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BookReview(49)『酷道大百科』―酷い国道にギャップ萌え。これまでにない面白ドライブへの誘い!

2024年3月5日更新

BookReview49_1

日本には国道が459本ある。

そのうち53本は「酷道」だ。

酷道とは、対向車とすれ違えないほど狭かったり、落石や木の枝がたくさん落ちていたり、生命の危険を感じる断崖があったりする酷い状態の国道のこと。

本書は、普通の国道とは大きく異なる点に“ギャップ萌え”を感じた著者による酷道のガイド本である。

「酷い」は「楽しい」

この本には、日本にある酷い国道=酷道53本すべてが写真と短文で紹介されている。

落石だらけの酷道、杉の枯れ葉が敷き詰められた酷道、ガードレールのない崖に沿った酷道、大型車は通行できない酷道、獣の侵入を防ぐためにゲートで閉じられた酷道、道の上を川が流れる酷道、人しか通れない階段がある酷道、アーケード商店街を貫く酷道……etc.

いずれの項でも、その酷さをこれでもかとあげつらう。だが、筆致はどれもユーモアたっぷり。そこには酷道に対する深い愛情のようなものが感じられる。

例えば、国道157号線の紹介文はこんな感じ。

〈ドライブしているだけで生命に危険が迫る。そんなエキサイティングな国道が、日本に実在していた。岐阜県と石川県を結ぶ国道157号線だ。「天下の酷道」として、全国にその名を轟かせている〉

〈岐阜県側からスタートし、最後の集落が近づくと、道幅は一気に狭くなる。そして突然、目の前にオレンジ色の看板が現れた。「危険 落ちたら死ぬ!!」 見る者を恐怖のどん底に突き落とす、トラウマ級の看板だ〉

〈その先は、本当に落ちたら死ぬ道が続いていた。道幅は狭く、ガードレールのような軟派なものは存在しない。一瞬の判断ミスにより、遙か崖下へ転落する。運転中も、常に死の恐怖がつきまとう〉

〈酷道を何時間も走り続け、久しぶりに民家が見えてきた。その先には、なんとコンビニまである。命からがらコンビニに吸い込まれる。生きているって、素晴らしい。死の道にして、生きる喜びが実感できる国道。それが157号だ〉

そう、酷いは楽しい。酷道を走るという行為は、見方さえ変えれば、苦しみではなくなり、魅力的な探査、冒険の一種となる。この本は、読者にその魅力を説き、これまでにないドライブの楽しみ方を提案しているのである。

なお、本書の巻末には、酷道を行くときにはどんなクルマが適しているかが紹介されている。

そこでは、まず、隘路でも悪路でも安心して走れるクルマとしてスズキのジムニーが筆頭候補に挙げられるわけだが、では、それが最も適していて面白いかというと、そうでもないという。

案外、ホンダのフィットやトヨタのプリウスなど、悪路に向かない一般の乗用車こそが酷道を走るに最適なクルマかもしれないという。

詳しい理由は本書で確かめてもらいたいのだが、要は酷道を面白がり楽しむためには、普通とは異なる心根とそれに伴う準備が大切ということ。著者を真似てドライブするなら、根底から価値観を変えておく必要があるのだ。

BookReview49_2

『酷道大百科~激狭、断崖、未舗装…愛おしい「国道」全53本』
・2023年2月15日発行
・著者:鹿取茂雄
・発行:実業之日本社
・価格:1,980円(税込)

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