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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2019年4月23日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
「あおり運転に遭遇したら、どうしよう……」。そう怯えていたKさん(24歳・会社員)は、最近ブームの高性能ドライブレコーダーを愛車に装着した。Kさんは「これがあれば証拠が残るから、ちょっとは安心ね」と思えるようになり、通勤のときも休日の遠出のときもあまり大きな不安を感じることがなくなった。
そんなKさん、あるよく晴れた日曜日、助手席に友人を乗せ、高速道路を使って郊外のグルメスポットに出かけた。もちろん、ほぼノンストレス状態。それどころか友人とどんなメニューを頼むかという話やお互いの恋バナに花を咲かせて気分はルンルンだった。
しかし、好事魔多し。走行車線を走りつつ、近づいてきたサービスエリアに、休憩のために入ろうと思ったときのこと。前方を走るトラックからなにやら茶色く長い物体がフワッと浮き上がったのが見えたような気がした瞬間、バシッと鋭い衝撃音が響き、助手席側のフロントガラスに大きな蜘蛛の巣状のヒビが入った。友人は「キャーッ」と叫んだ。同時にKさんも「ワッ」と叫んだ。
突然の出来事にうろたえたKさんだったが、とりあえず間近だったサービスエリアにクルマを入れた。よく見ると、Kさんのクルマはフロントガラスのみならず、ピラーとミラーまで痛んでいた。Kさんはすぐに警察を呼んだ。駆けつけた警官はKさんから事情を聞き、さらにドライブレコーダーの映像を確認し、「ああ、前を走っていたトラックから落ちた木材のような物がぶつかったんですね」といった。
結局、Kさんのクルマはレッカー移動されることになり、せっかくのグルメ行はキャンセルとなった。残念無念。
しかし、悲劇はそれだけではなかった。後日、保険会社から、Kさんを激しくガッカリさせる電話連絡があったのだ。
「ドライブレコーダーの映像で木材を落としたトラックのナンバーがわかり、持ち主が特定できましたので、これから相手方の保険会社と補償の交渉に入ります。高性能なドライブレコーダーを付けておられて、本当によかったですね……。ただ、一つ申し上げておかなくてはならないことがございます。今回の事故は、相手の過失責任が大きいものの、Kさまも、適正な車間距離をとっていなかったことや前方不注意の責任が問われる可能性が否定できません。その場合、フロントガラスや車体の修理代について全額相手持ちとならず、Kさまにも過失割合に応じた支出が生じますので、加入されている車両保険でカバーするなりしていただくことになると思います。その点、どうかご承知おきください」。
Kさん、これまでの人生において蜂に刺された経験はなかったが、きっと「泣きっ面に蜂」とはこういうことをいうに違いないとしみじみ思ったのであった。
高速道路の落下物処理件数は
1年で約30万件にも上る
はっきりとした数値が明らかにされていませんが、高速道路上での落下物に起因した事故はかなりの数に上っているようです。死者が出る重大な事故もたびたび起きています。
なにせ、全国の高速道路会社による1年間の落下物処理件数は約30万件にも上っています。これは、1日に少なくとも820件以上もの落下物が日本の高速道路で発生している計算となり、毎日、たくさん走っている車両がそのうちのどれかと絡んで事故を引き起こしてしまうのは当然の成り行きといえるのです。おそらく、Kさんが心配していたあおり運転およびそれによる事故の件数より多いのは間違いないところでしょう。
下に示したのは、1年間に高速道路会社がどれだけの落下物を処理しているかを示すグラフ。落下物の内訳を見ると、「プラスチック・布・ビニール類」「自動車部品類(タイヤ含む)」「木材類」が多いことがわかります。
高速走行中に固くて大きな金属片やタイヤ、木材などが飛んでくる、もしくは踏んでしまうというのは、かなり怖い話です。Kさんの場合は、木材がぶつかって助手席側のフロントガラスやピラーならびにミラーを損傷させたわけですが、それだけで済んだのは不幸中の幸いでした。
