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2021年8月27日更新
ポールポジションを獲得したのは、スポット参戦中の女性ドライバーだった――。
8月8日にツインリンクもてぎで開催された2021全日本EVグランプリシリーズ(ALL JAPAN EV-GP SERIES)第5戦。午前8時30分から行われた予選は、台風の影響で激しい雨にたたられた。路面は完全ウェット。
そんな悪コンディションの中、全11台のモーター駆動の電動車がコース1周の速さを競った。第3戦まで出場していたポルシェ タイカン ターボSが不参戦のため、トップタイム争いは事実上、最高峰クラスのEV-1クラスにエントリーしている5台のテスラ モデル3の間で行われることとなった。
有力視されていたのは、ランキング1位の地頭所光選手(#1 TEAM TAISAN 東大 UP テスラ)、ランキング2位のTAKAさん選手(#33 適当Lifeアトリエ Model3)、前回の雨の菅生でもポールポジションを獲得した今橋彩佳選手(#2 ガーデンクリニック CNR3 アキラR テスラ)が乗る3台。なかでも、3年連続のシリーズチャンピオンで今季も開幕から4連勝を飾っている地頭所選手が駆るモデル3が優位と思われた。
タイヤとドライビングで
2戦連続のポール獲得
しかし、予選で段トツの速さを見せたのは女性ドライバーの今橋選手だった。
記録したタイムは2分22秒680。2位のTAKAさん選手に2秒以上もの差をつけて、ポールポジション獲得を決めた。大本命の地頭所選手はさらに遅れて、3位という結果に終わった。
今橋選手は、第2戦からのスポット参戦者である。女性ドライバーということで、男性ばかりのレースに新風を吹き込んでいるわけだが、性差の面で注目されるという以上に、新たな実力者の登場という面で評価されている選手である。2戦連続の雨中での予選1位は、紛れもなくその実力の証であろう。
レース主催者である日本電気自動車レース協会(JEVRA)の富沢久哉事務局長もこう語っている。
「今橋さんのモデル3は、ダンロップのレインタイヤを履いていた。片やTAKAさんと地頭所君のモデル3はヨコハマのドライ用タイヤを履いていた。激しい雨の予選での差は、それが大きく影響したといえるでしょう。ただ、今橋さんは今季、インタープロトというレベルの高いエンジン車レースでも優勝しており、かなり腕のいいレーサーであることは間違いない。これまで常時上位を走ってきた男性諸氏もうかうかしていられない流れ。決勝で彼女が優勝する可能性は十分にあると思います」
米国製vs中国製など
隠れた見所がいっぱい
予選終了後、上位ドライバーたちに予選の走りについての自己分析と決勝への意気込みを聞いた。
まずはポールポジションを獲得した今橋彩佳選手の声から。後編に掲載するインタビューで予選での速さの秘密などを語ってもらっているので、ここでは決勝への意気込みだけを紹介しておく。
「このEVレースに参戦して3戦目。まだ決勝での走り方がよくわかっていません。バッテリーを熱して加速制御が働くのを防ぐために、ある程度アクセルをセーブして走る必要があるけど、セーブし過ぎると抜かれちゃうし……。決勝ではぜひ初優勝したいですが、勝てるかどうかはそれ次第だと思っています」
続いて決勝グリッド2番手を獲得したTAKAさん選手。今戦から車両を新しくした。中南米の毒蛇のようなカラーリングは、非常に強そうな印象を与えている。
「慣れないクルマで予選2位。まあまあかな……。実は、今回から僕が乗るのは、米国ではなく中国でつくられたモデル3なんですよ。バッテリーはパナソニック製じゃなくてCATL製。新車に近いのでフレッシュではあるものの、高速レースをする中でバッテリーが熱されたときの加速制御がどう働くかがまだよくわかっていない。なので、決勝ではとりあえずそのデータ取りをしながら走り、その中で上位に食い込めればいいかなと考えています」
連勝中の地頭所光選手は、予選3位の結果を悔しそうに振り返った。しかし、決勝では勝ちを狙うとはっきり宣言した。
「予選ではトップの今橋さんから約3秒遅れ。そのうちの2秒はタイヤのせい。僕のタイヤは今橋さんのようなレインタイヤじゃないし、相当使い込んでいるので、何度かハイドロプレーニング現象が起きてしまったんです。あとの1秒は……これはもう完全に僕のミス。タイムアタックのとき、何度かコースアウト寸前になってしまった。もう、反省しきりです。決勝では雨も少なくなるようだから、序盤はどうにか先頭についていき、後半のバトルに持ち込んで勝ちを呼び込みたいと思っています。今橋さんはインタープロトで勝つほどのドライバーだし、TAKAさんはバッテリーがフレッシュなので、どちらも脅威ではあるけれど、頑張って5連勝を目指します」
予選5位だったKIMI選手(#8 GULF.RACING.Model3)にも話を聞いている。決勝で上位に食い込む可能性が大きい選手であることもあったが、前戦からチームの同僚であるKUNI選手が駆るポルシェ タイカン ターボSが欠場している理由が知りたかった。
「ポルシェ タイカンは、いつも予選では速かったんですけど、どの決勝でも高速で20㎞以上走るとバッテリーが熱せられて加速制御が働いてしまい、ときにはリーフよりも遅くなることがあった。それで、都度いろいろと対策を施していたわけですが、残念ながら根本的な解決にはつながらなかった。そういったわけで、いったん休むことにしたんです。今後、いい対策が見つかったらまた参戦してくると思いますよ。……僕の今回の決勝への意気込みですか? うーん、いつもどおり楽しく走れればいいかなと思っています。履いているタイヤがドライ用のヨコハマなので、雨が予選のときのように激しくなければ、そこそこの成績が残せるかもしれないですね」
カラーリング以外、見た目がまったく同じテスラ モデル3同士によるトップ争いは、観る者のレースへの興味を若干薄れさせるところがある。しかし、タイヤチョイスの違い、米国製と中国製の違い、バッテリーの熱マネジメントの違い、ドライバーの思惑の違いなどを知れば、奥深い観戦の楽しみが生まれてくるのであった。
2021全日本EVグランプリシリーズ 第5戦 レポート
①雨の予選、実力派の女性ドライバーがトップタイムを叩き出した!
②序盤に展開あるも、チャンピオンは嫌みなほどに強かった!
③「私が勝つことでレース界が盛り上がっていけばうれしい」(今橋彩佳選手)
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