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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2024年7月11日更新
ALL JAPAN EV-GP SERIESの第3戦には、2人の注目すべきスマートドライバーが初参戦していた。
表彰台には届かなかった。だが、彼らはともに未来のEVレースのキーマンとなり得る輝きを放っていた。
ネットを介してつくる
格好いいレース用EV
EV-Sクラスにエントリー・参戦していたのはテスラ モデルYのジョー・ジャスティス選手(#5 WIKISPEED)。
彼は10数年前、アメリカのシアトルで、インターネットを介して技術ボランティアの力や資金を集めて燃費のいいクルマを短期かつ安価で開発するWIKISPEEDという画期的プロジェクトを立ち上げた。
その活動は全米から注目され、ニューヨークタイムスなど大手メディアがこぞって取り上げた。本人はあのTEDxの演台にも立っている。
その後、諸事情でWIKISPEEDは急速に影を潜めた。だが、消え去ったわけではない。彼は今、日本人の奥さんとともに日本に住んでいるのだが、最近、日本を拠点に同じ手法でEVのモータースポーツ用カスタムなどを行うプロジェクトに取り組みはじめている。
今回、JEVRAのEVレースに初参戦したのはその事始め。プロジェクトを進めるにあたり、日本のEVレース事情や市場のありさまを肌で感じておきたかったという。レースの順位争いは二の次とのことだった。「そもそも僕は、そんなに速く走れるドライバーじゃないしね(笑)」。
実際、レースは低調だった。予選ではコースアウトするなど13台中11番手。決勝でもモデルYのポテンシャルを生かしきれず総合10位という成績に終わっている。
「この結果でも僕はとても満足。僕にとっての真のゴールはレースとSDGsの融合。日本そして世界の人たちが、時間もお金もかけずに環境に優しいモータースポーツを楽しめる仕組み・流れをつくりあげていきたい。今日は、そのための第一歩が踏み出せた。これ以上のことはないよ」
今回、ジョー選手が走らせたモデルYは大人しいノーマル仕様だった。いずれ、これも世界中の技術とセンスを集結させた格好いいレース仕様車へと変貌を遂げることだろう。その1台がEVレースに投入される日を、楽しみに待ちたい。
大学生の若い感覚が
FCVをもっと進化させる
アキラレーシングは、今回のレースで、EV-Fクラス(燃料電池車両クラス)に従来からの青いMIRAI(#104)と、新しい赤いMIRAI(#105)の2台をエントリーしていた。そして、そのうちの青いMIRAIは、慶応大学自動車部の主将である大久保龍成選手がドライブしていた。
なぜ2台体制なのか、そして、どうして大学生ドライバーを起用することになったのか?
この日、ピットにいるはずの選手兼代表である飯田章選手は急用で不在だった。代わってチームをサポートしているトヨタ自動車の安藤諭氏(水素ファクトリー 水素基盤開発部 部付 技術実証グループ主幹)が疑問に答えてくれた。
――青いMIRAIに加え、新たに赤いMIRAIも投入した理由は?
「青のMIRAIは、足周りはいじっているものの、基本的にはノーマル車。これまでは、ずっとこの1台でレースを戦ってきた。しかし、レースでいい成績をあげるためにはレース用の改造を施したクルマが不可欠。ということで、飯田代表と話し合って、今戦から、これまでの走行データを生かしてレース仕様にした赤いMIRAIを走らせることを決めた。改造は、軽量化とバッテリーの冷却強化が中心。カーボンのボンネットを採用したり、エアの取り入れ口を増やしたりしている」
――レース用のクルマを用意したのに、ノーマル車を続けて参戦させる理由は?
「限界スピードの場における、ノーマル車の走行データを引き続き取りたかったから。そのデータは、都度都度レース仕様車のさらなる改良に活用するとともに、いずれ市販車の開発にも役立てることになる」
――ノーマル車のドライバーに大学生を起用したのは、そのデータ取得と関係がある?
「大いにある。大久保選手は若く、クルマへの理解度も高い。彼の新鮮かつ確かな感覚が、これまで明らかにされてこなかったMIRAIの魅力と問題点を浮上させてくれるものと期待している。それはきっと、多くの若い人たちを惹きつけるFCVすなわちMIRAIの進化へとつながっていくはずだ」
さすがFCVに本気のトヨタである。構え方が半端ではない。
こうした明確な意図がドライバーに伝わったためか、初の2台体制のレースはまずまずの結果となった。青のMIRAIをドライブした慶大生の大久保選手は、レース用の改造を施した赤いMIRAIよりも上位となる総合6位でフィニッシュしている。
以下は、大久保選手が初EVレース後に語ってくれたすがすがしいコメントである。
「初めて運転したMIRAIは想像していた以上にスポーティなクルマだった。自動車競技好きの僕としては、カーボンニュートラルの時代であってもモータースポーツが伸長していく可能性が感じられてすごく嬉しくなった」
「レース結果の6位には満足していない。走行中、アクセルを多く踏んだらバッテリーの温度がどれくらい上がるのか、回生を効かせ続けるとどれくらい充電するのか、そして、それにどう対応すればいいのかなど、チェックに頭がいき過ぎて攻め切れない部分があった。実はクルマがものすごく賢くできていて、あまり神経質になる必要がなかったのに(苦笑)」
「ただ、総体的に初のEVレースはとても楽しかった。単にクルマの速さを競うだけでなく、ドライバー同士がお互いのクルマのバッテリー状況などを読み合って走る頭脳戦の部分もあり、そこに独自の面白みを感じた。次は最終戦の筑波で走る予定。そのときはもっと攻めて、より上位でのフィニッシュを目指したい」
JEVRAのALL JAPAN EV-GP SERIESは、リザルトだけではわからない魅力にあふれている。取材班は、そうした魅力の数々を追い、積極的にレポートしていく所存である。乞うご期待!
ALL JAPAN EV-GP SERIES 2024 第3戦レポート
(前編)モデル3 RWDの“貴公子”モンド選手が初のポールポジションを獲得!
(後編)モデルSプラッドのKIMI選手が悠々と3連勝し年間総合チャンピオンに王手!
(付編)未来に向かって走るWIKISPEEDと慶応大学のスマートドライバー!
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