Vol.97（前編）風邪薬を飲んで運転して、事故を起こしたら厳しく罰せられる!?

【今回のやっちゃったストーリー】

Nさん（35歳・独身）は中堅企業の地方支社で働く会社員。朝起きたら39度の熱が出ていた。昨日から風邪気味だったのだが、ついに症状が本格化したようだ。

普通の日なら休んでいたが、この日は午前中に自分が座長を務める大事な企画会議があった。会議には東京本社のお偉いさんも出席することになっている。這ってでも出社しなければならなかった。

Nさんは、軽く朝食をとってから薬箱にあった市販の風邪薬を服用した。そして、いつもより上等なスーツを身にまとい、部屋を出て、通勤で使っている10年落ちの古い愛車に乗り込んだ。

「風邪なんて気の持ちよう。大したことないさ」

そう自分に言い聞かせ、会社までの運転をスタートさせた。「ない」と踏んだ大したことは、しかし、その数十分後に起きてしまう……。

会社まであと10分のところで通勤渋滞に巻き込まれた。クルマがノロノロと進む中、Nさんはだんだん頭がボーッとしてきた。まぶたも重くなった。そのせいだろう、交差点の信号が赤になったのを見逃し、そのまま前で停車していたクルマのテールに追突した。

超低速での追突だったので、大きな事故にはならなかった。とはいえ、相手のドライバーは首を痛めた模様。現場に駆けつけた警官は、それを知ってかNさんに少し厳しく原因を問いただした。おののいたNさんは「朝、熱があったので風邪薬を飲みました。熱のせいか薬のせいかわからないけど、運転中に頭がボーッとし、信号が赤になったのを見落としました」と正直に事実を伝えた。

警官はその内容をメモしながら「なるほど、結構危険な運転をされていたわけですね」とつぶやいた。そして、おもむろに顔を上げ、はっきりした口調でこう告げてきた。

「風邪薬の影響で事故を起こしたとなると、もう少し調べさせてもらいますが、もし道交法六十六条の違反となれば罰金と免停の処分が科せられます」

Nさんは、その日、事故のせいで会社の企画会議に穴をあけ、社内の評価を大きく下げた。その上、免停まで食らうことになるかも知れない……。もう踏んだり蹴ったりだった。

「こんなことなら、休んどきゃよかったよ」
「自動ブレーキが付いた新車に買い替えておけば、事故は起こらなかったかもなあ」Nさんの口からは後悔先に立たずの愚痴がいっぱい漏れ出たのであった。

風邪薬を飲んだら
クルマの運転はNG

2024年5月14日、埼玉県内の首都高速道路において、意識をもうろうとさせたドライバーが運転する大型トラックが渋滞の列に突っ込み、5人が死傷（3人死亡）するという悲惨な事故が起きました。

ドライバーはその日に自動車運転死傷処罰法違反（過失運転致死）の疑いで逮捕されたのですが、後日、容疑者は風邪をひいて体調不良だったために、運転前に市販の風邪薬を服用していたことが判明しました。

市販されている風邪薬の多くには眠気や意識の薄れを催す抗ヒスタミン薬が配合されています。そのため、注意書きには「服用後、乗り物または機械類の運転操作をしないでください」といった文言が記されています。件のドライバーは、これを読んでいなかったか無視して運転していたわけです。なんとも恐ろしい話です。

体調不良での運転、そして眠くなる薬を服用しての運転は、次のように法律で禁止されています。

道路交通法
第六十六条　何人も（略）過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。
（違反の罰則：５年以下の懲役または100万円以下の罰金と違反点数25点）

自動車運転死傷行為処罰法
第二条　次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一　アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

前述ストーリーにおいて、Nさんが起こした事故は軽微ではありますが、違法であることに間違いはありません。風邪薬がどの程度運転に影響したかなどを警察が調べた上で判断が下されることになるでしょうが、罰金の支払いと25点の減点（＝免停）という最悪の処罰も覚悟しておく必要があると思われます。

体調不良での運転、眠くなる風邪薬を飲んでの運転は、交通社会においては明らかな違法行為です。絶対にしないよう気をつけましょう。

風邪薬を飲んで運転して、事故を起こしたら厳しく罰せられる!?（前編）

風邪薬を飲んで運転して、事故を起こしたら厳しく罰せられる!?（後編）