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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2020年10月6日更新
MaaSは三密の権化かも(汗)
コロナ禍があってからというもの、世界の在りようは一変したかのように見える。
たぶんそのせいだろう、明るい未来を素直に語る書籍に出会うとつい懐疑的になってしまう。「本当に、そんな風に事はうまく進むの?」と。
例えば、今年、コロナ禍真っ盛りの3月に発刊されたこの本『Beyond MaaS』を手にしたときは、特にそんな思いを強くした。
そもそもMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)は、公共交通機関、ライドシェアリング、カーシェアリング、タクシー、レンタカー、ライドヘイリング、自転車シェアリングなどの交通サービスを統合して、人々がスマホのアプリ一つでそれが利用できるようにし、マイカーに代わる移動の自由を世の中にもたらそうというものだ。
これを実現しようとすれば、ほぼ三密の中の移動ばかりとなる。つまり、新型コロナウイルスをはじめとした悪性ウイルスの感染の恐怖が伴うのは必至で、だとしたらいくら便利であってもそう簡単には人々に受け入れられないことになるのではないかと思えたのである。
読書を始める前には、往々にして先入観に横やりを入れられるところがあるが、今回はそれがとてもひどかったのである。
善のパワーはウイルスに負けない!?
ところが、読み進めていくうちにその先入観はだんだんと解きほぐされていった。そして、抱いた疑念は杞憂の可能性が高いとわかってきた。
本に書かれている内容から、以下の三つの希望らしきものが見い出せたからである。
① MaaSは100年に1度の大改革ゆえ、社会実装化&ビジネス化されるまでにはそれなりに長い時間がかかる。
② MaaSのビジネスは生態系のような柔軟なシステムなので、世の中で起こることすべてにうまく対応することができる。
③ CO₂削減をはじめとする社会的に善と認められたものは、そう簡単にはなくならない。
①が希望と考えられる理由は単純である。本書によるとMaaSが完全なカタチで実現するのは早くても2030年代とのこと。であるならば、それまでには新型コロナウイルスのワクチンや治療薬はとっくにできているはずなので、電車や乗り合いバスなどの三密の不安もすっかり取り除かれているに違いないと思われたのである。
②についてはちょっと難しい。本書によると、MaaSのビジネスは自然界の生態系と似たシステム(エコシステム)を持ったものになるのだそうだ。すなわち、これまでのビジネスが業界内だけの競争を軸として成長があったところ、MaaSビジネスの場合は世の中の動きやニーズに応じて柔軟に異業種との連係(例:公共交通×医療業界)が果たされていき、その中で成長がもたらされるものとなる……。すなわち、今後、コロナ禍のような厄災が起きたとしても、迅速かつ効果的な対応が可能になるとの希望が見えたのである。
③は本書のどこかで具体的に言及されているわけではなく、全体を通して感じられたことなのだが……。もともとMaaSはクルマのCO₂排出の削減や渋滞緩和といった問題を解消することを目的として生まれたシステム。これが世界中に広がっていけば、地球温暖化を防止するための大きな一手となり得る。しかも、突発的な悪性ウイルスの発生は気候変動も大きな要因とされているわけだが、そうした悪循環の抑制にも繋がっていくに違いない。ひいては、ウイルス禍による経済的損出の防止にもなるし、新たなビジネス創出による景気刺激策ともなるだろう。であれば、こうした社会的に善なるものの推進を、各国政府が諦めるはずがないとの希望的観測が成り立ったのである。
この希望的観測は、決して楽観的な空想ではない。これはMaaSに関することではないのだが、コロナ禍の最中に、フランスやドイツが脱炭素ビジネスを支援する動きを加速化させているというニュースが流れた。例えばフランス政府は大手航空会社への救済条件として国内線のCO₂排出量を2024年までに5割削減するよう提案をしたという。上記した社会的善がいかに大きな現実的なパワーを持っているかがよくわかる事例といえるだろう。
そう、普通、大きな厄災とかがあると、われわれ一般人は「とりあえず未来の理想の社会の実現については凍結しておいて、当面の問題解決だけに金と力を注ぐべき」となりがちだ。だが、賢明な政府は、当面の課題解決に取り組みながら社会善の方向にもしっかりと動くことを忘れないのである。
とにかく、この本、「コロナ後も、画期的な交通形態であるMaaSが進展していくのは、どうも間違いなさそうだ」との感想をもたらしてくれるものとなっているのである。
MaaSの先にあるさまざまなる意匠
最後に、肝心なこと、この本が具体的にどんな内容になっているのかについて触れておこう。
一口に言うと、この本には「MaaSの社会実装=ビジネス化は具体的にどんな風に進むのか(進むべきなのか)」が書かれている。
とくに上記の②で触れた、交通業界以外の異業種とのコラボレーションによって始まる新しいビジネスの可能性に関する記述が多い(本書のタイトルであるBeyond MaaS=MaaSの先とは、まさにそのことを指している)。
その連係先としては、観光や小売業との連係は言うにおよばず、医療、保険、介護、不動産などなどが挙げられている。MaaSによって統べられた交通は、あらゆる業種・業界と連係して新しいビジネスを生み出していき(あるいは既存のビジネスを活性化させていき)、世の中を大いに盛り上げていくというのだ。
今後の10年を視野に入れた交通絡みのビジネスを始めようとする人には必携の書。かなりいいヒントが詰まっている一冊となっている。
ちなみに、この本を読後、われわれ編集部内でも、「じゃあ、MaaS時代にはどんなビジネスができるだろうか」と考えてみた。
出てきたのは「乗り合いやシェアに使用するクルマ(商用車)の日常点検と消毒を請け負うサービス」。セーフティ&クリーンをコンセプトにしたクルマのメンテナンスビジネスだった……。
どうだろう、コロナ禍のことを意識しすぎて、短絡的に過ぎる発想だろうか?(文:みらいのくるま取材班)
『Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命 ―移動と都市の未来―』
・2020年3月9日発行
・著者:日高洋祐/牧村和彦/井上岳一/井上佳三
・発行:日経BP
・価格:2,200円+税
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