今月の達人
沼津中央自動車・今野秀明[第1回]
ロータスクラブは2007年に「ロータス環境宣言」を行った。これを機に、全国の自動車整備工場をリードして環境活動を推進してきた。
そんなロータスクラブの中でも、静岡県沼津市で自動車販売・整備を営む沼津中央自動車株式会社(以下、沼津中央自動車)は、環境活動に全社をあげて取り組み、成果を挙げている会社として知られている。2010年に環境省が主導する「エコアクション21」の認証を取得し、以後この活動を継続。2022年には、日刊自動車新聞主催の「整備事業者アワード2022 環境対策部門」を受賞し、「SDGs行動宣言」を行った。
今回の「達人に訊く」コーナーでは、同社社長の今野秀明(いまの ひであき)さんに環境経営とSDGsについてうかがった。第1回目は会社の成り立ちと初期の環境への取り組みについて――。
「誠心誠意は万事に通ず」
――まず、会社の成り立ちから教えてください。
今野 1946年に私の父である今野嘉男が、蒲原町(現静岡市)に今野エンヂンという自動車整備工場を構えたのが最初です。父は第二次世界大戦中にインドネシアのスマトラ島に出征しています。そのときに車両整備の技術を身につけており、日本に帰還後、自動車整備の仕事をはじめたんです。その後、1954年にこの沼津に拠点を移して、沼津中央自動車として法人を設立しました。
蒲原町で創業した今野エンヂン
――当初から経営は順調だったのですか?
今野 ええ、順調だったようです。腕がいいというのもあったんですが、沼津では開業してすぐに、地元の大きなパン屋さんのトラックを点検・整備する仕事を請け負えたことが大きかった。そのパン屋さんはこの地域のすべての小中学校に給食用のパンを納めていたので、2トントラックなどを数十台所有しており、父はそれらの点検・整備をすべて任せられたんです。
――どんな経緯だったのでしょうか?
今野 当時は、まだ食糧事情があまりよくありませんでした。父は、パン屋さんの社長さんから「お腹を空かせて給食の時間を待っている子どもたちがたくさんいる。時間に遅れないように給食のパンを届けられるように協力してほしい」と言われたそうです。というのも、そのころのトラックはすぐにオーバーヒートして停まったり、故障したりしたからです。それで、独自の整備体制を敷いて対応していました。
――それは、どんな整備体制だったのですか?
今野 前もって故障を防ぐために、当時としては珍しい予防点検・整備を励行していました。その結果、ほとんど故障が起きず、子どもたちの待つ給食に、常にパンを無事に届けることができました。ちなみに、今、私たちの会社ではお客さまに定期点検の入庫を積極的に促しているんですが、これも父の取り組みのDNAが息づいている結果といえます。
――お父さまは、ある意味、公的な使命感を持って仕事をされていたわけですね。
今野 それは多分にあると思います。父は誠心誠意を尽くして仕事をすることをモットーにしていました。実際、後年には「誠心誠意は万事に通ず」という言葉を社是に掲げています。同時に、人や地域のためになる仕事の大切さを強く意識し、それに携わることに誇りを持っていました。わが社の現在のコンセプト「人・車・地域の未来をサポート」は、父の想いを反映したものです。さらに言えば、その想いは現在のわが社の環境への取り組みの原点ともなっています。
父の絶対の教え
「廃油はきちんと処理しろ」
――ご自身の社長就任は1997年のこととうかがいました。そのときから環境への取り組みを始めたのですか?
今野 いえ、そうではないです……。実を言うと、私は会社を継ぐ予定じゃなかったんですよ。跡継ぎだった長兄が病死し、すぐ後に父が倒れ、私は41歳にして社長にならざるを得ないことになった。なので、社長就任からしばらくは、社業を維持するのに精一杯でした。
――2006年に整備工場に廃油を含む排水を浄化する油水分離槽システムを導入し、翌2007年には中部運輸局静岡支局から「環境に優しい自動車整備工場等の顕彰」を受けられています。このあたりからでしょうか?
今野 そうですね。もともと地域に迷惑をかけない整備工場として、「絶対に廃油を川に流さない」という父の教えがありました。そこに、新しい油水分離槽システムの話が伝わってきたので導入したのです。そして、2007年の「ロータス環境宣言」。私も国立京都国際会館にいて、気持ちの高ぶりを感じました。それで、まず取り組んだのが「環境に優しい自動車整備工場等の顕彰」です。まあ、その当時は必要な項目を記入して申請すれば通してくれる感じだったので、環境活動に熱心に取り組んだというレベルではなかったかもしれません。
――では、環境活動に熱心に取り組み出したのはいつからでしょうか?
今野 2008年に、ロータスクラブの静岡県支部が始めた「エコキャップ回収運動」に参加したことがきっかけになりました。本当に小さなアクションなんですが、これなら自分たちにもできるエコ活動かもしれないと思い、スタートさせました。やってみたら、改めて企業が地域や環境に貢献することの大切さに気づかされました。エコな整備工場、エコなお店としてさまざまな活動を積極的に推進していくようになったのは、そこからです。2010年の「エコアクション21」認証取得も、2022年の「SDGs行動宣言」の実施も、すべてはこのエコキャップの回収から始まっているんです。
[第1回]創業者の「地域に貢献する整備工場」への想いが、「環境に優しい整備工場」につながっています。
[第2回]誰でも無理せずできる「エコキャップ回収運動」が、私たちの環境への取り組みの原点です。
[第3回]スキャンツールを活用した「エコ整備」を実施。お客さまも大満足です。
[第4回]「エコアクション21」によって中小企業でもできる環境経営を実践しています。
[第5回]環境活動に取り組む“想い”をお客さまに伝えるコミュニケーション活動は不可欠です。
[第6回]地元愛を込めた「SDGs行動宣言」。お客さまとともに地域と地球の環境を守ります。
お店紹介
沼津中央自動車:1946(昭和21)年、今野嘉男氏(現社長の父)が静岡県蒲原町(現静岡市)にイマノエンヂンを創業。1954(昭和29)年に現所在地の沼津市に移転し、沼津中央自動車株式会社として法人設立。地域に貢献する自動車整備工場として発展する。1977(昭和52)年に全日本ロータス同友会(ロータスクラブ)に加盟。自動車販売事業では、2001(平成13)年に「スズキアリーナ沼津大岡」を開店。1997(平成9)年に今野秀明氏が社長に就任した後、2000年代から会社をあげて環境への取り組みを推進。2010(平成22)年に環境省の「エコアクション21」の認定を取得し、2022(令和4)年には日刊自動車新聞の「整備事業者アワード2022 環境対策部門」を受賞、また「SDGs行動宣言」を行った。
住所:静岡県沼津市大岡二ツ谷町1553-1
電話:055-963-1061(代)
HP:https://www.numazu-chuo.com