ルポの最後に、フェスティバルに参加した若い人たちの声を載せておきたい。
興味深かったのは、みんな、口を揃えて「エンジン車もEVも両方大好き」と語っていたことだ。これは、もしかするとニュータイプのクルマ好き・レース好きが登場し始めているということなのか?
〈石川祥吾さん 23歳・整備士〉
「電気カートの“直線番長”ぶりにゾッコン」
〈ERK30分ディスタンスチャレンジ〉のERKリチウムクラスで優勝した『トヨタ東自大 自研部』チームのドライバーを務めた石川さん。学校のOBで、いまはプロの整備士として活躍している。
「もともとエンジン車が好きでこの学校に入りましたが、あるとき自動車研究部で電気カートに乗せてもらったら、エンジンカートとはまったく違う面白さを感じ、即はまってしまいました」
「とにかくトルクがすごい。コーナリングはフツーですが、直線はエンジンカートにはない伸びがある。僕はその直線番長ぶりに惚れてしまったんです(笑)」
「あと、電気カートは排ガスや騒音がないのもいい。なんていうか、クリーンなスポーツっていう感じが強くして、走っていてとても爽やかな気持ちになれるんです」
「今後も電気カートのレースに携わっていくつもり。そして、この経験をベースに、本業の整備士としても、エンジン車だけでなくEVもしっかり整備できる能力を磨いていこうと思っています」
〈美咲さん・会社員/チョコブランカさん・プロゲーマー〉
「油っぽくない電気カートは女子にピッタリ!」
〈ERK30分ディスタンスチャレンジ〉のERK-1クラスで優勝した『Enersys Feat.あわネコレーシング』のドライバー美咲さんとチョコブランカさんは、ともにマンガ『頭文字D』のファンだったことから、カートレースの世界に足を踏み入れた。電気カートに乗ることになったのは、現在所属するチームの「女子カート部」がEVのみでの活動だったからで、その偶然が知らず知らずに大きなEV愛を育んだ。
電気カート女子のチョコブランカさん(左)と美咲さん(右)
「私たち二人ともエンジンカートのことは大好きなんですけど、電気カートに乗りはじめたら、それはそれですごくよくって、すっかり両想いになっちゃいました(笑)」
「電気カートは静かな状態で速く走れて、しかもCO₂をまったくださないエコなところがいいなって思っています。あと、女子っぽい意見になりますが、このきれいなピンクと白のレーシングスーツが油で汚れないところもすごく気に入っています」
「そう、ある意味、電気カートは速さと同時にきれいさを求める女子向きといえるんですよね。世の中のレース好きの女子の皆さん、一緒に電気カートのレース、楽しみましょう!」
〈鷲尾景樹さん 37歳・会社経営〉
「コンバートで新たなGTO愛が芽生えた」
〈何でもEVデモ走行〉に、三菱自動車のかつての名車GTOのコンバートEVで参加した鷲尾さん。もともとエンジン車をメインに扱う整備士だったが、EV時代の風を感じ、最近、EV企画を行うAquilaというベンチャー企業を立ち上げた。
「僕は、いまでもエンジンを積んだGTOのことが大好き。走りの性格が突然変わるあのじゃじゃ馬ぶりに特別の愛情を感じるんですよ」
「でも、EV企画を行う会社を立ち上げるにあたって、一からコンバートEVを自作することが大事と考え、その決意の証として、あえて愛しているGTOを改造することにしたんです」
「この電気GTO、公道を走れるようにするにはまだまだ手を入れる必要があります。ただ、サーキットでなら走行できる状態になったので、今回、テスト走行の意味でフェスに参加することにした次第です」
「走ってみたら、うん、なかなかでした。バッテリーを後ろに積んでリアヘビーの後輪駆動にしたので、まるでポルシェみたいな走りをしてくれた。しかも、EV特有のスムースさの中でそれが実感できた……。まったくもって新しいドライブフィール。なんだか新たなGTO愛が芽生えそうです(笑)」
〈小飼貴広さん 学生・19歳〉
「夢はフォーミュラーEでのメカニック」
〈コンバートEV1時間ディスタンスチャレンジ〉のリチウムイオン電池クラスで3位に入賞したのは『櫻星・東京自動車大学校』チーム。出場車であるスズキTwinのコンバートEVは、学校の先生の指導のもとで生徒たちが製作したものだ。小飼さんはその中の一人。彼はバッテリーを納める筐体(きょうたい)製作や配線を担当した。
