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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2019年12月5日更新
「僕を含む団塊の世代はしっかりと反省しなくてはいけません」
EV普及のためのモータースポーツ・イベントとして1995年に始まった日本EVフェスティバルは、2019年11月3日の筑波サーキット・コース1000で節目となる25回目の開催を迎えた。
その記念すべき開会式の挨拶で、主催団体である日本EVクラブの舘内端代表は上記のような反省の言葉を口にした。
なぜか?
以下はその挨拶を再編集した概要だが、それに耳を傾けてみれば理由がよくわかる。
「CO₂は地球温暖化の元凶。石油燃料で走る自動車はそのCO₂を世界の総排出量の約25%も出しているため、存在意義が問われている。
しかし、もし、世界中の自動車が全部EVになれば、直接排出するCO₂はなくなるので、その存在意義も保たれる」
「このフェスティバルは、この価値あるEV普及を推進することを目的の一つにしてスタートさせた。実際、25年間にわたり開催し続けてきたことによって、それなりにEV啓発は進んだし、普及にも貢献した。それはそれでたいへんに喜ばしいことだと思っている」
「その一方で、『間に合わなかったかな』と悔やむところもある。最近、日本各地でまれに見る規模の台風や洪水が頻発しているが、ああした災害は、地球の平均気温が4~5℃上がったときに起きると考えられていた。ところが、わずか1℃程度の気温上昇で起きてしまっている。これは、地球温暖化による気候変動を研究している人たちの計算間違いらしい。本当にそうだとすると、われわれはすでに取り返しがつかない事態に直面している可能性がある」
「こうした事態を招いた責任の一端は、僕を含む団塊の世代にあると思っている。戦後の高度成長期以降、嬉々としてガソリン車に乗り、CO₂を排出し続けてきた。結果、これからを生きる若い人たちに大きなツケを回してしまった。そのことを、たいへんに申し訳なく思う。しっかりと反省しなければいけない」
「では、どうすべきか? 僕としては、このフェスティバルを第25回の開催という節目を機に、若い人たちが主役で楽しめるものにしたいと思っている。これまで十分に楽しんだわれわれ団塊の世代は、引き続き参加するにしても、お詫びの意味も込めて、若い人たちを全力でサポートするような役割も果たしていくことになるだろう」
「どうか若い皆さん、存分にEVを愛し、アクセル全開でレースを楽しんでほしい。そして、これ以上、地球温暖化が進まないよう、CO₂ゼロを実現してもらいたい」
年に一度のEVの祭典を楽しむ
舘内代表の印象的な挨拶があった開会式の後、ほぼ例年どおりのプログラムでEVによる各レースやデモ走行・試乗などが行われた。
すなわち、電気レーシングカートで30分間の走行距離を競う〈ERK30分ディスタンスチャレンジ〉、自由な発想でつくられた電気自動車を展示&走行させる〈何でもEV展示(+デモ走行)〉、三菱自動車のアウトランダーPHEVなど市販の電動車の展示・試乗〈環境EXPO/EV・プラグインハイブリッド車サーキット試乗会〉、市販EVを所有するオーナーたちによるタイムトライアルの〈メーカー製EVオーナーズ・タイムアタック〉、市販エンジン車を改造したコンバートEVで1時間の走行距離を競う〈コンバートEV1時間ディスタンスチャレンジ〉、自作の自動運転車(EV)でサーキット周回のタイムを競う〈自動運転競技車タイムアタック〉が、朝の10時から夕刻4時近くに至るまで実施されたのである。
(各レースの結果などについては日本EVクラブのホームページをご覧ください)
総参加者数は約690人。どのレース、イベントにおいても老若男女の参加者たちが真剣に取り組み、かつ心底楽しむ様子が見て取れた。
ただ、われわれ取材班は、舘内代表の挨拶に影響されて、ことさら若い人たちの動静に目がいった。そして、彼らがEVをはじめとする次世代車にどんな思いを持ちながら参加しているのかが気になった。
ということで、このフェスティバルに参加し、それぞれの分野で目立った活躍をした若い人たちに狙いを定めて、彼らが抱いているEVへの思いなどを少し深めに探ってみることにした。
……「あなたにとってEVは、どんな存在ですか?」
〈EVサイド・バイ・サイドの復活走行〉
クラウドファンディングに応じたT.Nさん
「中学生にEVファンになってもらいたい」
