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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2022年12月8日更新
【今回のやられちゃったストーリー】
短大を卒業して地元の小さな商社に就職したPさん(20歳、女性)。通勤の足として、父の古いクルマを使わせてもらっている。まだ免許を取ったばかりで運転は未熟だが、毎朝毎夕、1時間に1本しか走っていないバスにぎゅうぎゅう詰めにならずに済むので、非常に助かっている。
Pさんは仕事にも慣れていないので、1日の勤務が終わるといつもヘトヘト。帰路はクルマでコンビニに立ち寄り、スイーツを買って車中でひと休みするのを習慣にしていた。
「あー、おいしい。今日も頑張ったご褒美ね」
ささやかな楽しみが、仕事のモチベーションにつながっていたのである。
そんなある日、父のクルマを運転中の帰路で、思わぬ厄災が降りかかる。いつものようにコンビニの駐車スペースにクルマを駐め、車中でスイーツを食べ終えたPさん。さあ帰ろうと、エンジンをかけバックの態勢に……。両側にクルマが駐まっていたため後方確認がしにくく、バックミラーだけを頼りに、ゆるゆるとクルマを動かした。
と、バックミラーに突然黒い影がよぎり、「ワッ」という叫び声が響く。驚いたPさんは、即座にブレーキを踏み、後ろを振り向いた。そこにいたのは、40歳ぐらいの小太りの男。身をかがめて地面から何かを拾った後、こちらをジロッとにらみ、どら声で怒鳴り出した。
「おい、お嬢ちゃん、いきなりバックしちゃ危ないだろ。人がいるんだよ。ほら、びっくりしてスマホを落として、壊れちゃったじゃないか」
恐る恐るウインドウを下げて顔を出し、男が突き出した手元のスマホを見ると、確かに画面が割れている。Pさんは思わず「ごめんなさい。ちゃんとバックミラーで後ろを見てたんですけど……」と謝罪の言葉を口にした。
それを聞いた男は、少しニンマリしながら、こう続けてきた。
「あんたのクルマに付いているドライブレコーダーは前しか映さないようだからオレの姿は映ってないだろうが、オレは店から出て、自分のクルマのほうに行こうとここを横切っただけなんだよ。駐車場では普通にある行動だ。なのに、あんたはろくに確認もせず、急にバックしてきた。完全な後方不注意。今回はスマホが壊れただけで済んだけど、ケガでもしたら大変なことになってたよ」
そして、お金の要求をしてきた。
「でも、まあ仕方ないか。初心者マークが貼ってあるくらいだから、あんた、運転に慣れていないんだろう。大目に見てやるよ。だから、そうだな、1万円出しな。それだけあれば、なんとかスマホを修理できるから」
Pさんは一瞬、警察に事故の連絡を入れることを考えた。また、「自動車保険」という言葉も思い浮かんだ。だが、非接触なのに事故というのもなんだか変な気がしたし、保険は父が入っているものなので、何をどうすればいいのかまったくわからず、考えがまとまらなかった。そもそも半ばパニック状態だったため、ただただ「ごめんなさい」を連発するだけだった。
結局Pさんは、男の要求を受け入れた。普段から何かあったときのために常に財布に入れていた1万円札を、「すみませんでした」と言いながら男に手渡したのである。
ああ、Pさん。それは完全に間違った対応です。男は当たり屋だった可能性が大なのに!
当たり屋という
昔ながらの犯罪
当たり屋は、昔から存在しています。
彼らは罪のないドライバーが運転するクルマに故意にぶつかって被害者を装い、「ケガをした」だの、「モノが壊れた」だのと噓を言って、お金(示談金)をせしめる不届きな輩です。
言うまでもなく、これは明らかな犯罪行為であり、お金をだまし取れば詐欺罪、相手を脅してお金を払わせれば恐喝罪に問われます。
被害者からの通報がないことも多く、はっきりした発生件数は不明ですが、今も毎年、全国でかなりの数の当たり屋事件が発生している模様です。ちなみに、「当たり屋」とインターネット検索してみると最近の検挙報道などがずらっと出てきます。
ドラレコ普及で
非接触系が出現
当たり屋行為には、クルマ対クルマ、クルマ対自転車、クルマ対歩行者など、さまざまなパターンがあります。
ですが、交通弱者である歩行者として被害を装うのが最も効果的なため、昔からクルマ対歩行者の事件が多発しています。
このパターンでの当たり屋は、クルマが発進したときや狭い路地を走っているときなど、ケガをしにくい低速走行時を狙って体を接触させてきます。それで、ケガをしたとかモノが壊れたと偽り、お金をせしめるわけです。映画やテレビドラマでも、非常によく見かけるシーンです。
ただ、近年はドライブレコーダーが普及してきたことから、こうした昔ながらの当たり屋行為はずいぶん減ってきています。彼らはクルマにわざと接触するところを映像で記録されるのを嫌い、この手法を遠ざけるようになっているのです。
しかし、安心はできません。なぜなら、ドライブレコーダーの隙をつく新たなやり口の当たり屋が出現しているからです。
それが、非接触系の当たり屋。典型的なやり口は、以下の三つです。
●後方を映すドライブレコーダーが付いていないクルマが駐車場でバックし出したときに、リアのボディを手で素早く叩いて体に接触したふうを装い、ケガをした、あるいは所持品が壊れたと偽る。
●同じく後方を映すドライブレコーダーが付いていないクルマが駐車場でバックし出したときに、偶然通りかかったふりをして「急にバックしてきたので驚き、持っていたモノを落として壊した」と偽る(前述のストーリーに登場したパターン)。
●狭い十字路などで歩行者あるいは自転車で待ち伏せ、不用意に曲がってきたクルマに驚いて転んだふうを装ってケガをした、あるいは所持品を壊したと偽る(前方を映すドライブレコーダーに映像が残る可能性が高いが、巧妙に演技してごまかす)。
※補足:上記のいずれにおいても、目撃者を装ったサポート役の仲間が登場することがあります。それによって、「目撃者がいるから、あんたの運転が悪いのは間違いない」と噓に真実味を持たせるのです。
これらのやり口では、かつての当たり屋行為ほどにはたくさんの金をだまし取れませんが、金額が少ないゆえにドライバーの中にはその場で言われるがままに示談金を渡して示談してしまうという人もいるようです。
しかし、そうした行為は、当たり屋のさらなる犠牲者を増やすだけで決して良い結果は招きません。
多くのドライバーは、駐車場や路地に当たり屋がいるとは思っていないでしょう。でも、ほんの数パーセントでもよいので、当たり屋の存在を意識しておくべきです。それが、彼らにつけいる隙を与えない第一歩となります。
どうか、気をつけてください。
「非接触系の当たり屋」にご用心!(前編)
「非接触系の当たり屋」にご用心!(後編)
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