画像提供:一般社団法人日本自動車工業会
シンポジウムの後半には、田尻貴裕氏(東京都政策企画局戦略事業担当部長)がモデレーターとなり、前半に登壇したゲスト講演者4名に、2016年リオデジャネイロパラリンピックの車いすテニス日本代表である二條実穂氏が加わり、パネルディスカッションが実施された。
ディスカッションのテーマは『自動運転技術の現状と可能性』『東京の交通事情と課題』『先端技術が創る都市・東京の未来』の三つ。それぞれにおいて各パネリストが自身の立場・経験から感じ、考えていることを自由に発言し、既存の自動運転論ではわからない、現時点のリアルな自動運転事情や近々の実用化の見込みなどを明らかにした。
以下に、各テーマごとのディスカッションの一端を、注目すべき発言をピックアップする形で紹介していきたい(一部に省略・補足・意訳を含む)。
先に実現するのは
レベル4の無人輸送サービス
テーマ1『自動運転技術の現状と可能性』のディスカッションでは、佐治友基氏(SBドライブ代表取締役社長兼CEO)と沼田泰氏(日本自動車工業会・2020検討会主査)が自動運転車の実用化の見込みについて語った。
佐治氏「自動運転バスは、現状、決められたコースを走る分にはいい線まで来ている。飛び出しの実験でも、安全確保のために乗っているドライバーが、機械より先にブレーキを踏んだことは今まで一度もなかった。人間は反応するのに0.75秒かかるが、機械はそれよりずっと早く反応するから……。これらを踏まえれば、循環ルートでの実用化は早いと思う。ただ、(さまざまな交通状況の変化が起きる)一般道を走るとなったら、こうした正しい運転だけではダメなこともあるので、やはりインフラや歩行者とのコミュニケーションができるなどの技術を確立しないといけない」
沼田氏「今の道路環境は、有人運転と無人運転の車両が混合して走れるようになっていない。自動運転の実用化にはインフラ(との連携)をどうするかも含めて考えていかないといけない。ちなみに、政府のロードマップでは、(高速道路上などの限定された交通環境下での)レベル4以上の無人輸送サービスが先に実現するとされている。(さまざまな交通状況の変化が起きる)一般道でのレベル3の自動運転の実用化はそれ以降のことになるだろう」
車いすでもスムースに利用できる
自動運転車が出現する
続くテーマ2『東京の交通事情と課題』では、まず海外遠征が多い二條実穂氏が、障害者の立場から感じる交通の不便さについて語り、それを受ける形で清水和夫氏(国際自動車ジャーナリスト)と富田和孝氏(日の丸交通代表取締役社長)が解の一端を示した。
二條実穂氏(リオデジャネイロパラリンピック車いすテニス日本代表)
二條氏「開発途上国の都市と比べると、東京の交通事情は電車をはじめとしてすごく恵まれていると感じる。しかし、2020年にオリンピック・パラリンピックが行われるときに外国から多く訪れるであろう車いすの方にとって、電車移動は難関かも知れない。例えば駅構内のエレベーターの数とかが足りていないので、利用しずらかったりする。そうなると、クルマやバス、タクシーの移動が選ばれる可能性が出てくるわけで、その場合、車いすでも利用しやすい車両が多くあれば…と思う」
清水氏「内閣府のSIPでは第一期からずっと自動運転バスの正着制御というのをやっている。車いすの方がバスに乗り込むには、きちっと縁石に近付けられるようにしなくてはいけないから。今、ミニマムで4cm、最大7cmのレベルになってきているが、今後はダイナミックマップも活用するなどして、より高精度な正着制御ができるようになるはず。(オリンピック・パラリンピックには間に合わないかもしれないが)近い将来、車いすの方々もスムースに乗車ができ、シームレスな移動ができるようになっていくことだろう」
富田氏「人とテクノロジーが共存した自動運転タクシーが実現すれば、観光案内だけでなく、障がい者や高齢者のケアもできるドライバーが同乗する可能性が出てくる。(オリンピック・パラリンピックには間に合わないかもしれないが)ぜひ、おもてなし能力をより高めたタクシーの出現に期待してほしい」
