ロータスクラブが運営するクルマとあなたを繋ぐ街「ロータスタウン」
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2022年4月21日更新
自動車のエネルギー効率を測るにあたっては、ウェル・トゥ・ホイールという指標がある。今回はこの指標について見ていこう。
EVもCO2を排出している?
自動車のCO2排出をめぐっては、タンク・トゥ・ホイール(Tank to Wheel[TtW])とウェル・トゥ・ホイール(Well to Wheel[WtW])という2つの指標がよく取り上げられる。タンク・トゥ・ホイールは自動車の燃料タンクから実際に走行させるまでを指す。要するに、燃料タンクに燃料が入っている
状態から走行するときのCO2排出量に着目した指標である。
タンク・トゥ・ホイールの視点で見れば、EV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)は、走行時のCO2排出がゼロである(ゼロエミッション車と呼ばれる)。クリーンなイメージがあり、カーボンニュートラル実現に向けた最適解であるかのように語られている。だが、果たしてこの視点だけでCO2排出を評価してよいのだろうか。
そこで注目したいのがウェル・トゥ・ホイールである。ウェル・トゥ・ホイールは油田(Well)から実際に走行させるまでのこと。つまり、自動車の燃料を手に入れる段階から実際に走行させる段階までのCO2排出量を表す指標であり、自動車の環境負荷を考えるときのキーワードともなっている。
ウェル・トゥ・ホイールの指標で見れば、EVやFCVもCO2を排出していることになる。燃費効率の良いガソリン車やHV(ハイブリッド車)と比較して同等レベル、場合によっては排出量が多いとする見解もあるのだ。
EVが抱える問題点
ウェル・トゥ・ホイールの視点から、EVが抱える問題点を検証していくことにしよう。
まず、EVのCO2排出量は電源構成によって大きく違ってくる。例えば、電源としてクリーンエネルギー(再生可能エネルギー)が使われる割合の高い欧米各国では、ウェル・トゥ・ホイールで評価してもEVが環境に優しいクルマと言うことができる。しかし、日本や中国などのアジア諸国を中心に、世界的にはまだ化石燃料による発電が主流となっている現状がある。発電時に発生する膨大なCO2によって、EVがもたらす環境負荷は大きくなる。
もっとも、すでに中国ではクリーンエネルギーによる発電が増加している。2021年11月末時点で総発電設備容量の約26%を占めている。さらに、石油消費を2030年にピークアウトする目標を設定し、発電電力量に占める自然エネルギーの比率を2030年に40%以上にまで引き上げることを目指している。
これに対して日本では東日本大震災以降、電源構成における化石燃料への依存度が高くなった。2020年の火力発電の電力量は74.9%(そのうち石炭27.6%、LNG35.4%)。減少傾向にはあるが、まだ高い水準にあるといえよう。EVのウェル・トゥ・ホイールのCO2を減らす上では、現在20.8%の自然エネルギーによる電力量をどこまで増やせるかが課題となる。
製造時もCO2を排出
さらに、製造過程の課題にも目を向ける必要がある。特にCO2の多くはバッテリー(リチウムイオン電池)製造時に発生している。実は車体製造時のCO2排出量はICE(内燃機関)車の2倍に上るとの試算もある。
製造時に排出するCO2を相殺するには、EVを約7万7000km走行させる必要があるとも推定されている。乗り方や用途によっては、EVのほうがかえって環境負荷を高めることになりかねない。
また、バッテリーを分解したあと、廃棄するプロセスでのCO2排出も無視することはできない。リチウムイオンバッテリーの製造プロセス見直しやリサイクルなど、CO2排出低減に向けた動きもはじまっており、今後の進化に大きな期待が寄せられている。
次世代エコカー勉強会〈18時限目〉
ライフ・サイクル・アセスメントとウェル・トゥ・ホイール(前編)
ライフ・サイクル・アセスメントとウェル・トゥ・ホイール(中編)
ライフ・サイクル・アセスメントとウェル・トゥ・ホイール(後編)
関連キーワード
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2020年に日中共通の規格策定『CHAdeMO(チャデモ)』という規格の直流型急速充電器の国際的展開をめざしている一般社団法人チャデモ協議会は、8月28日の午…
2018.09.11更新
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
深セン市にある企業のCEOに直接インタビューを敢行!前編では、匿名希望の中国人男性の「中国のEVの数はすごく多いが、質は日本が上」という意見を紹介した。し…
2019.02.12更新
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
日本自動車ジャーナリスト協会の会員である著者は、大の欧州車好き。本書を通して、こんなことを主張してくる。―ブランドとは物語である。多くのクルマ好きはメーカ…
2024.05.14更新
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
「自動車はガソリンエンジン車を中心に進化・発展を続けてきました」「そして、長きにわたり移動の自由やモータースポーツの楽しさをもたらしてくれました」「しかし、…
2021.10.12更新
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
「走る姿が実に美しい」2022全日本EVグランプリシリーズ(AllJAPANEV-GPSERIES)第3戦。マツダのMX-30のEVモデルが、EV-3ク…
2022.07.21更新
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
白煙が立ちこめるもスムーズなスタートさて、決戦のときである。午後3時15分、富士スピードウェイを11周50㎞にわたって競い合う決勝レースが始まった。グリ…
2020.12.10更新