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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2024年2月8日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
自分のクルマが欲しくてたまらなかったGくん(21歳・会社員)。
ある日、叔父さんから、次の車検まであと半年の、10年落ち20万㎞の国産セダンをタダで譲ってもらった。
「古いし、距離もいってるけど、いいクルマだぞ。とにかく壊れない。この10年、点検整備をやったのは2年に一度の車検のときだけなのに、1回も大きなトラブルが起きてない。だから、安心して乗りなさい。そして、いろんなところに行って青春を謳歌しなさい」
言われるまでもなく、Gくんはクルマが自分のものになってすぐに週末ドライブを楽しみはじめた。海、山、人気スポットなどなど、気になるところを次々と制覇。そこに行かなければ味わえないスペシャルな喜びを満喫していた。
「やっぱクルマがあると世界が広がる!叔父さんに感謝だぜ!」
が、そんな順調なカーライフも長くは続かなかった。3カ月目のある週末、高原からの帰り道を走行中、下りの左カーブ手前で急にブレーキが利かなくなったのだ。
クルマはセンターラインを越えて崖際のガードレールに向かってまっしぐら。Gくんは必死にハンドルを左に切り、なんとかガードレールへの正面激突とそれに伴う崖からの落下を回避した。しかし、フロント右サイドがガードレールに接触し、その後、反対側の岩壁にリアがガツンとぶつかりようやく停止した。
割とゆっくり走っていたのがよかったか、奇跡的にGくんは無傷で済んだ。だが、哀れクルマはベコベコになってしまった。
「ああああ」
悲劇はさらに続く。
Gくんは、現場に駆けつけた警官に、事故は自分の運転ミスからではなく、突然ブレーキが利かなくなったからであることを伝えた。すると警官はひととおりクルマを見た後にこう言った。
「タイヤもブレーキパッドもまだ大丈夫そうだし、ブレーキ液の漏れもないから、ブレーキ液の劣化によるベーパーロック現象が起きたのかもしれない。そうだとしたら、整備不良ということになる……整備不良は交通違反なんだよね」
それだけではなかった。保険を契約している代理店に連絡を入れて、事故のあらましと警官の発言を伝えたところ、担当者はこう言った。
「もし整備不良が原因の事故だとしたら、ガードレールを直すための対物保険は下りるにしても、クルマの修理代を補償する車両保険は出ない可能性がありますね」
叔父さん、このクルマ、ぜんぜん駄目じゃん!
ブレーキ液内の気泡が
制動力を弱めてしまう
警官が話していたベーパーロック現象とは何か。
ブレーキ液の圧力不足で制動が効かなくなる現象のことです。
一般的な乗用車のフットブレーキは、ブレーキペダルを踏む力がブレーキ液(ブレーキフルード)に伝わり、その圧力でブレーキパッドを動かしてディスクローターの回転を止めることで制動する仕組みになっています。
ところが、坂道を下っているときなどにブレーキを過度に使いすぎると、ブレーキパッドとディスクローターとの摩擦熱が高まり、接しているブレーキ液が沸騰して気泡ができ、制動できなくなることがあります。気泡がブレーキパッドを動かす圧力を弱めてしまうからです。
このベーパーロック現象は、ブレーキ液が劣化しているとさらに起こりやすくなります。
もともと吸湿性があるブレーキ液は、劣化するとより多くの水分を吸収しがちとなります。こうなると本来よりも低い温度で沸騰して気泡ができ、いつもならなんでもないはずのブレーキ頻度でも、ベーパーロック現象が発生することがあるのです。
Gくんの事故も、おそらく、ブレーキ液の劣化がもたらしたベーパーロック現象によるものと推測ができます。
通常、ブレーキ液は1~2年ごと、あるいは走行距離2万㎞前後での交換が推奨されています。クルマの元の持ち主である叔父さんは、2年に1回の車検のみで、その間の法定点検は受けていませんでした。Gくんが叔父さんからクルマを譲り受けたのは車検まで半年という時期であり、その時点でブレーキ液の劣化は進んでいたのでしょう。
なお、制動装置などの整備不良で取り締まりを受けると、違反点数2点・反則金9,000円(普通車)の罰則を受ける可能性が出てきます。また、そんなクルマで事故を起こした場合、ドライバーのケガなどを補償する人身傷害保険や、自車の修理費用を補償する車両保険が適用されない可能性も出てきます。
整備不良で事故を起こさないためには、ドライバー自身が行う日常点検と、より専門的にクルマの状態をチェックする法令点検の実施が必要です。後編では、そのあたりについて改めて解説します。
ブレーキ液の劣化による事故で散々な目に。法定点検は毎年受けよう!(前編)
ブレーキ液の劣化による事故で散々な目に。法定点検は毎年受けよう!(後編)
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