自動運転&シェアリングの時代には
速度よりも頻度が重要になる
テーマ3の『先端技術が創る都市・東京の未来』では、専門家の立場から佐治氏、沼田氏、清水氏がそれぞれ自動運転車による未来の都市交通の理想型を語った。
佐治氏「今、クルマは、所有からサービス利用へと移行していく流れがある。自動運転と相まってそうしたサービス利用の形態が多くなれば、速度よりも頻度が重要になっていくと思う。つまり、1台のクルマがどれだけ速く目的地へ向かうかよりも、たくさんの自動運転車(クルマやバスやタクシー)がどこかにいて、乗りたいと思ったときにそのうちの1台がすぐに目の前に現れることが大事になる(そうでないと、サービス利用へと移行する変革の意味がない)。それで、そうしたゆっくり走るけれど頻繁に現れるクルマに乗る時間は、その人の仕事時間となり、娯楽時間となっていくはず。すなわち、いままで移動のために使っていた時間を、自分の時間として取り戻せるということ……。自動運転という先端技術は、そんな風により人間中心の世界をつくっていくと考える」
沼田氏「東京は公共交通が発達しているが、道路交通と鉄道交通がバラバラの状態にある。MaaS的な観点でいえば、これらのインフラを利用する人たちが、いかに楽に乗り替えができるかなどをソフト面で考えていくことが大事であると思う。また、道路と駐車場は、都市の面積の4割を占めているといわれている。(先ほど佐治さんがいったように)自動運転化した交通サービスのクルマが普及してたくさん街中を走るようになれば、そういった土地の利用の再配分も必要になっていくだろう(例えば自動運転車の待機場にする等々)。こうした大きな変革は一プレーヤーではできない。産官学が一緒になって考え、着手していくべきだと考える」
清水氏「(佐治さんと沼田さんがいうように)クルマとインフラがつながる先端技術で、新しい都市行動が始まり、新しいライフスタイルができていく。こうした人々の行動に寄り添う理想的な交通デザインを2050年ぐらいまでに実現してもらいたい。ちなみに、これからのシェアリングの時代においては、もうクルマの所有はなくなるかというと、僕は決してそうは思っていない。愛情を感じるクルマの所有も大いにあり得る。そういう多様なチョイスができる交通社会の実現を望みたい」
◎◎◎
現在、「自動運転」時代の到来が喧伝されながら、自動運転に関する一般向けのシンポジウムはあまり開催されていない。今回のシンポジウム開催は、内容もさることながら、そういう意味で非常に貴重な機会といえた。今後もこういう場が重ねて持たれれば、多くの人に自動運転への理解が進み、実用化と普及の速度も早まっていくことだろう。またの開催を待ちたいところだ。
ただ、そのときは専門家の意見を聞くだけでなく、自身も何かしらの具体的なイメージを持って場に臨むべきであろう。そうすれば、よりリアリティのある自動運転による暮らしの変化が掴めるはずだから……。
講演者の沼田氏もシンポジウムの最後にこんなことを言っている。
「実証は2020年ぐらいまでで、そこからはいかに実装していくか、そういうフェーズに入っていくと思う。すなわち、今回、話を聞いていただいた皆さま自身も、自動運転モビリティがどう自分の生活を良くしていくかを考える時期にきているので、どうか自分事としてこのテーマに向き合っていただきたい。そして、そこからのご意見をぜひお寄せいただきたい」
みんなの理想の交通社会は、みんなで創っていかなければならないのである。
(文:みらいのくるま取材班)
東京都主催『自動運転シンポジウム』レポート
(前編)東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて自動運転の動きが急!
(後編)自動運転車が走る都市には人間中心の交通社会ができる!