている」

「実際、今回、日産と三菱は軽規格のEVを出し、人々に新しいクルマの在り方を提案し、価値観の転換に成功しつつある。われわれが構想している、地域や目的によってパッケージが自由に変えられる地産地消型の三輪EV“E3”を世に出す際も、あんなふうに人の気持ちと世の中を動かす1台にしたい。それに値するポテンシャルは十分にあると思っている」

● ● ●


今、画期的な軽規格のEVが登場しており、EV用のタイヤが進化しており、無料で充電器が設置できる新ビジネスがはじまっており、さらには地産地消型の三輪EVの生産・販売の構想まで出てきている――。

今回、こうした事象の数々に触れ、現在の日本がEVの本格普及の夜明け前であることを実感した。ほどなく訪れる朝は、きっと明るくすがすがしいものとなるに違いない。

第28回 日本EVフェスティバル レポート

①カーオブザイヤーに輝いたeKクロスEVの魅力を試乗会で実感!

②eKクロスEVの純正タイヤBluEarthが軽くなっている理由を知る!

③今はEV本格普及の夜明け前。普通充電器を無料で設置する画期的な新ビジネスも登場!

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