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第27回 日本EVフェスティバル レポート③ ―「百万台EVプロジェクト」で、楽しく地球温暖化対策に乗り出そう!

2021年12月9日更新

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日本EVクラブの舘内端代表は、今回の日本EVフェスティバルのパンフレットに「地球温暖化は私です」という一文を寄せていた。

そこには、こんな記述がある。

「世界のほとんどの人が大量生産・大量消費をベースとする資本主義システムの下で暮らしているわけですから、地球温暖化・気候変動の責任は、私たち人類全員にあるわけです。地球温暖化は私なのです」

「私たち全員は地球人です。地球人が起こしてしまった災禍=地球温暖化・気候変動は、地球人が英知を集めて解決するしかありません」

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フェスティバルのラストに行われたEVシンポジウムでは、こうした内容を踏まえた講演、プレゼンテーション、ディスカッションの数々が行われた。それらはときにアカデミックで、ときにロマンチック。言い尽くされたかに思えるクルマの電動化に関する議論に、新たな思考のヒントを与えてくれる内容となっていた。

〈基調講演〉
環境に寄り添う新しい快楽消費

シンポジウムで最初に登壇したのは北海道大学の橋本努教授。「ロスト欲望社会~エコ・ミニマリズムのすすめ」というタイトルの基調講演を行った。

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数十分間の講演において電動車と直接関係する話題はなかったが、より上位の概念が展開され、今のカーボンニュートラルへ向かう時代を生きるうえで、非常に示唆に富む内容となっていた。

例えばこんな発言。

「人間の快楽は、進化とともにどんどん変わっていく。環境問題がこれだけ重要とわかってくると、環境に優しい消費のほうが快楽になる。自分の快楽を信じて行動することによって、我々は環境問題に対応することになる。それは新しい快楽消費だといえる」

「二酸化炭素の排出を抑えて温暖化を防ぐには、1960年代初頭の生活水準に戻らなければならないといわれている。難しいことだが、今、市井のミニマリストたちがそうした生き方を提示してくれている。消費しない中で自分の快楽を見つけている。彼女、彼らは資本主義を否定しているのではない。むしろ新しい資本主義を生んでいるのではないか」

なお、講演が終わったあとの質疑応答の中で、教授はようやく電動車に関する発言を行っている。

「温暖化で1.5℃上がるのがもう予想されている。2040年までにどうあがいても上がる。だったら、もう諦めたとなるのか? 諦めることは、日本の経済的発展を諦めることに繋がる」

「日本はガソリン車をつくってはいけないという強い規制を設けることによって、技術革新を促さないといけない。そうしない限り、日本経済は20年後、30年後は没落していくと危惧する」

ちなみに、教授の愛車はトヨタのアクアだそうだ。

〈プレゼンテーション〉
世界的なメーカーほどCO2排出の責任は大

行政ならびに自動車メーカーによるプレゼンテーションで、最初に登壇したのは環境省の水・大気環境局自動車環境対策課の菊地康治氏。氏は「環境省における移動の脱炭素化に向けた取り組み」というプレゼンを行った。

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そこでの注目すべき発言としては、以下のようなものがあった。

「今、日本全体の充電インフラは約3万基だが、2030年にはそれを5倍にする目標を立てている。また、(電動車であれば)国立公園の駐車場料金を無料化する方向で動いている。さらに、公用車や社用車を土日などで使っていないときに、地域のみなさまにカーシェアすることを支援する事業を進めている」

これからのクルマの電動化を加速させる、行政の効果的な施策の実現に期待したい。


続いて登壇したアウディジャパン広報部の丸田靖生氏は、「Audiの電動化戦略」の概要を披露した。

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氏はアウディが1990年代から取り組んできた電動化の歴史や、今後の電動車ラインナップ、電動車でのレース参戦計画など、楽しい話をたくさんしてくれたのだが、途中、アウディがフォルクスワーゲングループの一員であることから語られた事実は、ずしりと重い内容となっていた。

「フォルクスワーゲングループは年間1,000万台を販売している。これは世界のCO2排出量の1%に相当する排出に繋がっている。保有台数で考えれば、おそらくその10倍近くになるだろう。この責任はかなり大きい。アウディは、だからこそ積極的に電動化に取り組んでいる」

