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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2021年8月27日更新
今季スポット参戦ながら、その速さで周囲をざわつかせている女性ドライバーの今橋彩佳選手。なぜ、そんなに速いのか? いったいどんな経歴の選手なのか? レースが終わったあとに30分ほど時間をもらい、いろいろと話を聞いてみた。
予選1位の秘密はダラダラ走り!?
——決勝は惜しくも2位でしたが、予選では強い雨の中、段トツのタイムで1位。何がよかったんでしょう?
今橋 タイヤのチョイスがはまった部分はあると思います。あと、私はこのEVレースで、いつもダラダラした感じの走りをしているんですけど、それも効いたのかもしれません。
——ダラダラした走り、ですか?
今橋 はい。エンジン車のレースだと、コーナリングのときは手前でしっかりブレーキングしてからコーナーをスムーズに曲がっていき、立ち上がりで強く加速するといった走りをしますよね。でも、このEVレースではテスラ モデル3の挙動特性を意識して、あまり強くはブレーキングせず、ちょっとオーバースピード気味にコーナーに入り、タイヤをズルズルさせながら曲がって立ち上がるようにしているんです。そういうダラダラというかメリハリのない走りが、結構タイムを縮めることに繋がっているのかな、と。
——今橋さん独自の走法をされていたんですね。決勝もそういうダラダラ走りで戦ったんですか?
今橋 基本的には同じ走法でした。ただ、決勝ではやっぱりバッテリーに熱を持たせず、いかに加速制御を回避するかに一番気を遣って走っていました。長い距離を走る決勝では、これが本当に重要になってくるので……。実は1周目で地頭所くんに抜かされ、そのあと4位にまで後退したのも、バッテリーの過熱を遅らせようとして、アクセルの踏み加減をセーブし過ぎたせいなんです。あの瞬間、私を追い抜いていく地頭所くんたちを見て、「え、スタート早々でそんな速いペースで走っても大丈夫なのね」って初めて気づかされましたね(笑)。
——そうだったんですか。速い今橋さんが、どうしてあれほど急に順位を落としたのか不思議だったんですよ。
今橋 私は今季途中からのスポット参戦で、EVのことをほとんど知らないまま走りはじめました。最初の頃はアクセルを踏み過ぎると最後に電欠になるから、そこに気をつけるべきだと考えるほど無知だったんです。でも、実はそうじゃなくて、バッテリーが過熱することによって加速制御が働くのを回避するためにアクセルを加減するのが一番重要だというのを知りました。レースをしながらいろいろ学んでいる状態なんです。
——なるほど。エンジン車レースのように思いっきり全開のまま走れないEVレースは楽しめていますか?
今橋 私は、基本的にアクセル全開でブイブイいわせられるエンジン車のレースが大好き。その点では、EVレースにはちょっとだけ物足りなさを感じています。一方で、EVレースは今言ったようにバッテリーの熱のことを考えて走る必要があるなど、頭を使わないと勝てない難しさがある。そういった部分は魅力的だと思っています。私は、もともと難しいことを克服するのが趣味みたいなところがあるので、EVレースでもぜひ優勝してみたいですね。そうなれば、きっと楽しさも全開になると思っています。
高校生でレーサーを志望
——今橋さんは現在、プロレーサーとして活躍されていますが、そもそもレーサーになろうと思ったきっかけは何だったんですか?
今橋 高校生のときに、街角でウイングの付いたスポーツカーを見て、格好いいなと思ったのが最初ですね。そこからモータースポーツに興味を持ち、ついにはレーシングスーツとヘルメット姿のレーサーに見惚れるようになり、私もああいうのを着て速いクルマを走らせたいな、と。それがレーサーを目指したきっかけです。
——見た目の格好良さから入ったわけですね。でも、現実にはそんなに簡単にレースに参加できないですよね?
