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BookReview(53)『ドライブイン探訪』―昭和レトロなドライブイン。その魅力の真髄に迫るノンフィクション

2024年9月12日更新

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いまは密かな昭和レトロブーム。ドライブイン人気もそのひとつだ。

この本は、一見、そうした流行を当て込んで書かれたガイド本かと思えるが、そうではない。

本書には既に廃業した店を含めた22軒のドライブインが掲載されていて、そこのオーナーの趣味や意向に沿った独自の店構え・メニュー・サービスなどが一通り紹介されている。そういう意味では、ガイド的な側面はあるにはある。

しかし、主題はあくまでその店固有の歴史と文化の紹介。時代や地域特性を背景とした各店の成り立ちをノンフィクション形式でじつに丁寧に描いている。

ファミレスにはない滋味深さ

著者はなぜ、こんな一風変わったドライブイン本を書くに至ったのか。

ファミレスやファストフード店隆盛のなかで生きてきた1982年生まれの著者は、長じるまでドライブインなるものにはまったく接点がなかった。ところが、ある日、原付カブで九州をツーリングしている最中に鹿児島の道路沿いにある奇妙な店に遭遇し目が離せなくなった。それこそが、いままで一度も入ったことがないドライブインという形態の飲食店だった。

そのとき著者はこんな風なことを思ったという。

〈日本全国に点在するドライブインは、一軒、また一軒と姿を消しつつある。でも、今ならまだ営業を続ける店が残っていて、話を聞くことができる。なぜドライブインを始めたのか。どうしてその場所だったのか。そこにどんな時間が流れてきたのか。そんな話をひとつひとつ拾い集めれば、日本の戦後史のようなものに触れることができるのではないか〉

勘は当たった。実際に取材してみると、想像していた以上に知的興奮を催すヒストリーやナラティブ、エピソードがいっぱいだった。それらを書き残すことは、没個性な現代において非常に重要な行為であるとはっきり認識できた。

たとえば、一番最初に気を引いた奇妙なドライブインの『ドライブイン薩摩隼人』(鹿児島県)。そこは1960年代に鹿児島市内で『軍国酒場』を繁盛させたことがある老オーナーが営む店で、いまも軍服を飾るなどの独自の雰囲気を醸しているのだが、そのオーナーの発する言葉がすこぶるいかしていた。
〈「今はな、民主主義を知らん人が多いよ」。貞美さんはそう切り出す。「人は皆、それぞれ考えが違うでしょう。違う考えを尊重する、それが民主主義よ。でも、今は違う考えを持っとる人を否定するでしょう。それではいかんわけよ。そうすると争いが生まれる。『軍国酒場』をやりおったけど、右翼でも国粋主義者でもないわけよ。戦争はいかん。もし戦争が起きれば私は逃げますよ」〉

こうした話を聞きながら飲む黒糖たっぷりのコーヒーの味は格別。いまのファミレスなどのコーヒーには絶対にない滋味深さのようなものが堪能できるのである。

何度もいうが、この本はガイド本ではない。

ただ、これを読んだうえで、掲載されているドライブインを巡るドライブを行えば、きっと表層的なガイド本に従ったドライブよりも相当に味わい深い体験ができるはず。ぜひトライをオススメしたい。

BookReview_53_2

『ドライブイン探訪』
・2022年7月10日発行
・著者:橋本倫史
・発行:筑摩書房(ちくま文庫)
・価格:990円(税込)

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