もし、ガラスを突き破って助手席に座る友人にぶつかっていたとしたら……。もう、想像するだに恐ろしいことです。
物を落として人を死傷させたら
重い処罰が下される
当然ながら、道路上に落下物を発生させることは交通違反(「道路交通法71条4号 積載物の転落・飛散防止措置義務」違反)です。
それが、高速道路であれば物を落とした時点で違反行為とされ、故意に行われたときは「3カ月以下の懲役もしくは5万円以下の罰金」、過失であっても「10万円以下の罰金」が科せられます。
そして、落下物が原因の事故で死傷者が出た場合は、過失運転致死傷罪に問われ、「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」という重い処罰が下されます。
ただ、落下物を発生させたクルマを特定するのはなかなか難しいのが現実です。
さらには、先行車から物が落下する瞬間を目視した状態で事故が起きたとしても、Kさんのようにドライブレコーダーによる鮮明な映像という確かな証拠がない限り、相手に責任を問えないことがしばしばあるようです。
なぜなら、落下物を発生させたクルマのドライバーが知らぬ存ぜぬを決め込んでしまうということが少なからずあるから……。なんとも悲しい話。道路に物を落とす人は道徳心まで落としてしまっているのでしょうか? もう、冗談にもなりません。
とにかく、クルマを運転するすべての人は、道路上に物を落とさないよう気をつけるべきです。荷物だけでなく、例えば、何気なく「缶コーヒーの空き缶をポイッと捨てる」なんてことも言語道断。クルマが高速で走行している中では、たったそれだけでシビアな事故につながります。
落下物事故に遭遇したら
安全を確保して各所に連絡
一方、落下物による事故(飛来物が直撃した事故、落下物を踏んだことによる事故等)に遭ったドライバーはどのような行動を取るべきなのでしょうか?
被害の度合いにもよるので一概にはいえませんが、事故の後は、まず安全が確保できる場所にクルマを停車させ、すぐに警察に電話を入れて、同時に道路緊急ダイヤルである「♯9910」(24時間受付・無料)にも電話するのがセオリーです。
警察への電話は事故処理のために不可欠というのはわかるにしても、道路緊急ダイヤルへの電話は何のために?
まだ残っているであろう道路上の落下物が他のクルマに被害を及ぼさないよう、道路管理者にそれを迅速に処理してもらうためです。被害を受けた直後で気が動転しているかも知れませんが、自車のことだけでなく、その他の車の安全にも気を配るべし…ということです。
これは、事故に遭ったわけではなく単に道路上に危険な落下物があるのを発見したとき、あるいは自分が落下物を発生させてしまったときでも、取るべき行動となっています。
ただし、高速道路上で落下物事故に遭った場合は、こうした一連の行動自体にも気を付けるべきことがあります。
例えば、被害を受けてすぐに路肩にクルマを停めるというのは、逆にさらなる危険を招く可能性があります。走れる状態であれば、近くのサービスエリアなり出口までいってから停車してください。
どうしても、路肩に停車しなければならないときは、ハザードランプを点灯させて安全に停車し、停車後は発炎筒や停止表示板を置き、ガードレールの外など安全な場所に避難するようにしましょう(避難後に通報)。
また、警察や道路緊急ダイヤルに走行中の車内から連絡を入れるときは、ドライバーが携帯電話やスマートフォンの操作をするのは危険なのでやってはいけません。そもそも御法度です。同乗者がいれば、その人にかけてもらうようにし、もし、同乗者がおらず一人であれば、やはりサービスエリアなり出口までいって停車してから連絡するようにしましょう。
ということでドライバーの皆さん、日頃から注意深く運転して落下物事故に遭わないよう気を付けましょう。そして、もし遭ってしまったら、できるだけ冷静に行動し、二次的な被害を招かないよう気を付けましょう。(後編に続く)
高速道路での落下物事故。えっ、自分も修理代を払うの?(前編)
高速道路での落下物事故。えっ、自分も修理代を払うの?(後編)
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