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2023年12月4日更新
武蔵精密工業株式会社は、パワートレインと足回りの部品開発・製造に強みを持つ世界トップクラスの自動車・2輪車部品メーカーだ。
同社の部活動のひとつにEVモータースポーツ部があり、2021年からJEVRA(日本電気自動車レース協会)のALL JAPAN EV-GP SERIESというEVレースに参戦を続けている。
参戦車両は古いシビックのコンバートEV。戦績は当初こそ振るわなかったものの、改良に改良を重ねた結果、今や同等のモーター出力の車両をぶっちぎる速さを見せている。
なぜ、手づくりのコンバートEVがこれほどまでに速く走れるようになったのか――。今回、愛知県豊橋市にある武蔵精密工業の本社を訪ね、そのあたりのことを関係者に直撃した。
まずは、武蔵精密工業がどのような会社で、どんな理由からEVモータースポーツ部が活動するに至ったのかをお伝えする。
100周年に向けた決意
1938年に創業した武蔵精密工業は、2038年に100周年を迎える。
現在、それを踏まえて同社は「Go Far Beyond! 枠を壊し冒険へ出かけよう!」というビジョン(ムサシ100年ビジョン)を掲げている。
ビジョンに込められた想いは次のようなものである。
◎100周年を迎える2038年までにはCASE(C=コネクテッド、A=自動化、S=シェアリング、E=電動化)が進むなどして自動車産業は大きく変わる。
◎現在、ガソリンエンジン車用の部品製造を主としている自分たちは、生き残りを賭けて変化に対応していく必要がある。
◎それを遂行するためには、従来の枠組みにしがみつくことなく、「Go Far Beyond! 枠を壊し冒険へ出かけよう!」の精神で、新たな分野の事業にも果敢に挑戦してゆくことが不可欠だ――。
武蔵精密工業は、CASEをはじめとした自動車業界の大変革に真正面から立ち向かう覚悟を持っているのである。
枠を壊し続けて
成長を遂げてきた
もっとも、こうした果敢な姿勢は今にはじまったものではない。
同社の歴史自体が枠を壊す冒険の連続だった。
社の広報を担当する小久保秀善氏(人事部所属)は次のように語っている。
「弊社は、1938年に東京で創業して航空機産業に携わっていました。しかし、1945年の終戦で航空機の需要が衰退したことから、持てる技術を活かしてミシン部品の製造に乗り出しました。そのときつくっていた天秤カムは高い精度を誇り、全国65%のシェアを占めるまでになりました」
「そんな実績を重ねる中、ホンダの創業者である本田宗一郎氏が弊社のカムに注目し、自社の二輪部品に使いたいとのオーダーをいただき、1956年からは2輪部品の生産をしてきました。世はモータリゼーションの急成長期。弊社は、これを機に二輪用部品だけにとどまらず、その後、四輪用部品の製造にも乗り出していきました。つまり、ミシン部品の製造メーカーから、自動車部品メーカーへと大きな転身を果たしていったのです」
「現在、弊社は世界14カ国36拠点で自動車部品を製造し、国内外の自動車メーカーに製品を納めるまでになっています。これは、常に自社の枠を壊して時代に即した冒険をし続けた結果ということができます」
そう、「Go Far Beyond!」 は武蔵精密工業のDNAから発したビジョンといえるのである。
意義ある冒険としての
EVモータースポーツ部
同社の「Go Far Beyond!」の具体的な動きは、すでにはじまっている。
例えば2輪の分野では、2023年9月に新合弁会社設立の記者会見を実施し、インドの二輪メーカー向けにe-Axel(ギヤボックスとモーターによって構成されているユニット。EVに求められる小型・軽量・静粛性を兼ね備えている)の製造・販売にむけ動き出している。このe-Axel搭載のバイクは2月からインドで販売予定となっている。
このほかにもEV向けにデファレンシャルアッセンブリィやボールジョイントなどの製造、販売も行っているが、小久保氏によれば、二輪・四輪のEV化が進む中で、今後も必要となるさまざまな部品の製造も手がけていく予定だという。そのための研究開発は多方面でスタートしているようだ。
「実は、今回取材いただくEVモータースポーツ部の活動も、そのひとつに位置付けられます。『レースは走る実験場』といいますが、その言葉どおり、彼らのレース参戦がいずれEV用の高性能部品の開発製造につながるものとして期待されています。彼らの活動が自由な部活動であるにもかかわらず、会社が全面的に支援しているのはその何よりの証左です」
「ちなみに、弊社はかつてホンダの二輪レース用マシンにギアを提供し、2009年シーズンから2021年シーズンまでは二輪レーシングチームのHARC-PROのスポンサーもしていました。もともと社内にはレーシングスピリットがあふれています。EVモータースポーツ部をバックアップするに至った経緯は、そうした企業風土も影響していると思います」
武蔵精密工業にとってEVモータースポーツ部の活動は、自社の方向性とカラーに即した意義ある冒険のひとつとなっているのである。
武蔵精密工業「EVモータースポーツ部」の挑戦
(前編)「Go Far Beyond!」EVレース参戦は会社の枠を壊す冒険のひとつ
(中編)疾れ若き部員たち! 将来の電動車部品づくりを担う人材となれ
(後編)目指せ表彰台! 理想は小さなパワーでテスラ車に打ち勝つこと
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