自動車メーカーは販売台数の多さを競うのが常だが、上に行けば行くほど責任が大きくなるのである。当たり前ではあるにしても、具体的な数値を出してまで責任の度合いを公に語ることはなかなかできない。それをあえて行った意義はかなり大きいだろう。


3番目の登壇はHW ELECTRO代表取締役CEOの蕭偉城氏。「EVの未来とHW ELECTROの取り組み」というテーマのプレゼンを行った。

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ここでは、レポート②のELEMOの試乗のときに紹介した内容と重複する話については割愛する。新たに語られた注目すべき情報としては、以下のようなものがあった。

「アメリカで使用されているELEMOは、電源が取れるのでワクチン車に利用されている」

「今後、荷室の冷凍冷蔵をアプリで温度管理したり、荷物を積むときにアプリ上に住所をインプットしたり、AIでルートの最適化をしたりと、さまざまなクルマのDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めていく」

「本日、ELEMO-Kを249.7万円というチャレンジングな価格で発売したが、いずれ航続距離1㎞あたり1万円の価格(航続距離200㎞で車両本体価格200万円)を目指したい」

ELEMOとELEMO-K、やっぱり「期待大」の商用小型EVなのであった。


最後にプレゼンを行ったのはGroup PSA Japanのマーケティング部PRマネージャーの森亨氏。そのタイトルは「あらゆる可能性を考慮したステランティスの電動化戦略」というものだった。

ステランティス(STELLANTIS)とは、プジョー、シトロエンをはじめとするフランスの多国籍企業であるPSAと、フィアット・クライスラー・オートモービル=FCAとが合併してできた会社の名前である。

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氏は、自社が多様な顧客ニーズを考慮し、あらゆるパワートレインを揃えた形での電動化戦略を進めていることを紹介してくれた。その中で、車種によってはEVの販売比率が思っていた以上に大きくなってきているという、自分たちでさえ意外に感じる現象が生じている事実も披露してくれた。

「ステランティスにとってEV化は目的ではない。目的はあくまでCO2の削減である。あらゆる可能性と手段をもってこの目的を達成し、世界中のあらゆる人々に移動の自由を提供する。事実、現在、同一車種であらゆるパワートレインを揃えている。(ただ、最近、その中で意外な販売現象が起きている)プジョー208では、日本においてはEVであるe-208の販売比率が8%にも上っている。日本のEV普及率が0.5~1%であることを考えると、これはかなり驚異的な数字といえる」

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環境重視と経済重視とのはざまの中で、電動化をどう進めていくべきか。その迷いに決着を付けるのは、我々ユーザーの購買行動なのかもしれない。

《パネルディスカッション》
同好の士が100万人集まれば
自分がほしいEVが手に入る!?

シンポジウムの最後に、メインイベントであるパネルディスカッション(オンラインでも公開)が行われた。

「百万台EVプロジェクト」というテーマで、日本EVクラブの有志である木野龍逸氏(フリーライター・左から1人目・以下写真の順番どおり)、奥田龍氏(元モータースポーツ誌編集長)、鳥塚俊洋氏(元JAF Mate編集長)、舘内端氏(日本EVクラブ代表)、寄本好則氏(EVスマートブログ編集長)、森修一氏( 元自動車整備学校教員)の6人が自由に意見を交わした。なお、鳥塚氏は進行コーディネーターも務めた。

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最初に「百万台EVプロジェクト」というテーマが掲げられたとき、EVを100万台普及させるための方策を話し合うのかと思ってしまった。しかし、そうではなかった。彼らパネリストは、日本の自動車メーカーが欲しいと思える魅力的なEVを出していないので、いっそのこと自分たちが欲しいと思えるEVを100万台つくってしまおうという計画を立てていて、ディスカッションは、その考えのもとで行われたのだった。

そしてこれは、かつて盛んだったコンバートEVを100万台つくるにはどうすべきかということでもなかった。パネリストたちは、例えば同じ嗜好を持った人を100万人集めて、それぞれがお金を出し合い、製品化されたオリジナルのEVを100万台つくるつもりでおり、その実現のためにディスカッションを行っていたのである。

しかし、果たしてそんなことが可能なのか?

