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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2021年6月9日更新
クルマの市場価格は
10年で約十分の一になる
なぜ、Mさんの愛車の補償額が25万円ぽっちとなったのでしょうか?
答えはとてもシンプルです。Mさんの愛車の市場価格が25万円しかなかったということです。
クルマの市場価格……。これについても以前、少し触れましたが、もう一度解説しておきましょう。クルマというものは、たとえ新車でも、乗りはじめた瞬間から市場価格が下がりだします。そして、年月を経れば経るほどその下落は進みます。たとえば200万円で新車を買ったとしても、10年経てば約十分の一ぐらいにまで市場価格が下がるのが通常で、その時点でクルマの価値は20万円程度ということになるのです。
つまり、Mさんが10年以上乗ってきた愛車に25万円の補償額しかでないというのも、こうした市場価格を基準にして決められたことなので、妥当と見るしかないのです。もちろん、大切に乗ってきたことによるクルマの状態のよさなどは加味される可能性はありますが、そこにMさん自身の愛着心、思いといったような形のないものは反映されることは一切ありません。そう、クルマの市場価格はあくまでモノ=耐久消費財であるということを前提にして決まるのです。
ちなみに、保険会社は、クルマの市場価格=補償額を算出するときには、主にオートガイドという会社が1958年から毎月もしくは隔月で発行している自動車価格月報『Red Book』という冊子に掲載されている数値を参考にします。これは保険会社のみならず、自動車業界、法曹界、官公庁のクルマに関わる仕事をする際に必ず使用するものとなっていて、ある意味、クルマの市場価格を知るための公的バイブルのような存在となっています。ですから日本においては、基本、ここに書かれている価格を大きくはずれた市場価格=補償額はでないのが一般的となっています。
市場価格より修理代が高いと
「経済的全損」扱いになる
さて、次に「経済的全損」とはいったいなんのことかについて解説します。クルマの全損には、大きく分けて二つの種類があります。
①物理的全損
事故などで壊れたクルマが物理的に修理できない状態。
②経済的全損
事故などで壊れたクルマが経済的に修理できない状態。
①はわかりやすいです。クルマがめちゃくちゃに壊れ、修理しても物理的(機械的)に直らない状態であることを指します。
問題は②なのですが……。要はこういうことです。Mさんの愛車の市場価格が25万円だとすると、物理的には直すことは可能でも、100万円近くかけて直すことは経済的にはマイナスになるために、お金をかけて直す価値がないことをいっています。その意味で経済的全損と表現されるのです。
もちろん、Mさんが経済よりも自分の愛着を優先させたいなら、修理する道を選ぶことはできます。しかし、保険会社からの補償はあくまで25万円前後止まりであって、残りの70数万円は自腹ということになるのです。だから、実際にはMさんが新車を購入する道を選んだのは、経済的には正解だったということができそうです。購入のための新たな代金が発生し、かつ幸運と成功の象徴をなくすという大きな代償はあるにしても……。
ということで以上、今回のMさんへの補償額が25万円程度である理由と、経済的全損の意味についてでした。だいたいおわかりいただけたでしょうか?
実は世の中には、Mさんのように永く愛車を乗ってきた人が0対100の事故に遭って、そこではじめて「ぶつかられ損」を知るケースがたくさんあります。そのことに納得がいかず、裁判にもちこむ人だって少なくありません。ただ、上記した理由から、多少の補償額のアップはあるにせよ、あまり芳しい結果とはならないのが現実のようです。残念ながら。
一台のクルマを永く愛し、乗り続けるということは、とてもいいことです。ですが、その尊い行為には、こうした経済的リスクがともなうということも、ぜひ覚えておいてください。
永く愛したクルマが「経済的全損」に。え、どういうこと?〈前編〉
永く愛したクルマが「経済的全損」に。え、どういうこと?〈後編〉
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