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2022全日本EVグランプリシリーズ第3戦レポート③―マツダのグループ会社がノーマルのMX-30で初参戦。果たして完走できたのか?

2022年9月14日更新

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「走る姿が実に美しい」

2022全日本EVグランプリシリーズ(All JAPAN EV-GP SERIES)第3戦。マツダのMX-30のEVモデルが、EV-3クラス(モーター出力151kW未満)に参戦していた。

そのサーキットを走り抜ける姿は誠に流麗。2021 World Car Design of the YearのTOP3に入ったのも納得だ。

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このクルマを走らせていたのは、マツダのグループ会社である株式会社マツダE&T。同社の若手エンジニアを中心に構成されたチームである。

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かつて、2012年に日産の系列会社がリーフのレーシングカー仕様車であるNISSAN LEAF NISMO RCをこのEVレースで走らせたことがあったが、メーカー系チームの参戦はそれ以来。ナンバー付き市販車の車両を持ち込んでのメーカー系チームの参戦は、初のケースとなる。

非常に画期的な出来事である。

予選を総合6位で終えたばかりのチームのピットを訪ね、参戦の意図などを聞いた。

電動化時代の人材育成

最初に話を聞いたのは、マツダE&Tの中村浩史氏。チームでは監督的な立場を務めている。

EVGP第3戦_3-4

——マツダE&Tはマツダのグループ会社とのこと。主に、どのような事業を手がけている会社ですか?

中村 マツダ車をベースにしたカスタマイズ車両の企画・開発などをやっています。例えば、車椅子で搭乗できる福祉車両の開発・生産も行っていて、これは先日、6万台を達成しました。

——今回が初参戦です。参戦の意図を教えてください。

中村 人材育成が目的です。今はクルマも電動車をはじめとする環境技術に力を入れていかなければならない時代。そんな中、例えばEVで何ができるか、その知見やスキルをこれからの若い社員に身につけてもらいたいとの思いで参戦を決めました。

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——よく「レースはクルマの実験場」といわれます。MX-30の進化や新たなEV開発のために、レースでのデータを本社にフィードバックするといった意図はないのでしょうか?

中村 今のところ、それは考えていません。あくまで電動化時代に相応しい人材育成が第一。走行データの取得と分析も、彼らの知見とスキルアップに役立てるために行っています。ただ、将来的にいい人材が育っていけば、それが、いいEV開発につながることはあり得ると思っています。

——ところで、大変失礼ながら、現状では世間におけるMX-30の認知度はそれほど高くはありません。このレース参戦で、MX-30を世間に広くアピールする意図はないのでしょうか? 私たちは先ほど、MX-30が走っている様子を初めて拝見し、非常に魅力的な1台という印象を持ち、このクルマの認知度が高くないのは非常にもったいない話だと思いまして……。

中村 高い評価、どうもありがとうございます! そうですね。特にアピールする目的があるわけではないですが、レース場でいろんな方にそう感じていただける機会が増えれば何よりです。例えば、たくさんの女性の方に、レースに出られるほど耐久性があり、かつおしゃれな1台であることに気づいていただき、購入を検討していただけるようになれば、本当に嬉しく思います。

——そういう意味では、レースである程度の速さを見せつけることも重要なのかと思います。決決勝では何位を目指しますか?

中村 初戦となる今回の最大の目標は完走です。順位や勝敗についてはほとんど考えていません。まあ、いずれいい競争ができるようになれればいいかな、とは思っていますが。

——初戦の目標は完走で、いつかは勝敗も視野に入れていく、と。つまりは、今後も続けて参戦されるわけですね?

中村 今シーズンはあと2回参戦します。そして、来シーズンも何回かの参戦を予定しています。やっぱり、ちゃんと継続させないと、いい人材育成にはなりませんからね。

“どノーマル”で戦うワケは?

続いて今回のレースでドライバーを務める神八一也氏に話を聞いた。氏は、普段はエンジニアとして働いているのだが、会社の自動車部にも入っており、ときどきロードスターを駆るレースを楽しんでいる。

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——チーム監督の中村さんは、今回のレースは完走が最大の目標とおっしゃっていました。若手スタッフの皆さんもそうお考えでしょうか?