今橋 そうなんですよ。なかなか入り口が見つからなくて、最初は比較的気軽にはじめられるドリフト競技から入りました。でも、やっているうちにやっぱり満足できなくて……。そこで、ほとんど経験のない私でもレースに出られそうなチームを懸命に探したんです。そうしたら、タイミングよく、あるレーシングチームが女性ドライバーのオーディションをやっていて、ダメ元で応募したら受かってしまった。今思い返しても、あれは本当にラッキーでしたね。
「3年の空白が私を強くした」
——憧れのレースデビュー。最初からいい成績を残せたんですか?
今橋 いえ。ただただ精一杯走っていただけで、目立った成績はほとんど残せませんでしたね。
——そうでしたか。
今橋 そんな状態が数年続いたあと、結婚・出産したので、育児もあり、お休みすることにしたんです。今季は、そこから3年ぶりの復帰ということになります。
——最初は振るわなかったにしても、復帰後はいきなりインタープロトで優勝しているし、EVレースでも連続して好成績を残しています。3年のブランクの間に何か特別なことがあったんでしょうか?
今橋 いい成績が残せなかったにせよ、最初の数年間でレースを戦う基礎はできていたと思います。そのうえで、3年間のブランクの間に、余計な力が抜けて頭が柔らかくなり、それがいい方向に働いたのかなと感じています。最初の頃はただただ速く走ろうとガチガチで、周りが見えない状態だったんですよ。でも、復帰後はリラックスできるようになっていて、周りのアドバイスを素直に取り入れ、何事も冷静に取り組めるようになっていた。そして、気がつけば結構速く走れるようになっていた。何も特別なことではなく、ほんのちょっとしたメンタルの違いが、レーサーとしての自分を大きく変えたんです。
エンジン車とEVの二刀流へ
——今の世の中はカーボンニュートラルの方向に動いていて、おそらくレースも電動化していくだろうと見られています。そのことを踏まえつつ、今橋さんの今後の目標を教えてください。
今橋 当面はエンジン車レースを中心に活動し、いずれは国内最高峰のスーパーGTで戦えるレーサーになりたいと夢見ています。そして、国際的にも活躍できるようになっていきたいです。ただ、おっしゃるように、レースもだんだん電動化している現実があるので、プロレーサーとしてはエンジン車レースとEVレースの両方で活躍できるようにならないといけないと考えはじめています。相当難しいことですが、このEVグランプリシリーズにスポット参戦できていることをベースに、その方向性もしっかり探っていくつもりです。
——野球の大谷選手のように、レーサーも二刀流でやっていく時代なのかもしれないですね……。それ以外に夢はありますか?
今橋 自分が勝ち続けることで、モータースポーツのさらなる発展と人気の盛り上がりに寄与できればいいですね。
——かなり大きく出ましたね。
今橋 今、どこかの高校生がレースに憧れ、レーサーになりたいと思っても、そう簡単にはなれない現実があります。むしろ、ほぼ不可能に近いかもしれません。親の厚い援助のもと、幼い頃からカートレースに慣れ親しんでレーサーになるのが王道ですから。私は、この現実をかなり悲しく感じています。小さい頃からレースをやっている一握りの人しかレーサーになれないとすると、将来的にモータースポーツにはサッカーや野球のような盛り上がりは期待できないだろうと考えるんです。
——確かに、そうかもしれません。
今橋 じゃあ、どうすればいいのか。やっぱり、私のような遅咲きのレーサーがもっと活躍することが大事なんです。それによって、もしかしたら、後からレースの魅力に目覚めた子たちに大きな希望を与えられるかもしれない。みんな勇気を持って障壁を乗り越えてレーサーになってくれるかもしれない……。そうなったら、モータースポーツ界は、もっと広く親しまれるものになっていくと思います。だから、とにかく私は勝ち続ける必要があるんです!
——素晴らしい夢です。ぜひ勝ち続けて、これからのモータースポーツ界を盛り上げてください。
今橋 ありがとうございます。とりあえずこのEVレースでは、チャンピオンの地頭所くんを打ち負かすことを第一目標にします!
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