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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2019年12月5日更新
日本EVフェスティバルに参加したEVは、なにもレーシングカー仕様の車両ばかりではない。自動運転機能を備えたEVもあれば、〈何でもEV展示〉にはユニークなEVたちが登場した。
ルポの最後は、EVの未来を開くであろうこれら車両の開発に携わった若い人たちの声を紹介したい。
〈自動運転競技車タイムアタック〉
初出場で完走した久禮健司(くれ けんじ)さん
「若い人の手が新しいクルマを生む」
〈自動運転競技車タイムアタック〉は、3年前から行われるようになった新しい競技。今年も、一台ずつの車両がどのくらいのタイムでサーキットを一周できるかが競われた。レースとしての興奮はなかったものの、無音そして無人でサーキットを走る一台一台の車両の様子は不思議感と未来感にあふれ、観衆は「完走できるか、どうか」と固唾を飲んで見守っていた。
そんななか、DENSO-ERKチームのマシンであるDENSO-自動運転ERKは、初出場ながらも見事に6分43秒で完走を果たした。出場3チーム中2位。しかも、その車両は日常の仕事のかたわらで、わずか1年足らずで完成させたものというではないか……。
チーム代表を務めているデンソー社員の久禮健司(くれ けんじ)さんは36歳と、今回のルポに登場していただいた“若い人”たちに比べるとちょっと年上だが、団塊の世代からすれば人生1/2なので、ギリギリ若者枠に入ると独断し、開発秘話などを聞いてみることにした。
久禮さんによると、DENSO-自動運転ERKは、かつて日本EVフェスティバルのERK30分ディスタンスチャレンジで優勝したことがある車両をベースにつくられたもの。なぜ、あえて自動運転車化したのか?
「私の本職はEV関係のエンジニアです。日ごろはインバータなどの設計をしているのですが、以前から他の分野でも自分のスキルを拡げたいと思っていました。で、ある日、近くにちょうどいいサイズのEVカートがあるのを見て、『あ、これで自動運転技術が試せるじゃないか』と思ったわけです。つまり、エンジニアとしての単純な好奇心が動機でした」
それにしても、わずか1年足らずで完走できる車両を完成させたとは驚きだが、自動運転車はそれほど簡単に創れるものなのだろうか? その疑問に対して、久禮さんはあっさりこう答えた。
「いまは自動運転に使えるいい部品がどんどん出てきているので、それを応用して装着すれば、創るのはそう難しいことではありません。例えば、このDENSO-自動運転ERKはGPSだけで自動運転できるようにしているんですが、障害物がないサーキット内であれば、それで十分でしょう」
「ただ、先ほど舘内さんから、来年以降、他のマシンと混走させる形で完走タイムを競うレースを考えているという発言がありました。もし、そうなったとしたら、さすがにGPSだけでは心許ない。カメラやセンサーも付けて、自動運転の精度を上げていくことになるでしょう。これは、けっこう大変かも知れません(苦笑)。挑戦しがいはありますけどね」
最後に、これから日本EVフェスティバルで自作のEVや自動運転車などを走らせることを夢見ている若者たちに、兄貴分的エンジニアの立場からアドバイスをくださいとお願いしてみた。久禮さんは、「うーん」と一回唸ってから、明快な答えをくれた。
「とにかく、あまり余計なことは考えず、地道に手を動かしてEVなり自動運転車なりを一台つくってみてほしいですね。自分がつくったものが動いたときの感動って特別で、その歓びは技術者としての自分を大きく成長させてくれます。そして、結果的に社会の明るい未来をつくることに繋がります。
私自身、エンジニアとして、ずっとそういう感動効果を原動力にしてやってきましたから、それは間違いないことだといえます。実は今日も、マシンが完走を果たしたときには手が震えるくらい感動したんですが、おかげで明日からまたEVの部品づくりや自動運転車のバージョンアップにがんばれそうです(笑)」
手を動かすことが大好きな若き技術者たちよ、失敗を恐れず、逡巡することなく大きな感動を求めて挑戦すべし、なのである。
〈何でもEV展示 デモ走行〉
折り畳み式EVカートを出走させた高校生たち
「EVをもっともっと進化させたい」
栃木県立鹿沼高校の物理部の学生さんたちは、〈何でもEV展示〉のデモ走行にKPCEV-08というユニークな折り畳み式EVカートを出走させていた。これは、冒頭の走行写真に写っている後藤聡(ごとう さとし)先生〔歯科医・東北大学講師〕の指導のもと、将来的に“高齢者のための折り畳める電動車椅子”を創ることを前提として開発・製作されたものだ。
驚くことに、このEV、40本の充電式乾電池でモーターを動かす仕組みになっていた。それでいて、最高速度20キロ以上で航続距離4,000メートル以上の性能。しかも、超音波センサーによる自動ブレーキシステムまで備えているという(写真で、電池の束の上にあるのが超音波センサーのガン)。見た目は華奢だが、かなりレベルの高い一台だった。
この開発・製作に携わった学生たちは、いったいどんな若者たちなのだろうか?