「昔から僕はエンジン車のレースの大ファン。でも、このコンバートEVのレースに参加してからは、すばらしい加速をするEVの魅力にもはっきりと目覚め、こっちもいいなあって思うようになりました」
「だから、いま、フォーミュラーEを大きな関心をもって観ています。マシンが音も排ガスも出さないので市街地をコースにできているわけですが、あの非常に狭いコースを高速でバトルするところを観ていると、もうたまらなく興奮するんです」
「これはあくまで夢ですけど、もし、フォーミュラーEのメカニックになれたらサイコーに楽しいでしょうね。こんど日産も参戦するので、何かのきっかけを見つけてそこに潜り込めたらいいなあ、なんて妄想しています(笑)」
〈宮﨑龍之介くん 12歳・中学生〉
「オープンのEVはすごく気持ちがいい」
〈EV・PHEV・FCV試乗会〉で、EVスーパーセブンの助手席に乗った宮﨑くん。父である慎也さんに連れられ、過去に2回、このフェスの試乗会でEV走行を体験してきたのだが、今年、初めてオープンカーのEVの乗り心地を味わった。
「最初にEVに乗ったときは、無音のまますごい加速をするので、ちょっと変な感じがして怖かった。お父さんが乗っているエンジン車のユーノスロードスターのほうがずっといいなっていう感想をもちました」
「でも、今日、はじめてオープンカーのEVに乗ってみて、その気持ちに変化が起きました。音と振動がない中で受ける風が気持ちよくて、すごい開放感が感じられたんです。ときどき父がロードスターに僕を乗せて自然がいっぱいの峠道とかを走るんですけど、もしかしたら、あのときに感じる気持ちよさを超えるかも知れないと思ったほどです」
「だから、エンジン車もいいけど、EVもいいです(笑)。将来、どっちをメインにするかはわかりませんが、父と同じクルマに関係する仕事に就きたいなって思っています」
以上が、フェス会場で拾った若い人たちの声だ。
みんな、もともとエンジン車好きだったわけだが、ちょっとしたキッカケでEVのことも好きになった。そこに「エンジン車か、EVか」というハムレット的な対立は一切なく、スッと自然体でEVを受け入れ、好きなクルマの幅を広げていた。
これは、新しいタイプのクルマ好き・レース好きの胎動が始まっている・・・という気がするのだが、さて、どうだろうか?
なお、このルポの最後に、観客としてきていたNさん(匿名希望 52歳)から、若い人たちが表現し切れなかったEVレースに対する滋味深い意見が聞けたので、それも紹介しておきたい。
じつはNさんは国際C級ライセンスをもつラリースト。これまで国内外で行われるさまざまなラリーそしてレースの世界にどっぷり浸かってきた。今回はじめてEVレースを観戦し、エンジン車レースとは違うある一つの魅力を発見したという。
「EVによるレースは、とてもきれいですね。音も排ガスも出ないクリーンさがあるのはもちろんですが、みんなバッテリーに熱を持たせないように、ガシガシ攻めずに効率よくきれいに走ることを重視していて、そこに大きな特徴を感じました。たぶんEVレースは、きれいに走ることが速さにつながるということなんでしょうね」
「これまでのエンジン車による荒っぽい格闘技的なレースに馴染んできた人は、少しもの足りないと感じるかも知れません。でも、私は、これってありかなって思いました。だって、きれいなドライブを競うのって、なんかクレバーな感じがあって、いいじゃないですか(笑)。そういうのって、時代にすごくマッチしていると思う」
「長らくエンジンとオイルにまみれてきた老兵の私ですけど、いつか若い人にまじって参戦してみたいですね。それが、今後も長く好きなレースを楽しむことにつながっていくような気がしています」
新しい時代の新しい価値観に基づいた、新しいレース。2019年11月3日(予定)に行われる『第25回 日本EVフェスティバル』に足を運び、ぜひその魅力を体感してみてほしい。 (文:みらいのくるま取材班)
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