神八 はい、同じ考えです。MX-30のモーター出力は107kWで、バッテリー容量は35.5kWh。航続距離はWLTCモードで256㎞ですが、このレースの総距離55㎞をアクセル全開で走ると、過熱と電欠でゴールできないことが計算上わかっています。なので、温度管理も含めたバッテリーマネジメントをしっかりとやりながら、効率的なドライビングをすることが不可欠。今回はそれを徹底し、しっかり完走を目指します。

——MX-30には、バッテリー残量の表示はあっても、テスラモデル3のようなバッテリーの温度表示機能がありません。そのあたりのコントロールは、どうされるのですか?

神八 ピット内にパソコンをたくさん並べており、事前に計算したデータや、実際に計測したデータなどが入っています。レース中は、ピットのスタッフが、そのデータを基にベストな速度やアクセルワークをはじき出し、その情報を無線を通して私に随時知らせることになっています。私の使命は、その情報すなわち指示を忠実に守って最後まで走り切ることです。

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——さすがメーカー系のエンジニアが集まったチーム。やることが本格的です。ところで、このMX-30はノーマルですか? レース用に足回りの改造などは行っていないのですか?

神八 “どノーマル”です。どこもいじっていません。タイヤも購入時に標準で付いているエコタイヤのままです。

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——タイヤまでノーマルですか!? たぶん、このレースでそこまでノーマルにしている車両はないと思います。なぜ、あえてその状態でレースを走るのですか?

神八 今回は初戦なので、車両のレース走行時における正しいデータ、すなわち課題を明らかにするデータを取るためには、最初はノーマルにしておく必要があるわけです。もし、なんらかの改造を加えるとしたら、課題を解消する必要性が出てからということになります。ちなみに、タイヤがノーマルのままというのは、今のMX-30ではいい面もあるんですよ。もし、スポーツタイヤを履いたら、グリップがいいので転がり抵抗が増える。ということは、その分、電気を多く使うことになり、結果、電費が悪くなり、目指す完走が果たせなくなってしまう可能性が出てくる。今回はそれがわかっているので、あえてノーマルで挑戦するわけです。

——なるほど……。しかし、ノーマルのMX-30でのサーキットにおける高速走行は、大丈夫でしょうか? 安心して運転できますか?

神八 いや、ノーマルのMX-30のダイナミック性能はなかなかのものなんですよ。リアの下部にバッテリーを積んでいるため前後バランスがよく、四輪をちゃんと使って走ることができる。スポーツカーとして開発されたわけではないのに、まるでロードスターに近い走りをする。だから、サーキットを走っても安心だし、結構楽しめたりもする。決勝でも、このMX-30の走りのよさに、どうか注目してください。

● ● ●


神八氏の言うとおり、決勝でMX-30は実に快調な走りを見せてくれた。もちろんモデル3勢に周回遅れにされたりはしたが、最後まで1周1分30秒前後のタイムで走り切り、見事、初戦にして目標どおりの完走を成し遂げた。順位は後ろから数えたほうが早い7位だったものの、素晴らしい結果だった。

今後、マツダE&Tのチームの若手スタッフたちがどういう戦いを見せてくれるのか、非常に楽しみである。

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もっとも、メーカー系チームがマツダE&Tだけというのは少々寂しい。できれば、いち早くEVを販売した三菱と日産、全方位を標榜するトヨタ、電動化に特化する方針を示したホンダなども、積極的に参戦してほしいところだ。

マツダE&Tチームが話してくれたように、レースでの競争が意義ある人材育成効果を生むだろうし、やりようによっては開発へのフィードバックも可能なのだから、得られるものは非常に多いはず。

レース全体としては、テスラモデル3勢がリードするかもしれないが、それはクラスが最上位だから仕方がない話。むしろ国産メーカーのEVの参戦は、EV-2やEV-3などのクラスを充実させ、全日本EVグランプリシリーズを活性化させるだろう。

多くの参戦があれば、観ている人たちのためにもなる。最上位クラスのトップ争いだけでなく、それ以外のクラスの戦いも興味深いものになり、観る楽しみが増えるからだ。そして参戦した国産メーカーのEVについて、CMやカタログ以上に鮮明なイメージを持つことだろう。

各メーカーには、そういったところを総合的に踏まえつつ、ぜひ真剣に参戦を検討してもらいたい。

2022全日本EVグランプリシリーズ第3戦レポート

①パナソニック製バッテリーを積んだモデル3が予選上位を独占!

②赤か緑か。米国製モデル3同士が熾烈なトップ争いを展開!

③マツダのグループ会社がノーマルのMX-30で初参戦。果たして完走できたのか?

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