「SDGs ERK on ICE」の最後に開催されたのは、マスタークラスのレースである。
競技方法は、ドライバー2名のチーム同士によるトーナメント形式のパシュート戦。各種モータースポーツ出場経験者と、その人が任意で選ぶもうひとりのドライバーがチームを組んで戦う。参戦した8チーム中、最後まで勝ち抜いた1チームが優勝することになる。
パシュートとは追い抜き戦のこと。今回のレースでは、対戦する2チームがそれぞれ半周ずれた位置からスタートし、2周目でチーム内の先頭の入れ替えを行った上で計3周し、どちらが早くゴールするかを競った(3周目のゴールラインを、先に2台とも通過したチームが勝者)。勝つためには、2人の速さはもちろん、入れ替え時のコンビネーションのよさも不可欠となる。
全8チームのドライバーは、いずれも腕に覚えある者ばかりで、速さもコンビネーションも兼ね備えていた。そんな中、1回戦から決勝までそれらをより高いレベルで発揮したのが、初参戦のチームPn LABの三井優介選手(20歳)と安田航選手(22歳)の2人だった。
とにかくマシンコントロールが上手で速い。入れ替え時のコンビネーションも絶妙で、ほとんどロスを生まないのである。
優勝の栄冠が彼ら2人の頭上に輝いたのは、当然の結果といえた。
マスタークラス優勝の三井優介選手(右)と安田航選手
彼らは何者なのか? なぜ、あれほどうまく走れるのか?……レース後に話を聞いた。
街中でやるEV競技は
レース界を盛り上げる
まずキャリアを聞いて驚いた。なんと、2人は将来を嘱望されている超優秀な若手ドライバーだった。
9月末時点において、三井選手はFIA F4でシリーズランキング1位、安田選手はスーパーFJ筑波・富士シリーズでシリーズランキング2位につけていた。まだプロではないものの、トップクラスのレースドライバーであることは間違いない。まさかそんな選手が、この氷上電気カート競技会に出場していたとは……。どおりでうまくて速くて強いわけである。
——優勝、おめでとうございます。
三井・安田 ありがとうございます。
——初めての氷上電気カートのレース。優勝できた要因は?
三井 僕らが普段やっているサーキットでのレースでは、マシンを速く走らせるためのマシンコントロールの方向性は、ドライでもレインでも基本的には同じです。今回は、氷の上だったので、ちょっとしたことでマシンの挙動が大きくなったり、リアが流れたりすることはあったんですが、やっぱりやるべきことはそう大きくは変わらなかった。電気カートにしてもそう。明らかにエンジンカートと違う加速のよさはあるにしても、車両を速く走らせるための操縦の方向性はあまり変わらない感じでした。優勝できたのは、そういうことにすぐに気づけて、素早く対応できたからだと思っています。ある意味、基本の大切さを改めて学べましたね。
安田 僕もほぼ同じ意見です。あえて付け加えるなら、2人とも小さいころからエンジンカートのレースを戦っていたので、その経験が活きたかなと思っています。
——なるほど。基本がしっかりしていれば、どんなコンディションでも、どんなマシンでも、その応用で速く走ることができるわけですね。ところで、今回参戦しようと思ったのはなぜですか? また、参戦してみて、このレースをどう感じましたか?
三井 自分はEVの運転を体験してみたかったのと、新しいモータースポーツの形を感じ取りたいという理由で参戦しました。やってみたら、勝ったこともありますけど、思ってた以上に楽しくて、かなりの将来性を感じました。
安田 僕も、新しいモータースポーツの形に興味を持って参戦したところがあります。今、レースをやるとなると、街中から遠く離れたサーキットまで行かなければなりません。観る人たちも、わざわざ時間と労力とお金をかけて、そこまで出かけなくてはならない。モータースポーツ人気がいまいち高まらないのは、そういうところに一因があると思っています。でも、このレースは排ガスを出さない電気カートでやるから、市街地で行うフォーミューラEと同じように街中にあるスケートリンクで開催ができている。これはすごいことです。参戦してみて、多くの人たちがモータースポーツの面白さを体験し、知るためのかなりいい場になる可能性があると思いました。今後に期待したいです。
若きドライバーは
二刀流でレースに挑む!?
——今、CO2排出による地球温暖化問題が叫ばれていて、今後、ガソリンエンジン車によるレースは減っていき、EVレースが増えていく可能性もあります。お2人はもしかすると、将来的にそうしたEVレースで走ることも視野に入れたりしていますか?
安田 僕はモータースポーツが大好きなので、レースは絶対になくなってほしくない。だから今後、レースを存続させていくためにEVへの切り替えが必要ということなら、それはそれで受け入れる必要があるだろうと考えています。今のところはスーパーGTのドライバーになることを夢見てエンジン車レース一本槍で活動していますが、これからは徐々にEVレースにも取り組んでいこうかなと思っています。今回の参戦は、その第一歩ですね。
三井 僕は小さいころから爆音を轟かせるガソリンエンジンのレースカーに慣れ親しんできて、今はF1をはじめとした世界トップレベルのレースで戦えるドライバーになることを目指しているので、ガソリンエンジン車によるレースの存続を強く願っています。ただ一方で、今回、EVレースにも大きな魅力を感じ、発展する可能性をしっかりと感じました。今後、二つがどういう比率になっていくのかはわかりませんが、僕としてはそれぞれのメリットとデメリットをしっかり見極めて、最善の選択をしつつ活動していけたらいいと思っています。
現在、レース界にも脱炭素そして電動化の波は押し寄せつつある。そして、彼らのような若いドライバーたちがその行方に強い関心を持ち、実際に関与しはじめている。今回の「SDGs ERK on ICE」のレースがこれまで以上に本格的かつ興味深いものになったのは、そうした動きの結果といえるだろう。
きっと、こうした傾向は今後も強まりながら続いていくだろう。参加者の広がりと多様化と進化によってバージョンアップする、今後の「SDGs ERK on ICE」に期待したい。
第3回 SDGs ERK on ICE レポート
①氷上電気カート競技の楽しさは、環境と安全に裏打ちされている!
②10歳の少女ドライバーが、大人にまじって氷上を果敢に走った!
③トップレベルの若手レーサーたちは、EVレースの夢も見る!