よくよく話を聞くと、どうも不可能ではなさそうな感じはあった。今、クルマの生産はモジュール化が進んでいる。設計と生産の分離といったファブレス化も進んでいる。つまり、自動車メーカー以外でもクルマ、特にEVはつくることができる環境が整いつつある。噂のAppleCarなどは、この手法でEVをつくるだろうといわれている。そうであれば、100万人にとっての理想のEVをつくるのも決して不可能ではない。……という理屈だ。

ただ、この計画はまだ緒に就いたばかり。パネリストたちも、まだ計画実現のための具体的な道筋は見えてはいない様子だった。だから、ディスカッションは、それぞれが「つくりたいクルマはこうあるべき」との声を挙げる流れとなり、最後まで具体的なEVの姿には収束しなかった。

とはいえ、それはそれで楽しく聞けた。彼らが嬉しそうに語る自分の嗜好や想いは、聴き手に、「自分ならどんなEVが欲しいだろう」という夢想を促したのだ。

舘内 「昔、カー・オブ・ザ・イヤーをやっていて思ったのは、国産車ってチープだなっていうこと。壊れないけど、そのクルマを使うことで心を豊かにするものではなかった。やっぱりしっかりしたデザインがなされていて、心を豊かにするクルマをつくりたい」

寄本 「今、日本メーカーが出すEVは、やっぱり高級車になってしまっている。この100万台計画でつくるEVは、そうじゃないもののほうがいいと思う。本当に欲しい、本当に使えるクルマを100万台つくるプロジェクトにしていきたい。もしかしたら、(個人の嗜好の多様化を考えれば)1車種100万台ではなく、100車種1万台になってもいいのかもしれない」

奥田 「そう。みんな欲しいクルマが違う。僕はシトロエンの小型2シーターEVのアミみたいなのが欲しいかな」

「どんなEVをつくるにせよ、法律に準拠した安全性を確保しなければ走らせられない。そこは注意しておくべきだ」

木野 「最低限の品質や安全性の確保は必要。だけど、日本のメーカーはどちらもとんでもなく高いレベルでクリアし、クルマをつくっている。だから価格も高くなる。百万台プロジェクトのEVづくりは、もっと敷居を低くし、かつてトヨタが初代プリウスを『いいクルマだから』と、完璧ではない状態でも出荷したような感じで行ってもいいのではないか」

鳥塚 「交通事故を考えれば安全への配慮は絶対に必要。ただ、大量生産のクルマの安全って、万人に向いているかどうかはわからない。もしかしたら、クルマごと、人ごとの安全基準があって然るべきかもしれない……」

なお、ディスカッション終了後に行われた聴衆との質疑応答では、「近くの自動車整備工場で自分が好きなEVをつくることは可能なのか?」という興味深い質問が飛び出している。それに対して元自動車整備学校教員だった森氏は、戸惑いつつも希望の持てるこんな回答をしている。

「法律に沿って進めないといけないけれど……パーツ、ユニットを取り寄せれば技術的にはできる。やる気があれば不可能ではない。もう、一部の人はやっているかもしれない。もしかしたら、これから整備工場が自動車工場化することだって十分あり得るだろう。取り組みが大きな波になれば、法律も変わっていく可能性もある」

● ● ●


すべてのプログラムが終わったあと、日本EVクラブの舘内端代表は、強烈な言葉をもって閉会を宣言した。

最後にその概要を紹介し、今回のレポートの終わりとしたい。

「モノの値段が安くなるにともなって、僕らは大量生産・大量消費に慣らされてしまった。それでみんな、何も考えずに同じような消費生活をし、結果、環境によくないひどい社会をつくってしまった」

「これからは、そうした過去を反省し、今回話したような自分の乗りたいEVを自分でつくるといった新しい行動をしていかなければいけない。それはある意味、橋本先生が語っていた環境に寄り添う新しい快楽消費に近いといえる。みんながそれぞれ真摯に自分の意思と欲望に素直にしたがった行動を続ければ、きっと新しくて素晴らしい環境ライクな資本主義社会の国ができあがるはずだ。だから、頑張ろう!」

(文:みらいのくるま取材班)

第27回 日本EVフェスティバル レポート
① 新型アウトランダーPHEVは、総航続距離1000㎞以上を誇るベストな電動車!
② 小型電気トラックELEMOが「働くEV」を先導しそうな予感!
③ 「百万台EVプロジェクト」で、楽しく地球温暖化対策に乗り出そう!

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