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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2021年3月11日更新
諸星陽一氏によると、アメリカではEDRから読み出したデータの解析レポートが裁判の証拠として普通に使われていて、その一連の作業はビジネスとして成り立っているという。
対して、まだEDR、CDR、CDRアナリストによる事故原因究明について広く認知されていない日本においては、そうした展開はまだまだなのが現状だ。
しかし、諸星氏は「そんな遅れた日本においてもすでにEDRのデータ活用が始まっている」と語る。例えば、多くの人たちが注視している「暴走」と主張された事故の裁判においても、その活用の形跡がはっきりと見られるのだという……。
いったい、どういうことなのか?
アメリカでは事故原因究明に
データ活用は当たり前
——先ほど、アメリカでは20年ほど前からEDRのデータの活用が始まり、いまやそれが普通のことになっていると言われました。どうしてそんなにも早く普及することになったのでしょうか?
諸星 アメリカが自動車大国であるうえに訴訟社会であるため、数多く起こる交通事故の裁判では確かな証拠として客観的なデータが求められたということが大きいでしょうね。
——なるほど。ところで、当初からアメリカを走るクルマすべてにEDRが搭載されていたのですか。
諸星 1990年代半ばにGMがEDRの前身となる記録装置をボッシュ製の読み出し機とともに事故調査に活用したのが最初で、その後、2000年前には事故調査での活用に特化したCDRが市場へ販売されることとなりました。その後、フォード、クライスラーが2000年中盤までに、またトヨタが2011年よりCDRでEDR読み出し対応することとなりました。そして2012年9月に「事故の再現と車の安全系システムの解析評価に役立つEDRの技術要件と市場での読み出し環境を整備する」という内容の49CFRpart563という連邦法規が施行され、アメリカで販売されたヨーロッパ車や日本車を含めて、EDRを活用した事故調査がされるようになりました。ちなみにアメリカでの乗用車、小型商用車の新車販売のEDR搭載比率は95%以上となっています。
——となると、アメリカでEDRのデータが裁判の証拠として盛んに活用されだしたのは10年ぐらい前からということになりますか?
諸星 おそらくそうでしょう。初めのうちは主に警察など公的機関が特定の事故の原因究明のために使っていたらしいです。それが、だんだんと損害保険会社、自動車メーカーなども活用しだして、交通事故の民事裁判や保険の過失割合の判定にも使われるようになっていったようです。
そうした動きの中で、一般のフリーのCDRアナリストもが増えてきて、2012年頃からEDRデータを元にしたレポートを作成するビジネスが普通に展開されていると聞きます。ちなみに、そんなフリーのCDRアナリスト、アメリカには1000人以上いると言われています。
——へえ、1000人以上ものフリーのCDRアナリストが裁判証拠のレポートを作成するビジネスを!
諸星 そうなんです。ただし、このビジネスにはテクニシャンという存在も介在しています。これはCDRテクニシャンのトレーニングを受けた資格者が主に実施する業務なんですが、彼らは事故現場などに行って事故車のEDRデータをCDRを使って読み出す作業をします。そのデータを、CDRアナリストが分析するという分業が図られているんです。
——分業する必要があるほどにニーズがあるということですね。
諸星 そもそもアメリカでは交通事故の現場検証が民間にも開放されていて、事故が起こった際は民間の事故調査員が警察機関からの通報を受けて現場に急行し、EDRデータの読み出し作業を現場の証拠調査とともに行うという流れが確立しているらしいです。その民間の事故調査員はテクニシャンの資格を持っているというわけです。
暴走事故の裁判で
EDRのデータが証拠に!?
——アメリカと比べて、日本ではCDRアナリストの活躍を見聞きすることがほとんどありませんね……。
諸星 いや、それが徐々にではありますが、具体的な活躍シーンが増えてきているんですよ。例えば、大手4大損保では、社内に何人もCDRアナリストを抱えていて、実際に事故の原因究明とそれに準じた保険の過失割合の決定に役立てていると聞いています。また、刑事事件では2016年に起きた暴走死亡事故でも原因究明にCDRとEDRデータが使用され、踏み間違えが特定されたりと……大小様々な暴走事故で活用され、現在進行中の裁判でも証拠として認められています。
——ということは、あの「ブレーキを踏み間違いか、ブレーキの故障か」を争っている注目の裁判もでしょうか?
諸星 ええ。2月1日の第5審のことを報じる時事通信の記事にこんな記述がありました。〈(警察側は)車載の記録装置に残っていたデータにもクルマが勝手に加速したり、ブレーキがかからなくなった形跡はなかったと述べた……アクセルが全開だったということを示すデータも残っており……〉と。EDRとかCDRとかの単語は書かれていませんけど、これはEDRのデータをCDRで読み取り、それを元にしてCDRアナリストが解析したレポートが証拠として提出されたことを示していると思われます。
——では、もし、その証拠が大きな意味を持って結審すれば、今後、EDRの搭載と事故時におけるCDRおよびCDRアナリストの必要性を訴える声が急速に高まっていくかも知れませんね。
諸星 まだ結審されていないのでなんともいえませんが、判決の内容次第ではこれまでのEDR解析が決め手となった裁判事例も注目され、そうした動きが活発化する可能性はありますよね。
——あの、これは交通事故の訴訟によく関わっている弁護士から聞いた話ですが、日本では交通事故の過失割合の決定や裁判の判決で、客観的な証拠がない場合に、加害者も被害者も納得しないケースが見受けられるとか。でも、EDRのデータが証拠として使われるようになれば、その辺りが明確になってすっきりするのではないでしょうか。より健全な交通社会を確立させるためにも、早くそういう状況が普通になるといいですね。
諸星 はい、自動車ジャーナリストでありCDRアナリストでもある僕としても、そうなることを心より願っています。
諸星陽一氏が語る〈クルマのブラックボックスって何?〉
①「EDRが事故時に残すデータは正確な事故原因究明に役立つんです」
②「今後は日本でも暴走事故の解明に一役買うことになるでしょう」
③「『弁護士費用特約』はCDR活用を後押しする重要要素です」
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