部を代表して、新籾侑大(あらもみ ゆうだい)さん〔部長17歳、写真手前〕、吉田匠良(よしだ たくら)さん〔副部長17歳、写真奥右から二人目〕、大橋果凛(おおはし かりん)さん〔会計17歳、写真奥左から二人目〕の三人に話を聞いた。
まず知りたかったのは、彼らはどれくらいクルマが好きなのかということ。電動車椅子とはいっても、EVを開発・製作している以上は、クルマに興味がないわけがないだろうと踏んで質問を投げかけてみた。
ところが、都合のいい予定調和は起こらなかった。返ってきた答は「僕ら全員、クルマにはあまり関心がないんです」だった。ガーン。その理由はシンプルで、いま主流であるガソリンエンジン車がガンガンCO₂をだして環境を壊すところがすごくカッコ悪く見えてしまい、積極的に興味がもてなくなっているのだそうだ。なるほど、なるほど。
じゃあ、将来的に普及するEVなら大丈夫なはずと、その方向に話を向けてみたところ、今度はちゃんと全員が肯定してくれた。「EVは地球にやさしいので好感を覚えますね」とのことだ。よかった、よかった。
ただし、これも全肯定というわけではなかった。彼らにとっては、現状のEVは、まだまだクールなカッコよさが足りていないらしい。環境性能にしてももっと向上させるべきだし、かつ社会貢献できる機能もほしいのだという。
どういうことなのか? 以下に、三人それぞれの意見の概要を紹介する(再編集・主旨に沿った加筆あり)。
新籾「EVはCO₂を出さないといっても火力発電でつくる電力で走る以上は、排出量ゼロとはいえません。再生可能エネルギーを使えば解決するかも知れませんが、それはまだまだ時間がかかります。であれば、EVの環境性能をもっと高めていくことを考えたほうがいいということになる。僕が考えているのは、電気エネルギーと水素エネルギーで動くハイブリッド型のEVをつくるということです。水素こそは環境にいい次世代型の資源なので、もっと活用すべきだと思っているんです。高校の物理部では難しいですが、大学に進んだら、ぜひその方向での研究がしてみたいですね」
大橋「最近、地球温暖化による気候変動が激しくて災害も頻繁に起きているじゃないですか。私は、大学に進んだら、それを防ぐための建築関係の環境システムを学ぶことを考え始めています。例えば、いま、太陽光パネルと電動車を組み合わせて電力供給ができるシステムを構築するというのがありますけど、ああいう身近なところに組み込めるスマートなシステムづくりに取り組んでいければなあって思っているんです。それはもしかすると、いろんな機能を持ったEVといっしょに構築していくものになるのかも知れません。なので、私はEVの一層の進化に期待しているんです」
吉田「僕は将来は情報工学を研究する道に進むつもりでいます。だから、クルマはそんなに好きじゃないけれど、この折り畳み式EVカートにおける自動ブレーキのプログラミング作業に進んで参加しました。今回、ゴールに置いた黄色い障害物を検知して、50センチ手前で自動でストップしてくれたのを見たときは、震えるほど嬉しかったです(笑)。来年創る予定の車椅子タイプのEVの安全性について目途が立った気がしました。
それで、やっぱりEVも、こんな風にプラスαの機能を持って、環境面以外でも社会に役立つ存在になるべきなんじゃないかなあって思っているんです。普通の自動車で、それがどういうことになるのかはまだはっきりとはわかりませんが、社会貢献できる存在になれば、きっとすごくクールでカッコいいクルマということになるはずです。僕もクルマ好きになります(笑)。
まあ、待っているだけじゃダメなので、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんじゃないけれど、僕らみたいな高校生が前線に立ってそういうことに取り組んでいくべきなんでしょうね」
傍らで彼らの話を聞いていた物理部顧問の松井威(まつい たけし)先生は、にこやかな表情でポツリこう呟いた。
「環境問題をはじめとするさまざまな問題の解決は、彼らの双肩にかかっていますね」
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