若者インタビューの一人目は、今回のフェスティバルの目玉として復活し、デモンストレーション走行を行ったEVサイド・バイ・サイドに同乗したT.Nさん(25歳)。
このEVサイド・バイ・サイドは、元はエンジン仕様だったものを二人乗りできるEVにコンバートしたフォーミュラカーで、2007年から2011年まで世田谷区と日本EVクラブが開催していた「中学生次世代車教室」の教材として使われていたもの。
しばらく休眠状態にあったが、舘内代表が「当時、中学生たちを隣に乗せるとすばらしい笑顔を見せてくれ、EVのことを大好きになってくれた。地球温暖化が予想以上に進んでいる厳しい現在、また彼らのような若い人たちに乗ってもらって笑顔を誘い、新たなEVファンを増やしながら問題解決へと繋げていきたい」と願い、クラウドファンディングで資金を募って復活に至った。ある意味で、“若者中心宣言”がなされた今フェスティバルの象徴的な存在といえる。
T.NさんがEVサイド・バイ・サイドのサイドシートに座ってサーキット走行ができたのは、クラウドファンディングに応えて資金提供を行い、そのリターンとして同乗する権利を得たからなのであった。
―― いきなりダイレクトな質問で恐縮ですが、EVサイド・バイ・サイドを復活させるためのクラウドファンディングにいくら出資されたのですか?
「自分が出せる範囲の金額ということで、1万5,000円です」
―― なぜ、出資しようと?
「私はもともと整備学校の学生で、かつてこの日本EVフェスティバルのERKのレースに出場するチームの一員として参加したことがあったんですよ。で、そのときに味わったEVカートによるサーキット走行の楽しさが忘れられなくて……ああいうすばらしい体験を自分だけのものにしておくのは申し訳ないし、もったいないなあって思って復活を支援することにしたんです」
―― そうでしたか。それで、乗った感じはどうでした?
「思っていた以上に速くて、気持ちよかった。今回は復活したばかりということで、お金を出した大人しか乗れなかったけれど、今後はぜひ中学生などにもあのすごい加速感を味わってほしいですね。それで、それを入口としてクルマのことを大好きになってもらえればいいのかなあ、なんて思っています。なにせ最近、クルマのことに興味がないという若者が増えていると言いますから」
―― なるほど。ところで、ご自身は現実のカーライフでもEV派なんですか?
「まだエンジン車のことも好きなんですけど、EVはストップ&ゴーがすばらしいし、維持費も安いし、環境にもいいということはよくわかっているので、そっちの方向にだんだんと寄っている感じはあります。実際、いま乗っているのはエンジン車でもEVでもないノートePOWER(笑)。一般道でもモーターによる走りがとても気持ちいいから選びました。あ、あとモータースポーツでいえば、最近、自分の興味はF1からフォーミュラーEのほうに移ってきています」
―― いま、クルマ社会はEV時代に突入しつつあると言われています。そうした実感はありますか?
「実は、私は高速道路関係の仕事をしているんですよ。それで毎日、高速道路の交通状況を眺めているわけなんですが、ここのところEVが走っているのを見かけることがかなり増えましたね。とくにテスラがめっちゃ多い。なので、EV時代が始まっているんだなあって、ひしひしと実感しています」
―― ちなみに、高速道路上でそれらのEVは電欠せずに走っていますか?
「はい。意外かも知れませんが、電欠して止まってしまうEVってまったくといっていいほどないんですよ。逆にガス欠して立ち往生しているエンジン車のほうが多かったりする(笑)。EVは航続距離が短いのが欠点とかいうけれど、ドライバーの意識と乗り方次第で、そういうのはぜんぜん問題のないことになるみたいですね」
舘内代表は、これからは団塊世代が若い人たちをサポートする立場に回ると宣言していたわけが、なんとその若い人も自分の後輩たちをサポートしようと考えていた。なんと美しいEV好きたちの連環か……。
このインタビューの内容を目にすれば、きっと舘内代表は「我が意を得たり」と「見事に一本取られた」という二つの思いがないまぜになった、特別な歓喜を覚えたに違いない。
『第25回日本EVフェスティバル』ルポ
① 「若い人のために」伝説のEVフォーミュラカーが復活ラン!
② 青年はEVマシンを駆るプロレーサーの夢を見る!
③ 高校生は社会貢献できるEVが超クールだと感じる!
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